金沢賢『ハイ・ボルテージ』について
秋田書店、チャンピオンRED、
2024年11月号、(発売は、2024年 9月19日)に掲載された、
金沢賢氏による、読切の漫画、『ハイ・ボルテージ』について。
少し、私の感想を述べたいと思います。
01.対立した考えが存在する、超人界
この作品のテーマは、「超人」です。
どこかに、現実の人間界とは別の、超人界がありました。
そこは、主に、以下の二つの考えが存在し、
拮抗していました。
人間は、優しさや愛といった人間性を棄て去る事で、真の超人に目覚める事が出来る、と考えている、強硬派。
人間は、友情や、人を想う気持ち、つまり、人間性によって、真の超人に目覚める事が出来る、と考える、穏健派。
ある時、穏健派の、ジョバンニの思いは、退けられ、
強硬派のファントムの、人間性排除計画が、動き出してしまいます。
実は、人間界の争いは、この人間性排除計画が、元になって、起こされていました。
02.人間界に暮らす、トキオ
何も知らないままの人々が暮らす、人間界。
亀山ボクシングジム所属の、時田トキオ。
彼は、ミドル級世界王者という、栄光を手に入れます。
その陰には、亀山トレーナーや、後輩達の存在がありました。
ある時、彼は、謎の、岩のような皮膚をもつ男に、虐げられている、
亀の、ジョバンニに出会います。
トキオは、このジョバンニを救う事で、超人の能力に目覚めます。
トキオのもつ、悪を許さない、正義の思いが、ジョバンニに認められたのです。
(この辺の展開が、なぜか、『ジョジョの奇妙な冒険』第4部の序盤の展開を、イメージさせました)
しかし、それは、トキオにとって、悲劇の始まりでもありました。
03.親友のアランが、悪の手先に…
トキオの親友であり、ライバルである、アラン・ケイ。
アランは、ボクシングの三階級世界王者の実力者でした。
奇しくも、トキオとのボクシングの試合の前夜、
彼は、ファントムに目をつけられ、操られてしまいます。
超人となって、トキオの命を狙う、アラン。
彼に対して、トキオは、変わらぬ友情を持ち続ける事が出来るのか、
その裏にいる、ファントムを討つ事が出来るのか、
という、シリアスな展開になるのが、面白かったです。
04.意欲作だが…
超人という要素は、やはり、『キン肉マン』からだろうか、と思わせたり、
絵柄が、『ジョジョの奇妙な冒険』の第一部などを思わせるものだったり、
主人公とライバルの関係が、『天空戦記シュラト』の、シュラトと、ガイみたいだな、と思わせたり、
サポートキャラの亀のジョバンニが、『カードキャプターさくら』のケルベロスっぽいな、と思わせたり、
特定の読者の好みを狙っているのかな、と思わせる部分も、よかったです。
しかし、作品としては少し、物足りない部分もありました。
この作品の黒幕は、ファントムという、謎の男です。
ファントムだけに全て、悪の行為を集中させているのが、少し、単純ではないか、と思いました。
トキオの視点が合わさるのは、どちらかというと、
ファントムではなく、アランです。
アランにも、何か、悪の要素があった方が、話が盛り上がったのではないか、と思います。
たとえば、アランが、より強くなりたいがために、
ファントムの悪の部分に共感してしまうとか、
周囲の人間を犠牲にしてしまう、などのシーンがあれば、
アランが、悪のイメージを纏う事が出来たのではないかと思います。
アランの存在が、トキオと、あまり、大差がない、善人でしかない、というのは、
二人の戦いが起きる意味合いが弱く感じました。
トキオにしても、出て来る相手に、誰にでも勝ってしまうのではなく、
一度、アランに、こっぴどく敗北するシーンがあれば、
アランとの戦いが意味深く見えたのではないか、と思います。
(それだと、『ジョジョ』第1部そのものになってしまうのか…)
それでも、全体として、頑張っているな、という作品でした。