間千里『白亜漂流紀 後編』について
秋田書店、チャンピオンRED、
2024年11月号 ( 9月19日発売)に掲載された、
間千里氏の、読切の漫画、
『白亜漂流紀 後編』について、
私の感想を語りたいと思います。
この作品のテーマは、「タイム・スリップ」です。
それぞれの時代から、
白亜紀時代にタイム・スリップした、
粲(さん) - (古代中国王朝時代)
ミリィ - (?)
パウロン - (古代ローマ時代)
鳶丸 - (日本の戦国時代)の四人。
(昔、さまざまな時代の英雄などが一堂に会して、戦う、『ワールド・ヒーローズ』というゲームがあったんですが、
それを思わせます)
彼らの命を狙って来る、ティラノサウルスを撃退するつもりが、失敗します。
その時、四人の行動は…?
という内容でした。
01.全てを知っている者が決断した事
四人のうち、ミリィだけは、実は全ての事実を知っています。
チャンピオンRED、2024年10月号に掲載の『白亜漂流紀 前編』で、
ミリィは、未来人らしき存在である事が、示唆されていました。
今回、『後編』で、やはり、彼女は、未来から来た人間で、
その上、時空密猟者である事が明らかになりました。
人は誰しも、善悪の、相反する側面を備えています。
ミリィの場合も、やはり、善悪が存在し、
彼女の場合、やや、悪に傾いていました。
しかし、彼女の場合、貧困に喘いでいた、という、
のっぴきならぬ事情があったのです。
それゆえに、彼女は、金銭に執着するようになりました。
彼女は、本当は、粲達を騙して、
未来の、物好きな人種コレクターの資産家に、
珍しい奴隷として、売り飛ばすつもりでいたのです。
そんな彼女でも、粲のような、よい人間に出会い、
仲間として行動していると、
考えが変わるのかも知れませんね。
最後、ミリィが、時空警備隊を呼び出し、自首する、とは思いませんでした。
(時空警備隊は、『ドラえもん』の長編アニメ映画に出て来る、タイム・パトロールのような雰囲気がありました)
時空警備隊により、ティラノサウルスは、追い払われ、四人は事なきを得ます。
ミリィが決断しなければ、どうなっていたでしょうか。
02.悪人正機説の証明
時空警備隊に連行される、悲しみに満ちた、ミリィの姿。
「嫌いになれないんだよ。
ミリィの良い所も、悪い所も含めて…」
粲の言葉を聞いた時、ミリィの顔は、
場に不釣り合いな、晴れやかな笑顔になりました。
あたかも、推理ドラマのような、意外な結末を迎えました。
これは、仏教でいえば、悪人正機説を描いています。
人は、悪を働いたとしても、
完全な悪人など、いないのです。
03.最後は、いい奴が勝つ
前回に当たる、『白亜漂流紀 前編』で、
粲は、過去の古代中国王朝時代に、
病気の虎を治療する薬を見つけ出し、
元気になった虎に襲われそうになったところで、
ミリィによって、タイム・スリップしたのですが、
粲が、過去の古代中国王朝時代に戻った時、
粲を襲う筈の虎は、粲を襲いませんでした。
虎は、虎を連れ出す原因を作った、
ある男の方に、飛びかかっていました。
たとえ、苦難に遭ったとしても、
普段、正しい行いを心がけていれば、よい結果に結びつくのです。
現実も、そうあって欲しいですね。
「いやに、分別臭い奴らが多い世の中で、
少年少女の、よい部分を、大人になっても、もち続ける人間は、普段、いろんな壁に、ぶつかるだろう。
しかし、その分、人間性は豊かになる。
結局、最後は、いい奴が勝つんだ」
ある漫画家の信念を思い出すような結末で、胸が、すっとしました。