『聖闘士真理矢』が開始された理由。
あなたが生まれたのは、いつの日の事だろうか。
私の場合、日本の年号で言えば、昭和の後半に生まれた。
この事もあり、私は、音楽で言えば、
昭和の歌謡曲が好きである。
殊に、阿久悠による作詞のものなどに、なぜか、私は、心を惹かれる。
(♪…もしも ピアノが 弾けたなら
思いの 全てを 歌にして
君に 聴かせる 事だろう…)
これは、昨年、亡くなった、西田敏行が、ゆったりと歌う、
『もしもピアノが弾けたなら』の歌詞の一節だ。
私は、別に、『釣りバカ日誌』などに出演していた、西田のファンだったという訳ではない。
しかし、悲しい時に、この歌を聴くと、なぜか、歌詞の内容が、自分の事のように思えて来る。
それだけ、聴く者の感情を揺さぶる、特別な響きが、この歌にはあるように思う。
(♪…人を 愛した 喜びや
心が 通わぬ 悲しみや
抑え きれない 情熱や…)
「…!」
会った事もない他人が、しかも、かなり昔に作った、
ドラマのタイアップなど、商業的な目的だけに過ぎない歌が、
最近、塞ぎ込んでいた私に流れ込んだ時、
突然、何かの、啓示のように、あるイメージが、稲妻のように、
私の、脳裡に浮かんだ。
折しも、それは、この『もしもピアノが…』を、感傷に浸りながら、聴いていた時だった。
それは、全く、この歌と関係のない、
昭和の人である、漫画家、車田正美に関した事である。
更に言えば、今年、連載が開始となった『聖闘士真理矢』の事である。
(♪…だけど 僕にはピアノがない
君と 夢見る事もない
心は いつでも からまわり
聴かせる 夢さえ 遠ざかる…)
「…ああ、きっと、そうに違いない」
まず、「なぜ、『真理矢』の連載が始まったか」という問いかけが、浮かんだ。
しばらく、逡巡を続けた結果、
その問いかけに対して、私が辿り着いた、ある答が浮かんだ。
それを述べてゆきたいと思う。
以下、かなり、長い内容となったので、苦にならなければ、読んでいただきたい。
文中の略称
・『聖闘士星矢』…『星矢』
・『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話』…『星矢ND』
・『聖闘士星矢 THEN 廃墟の花』…『星矢THEN』
・『聖闘士真理矢』…『真理矢』
・『聖夜に鐘は鳴る』…『聖夜』
(上記と下記、共に、敬称略)
01.地上に降り立った『真理矢』
私は、車田正美のファンである。
昨年の終わり頃、12月 6日、この車田のサイトで、予期せぬ告知の文字が、踊った。
代表作の『聖闘士星矢』について、なんと、関連作品を、少女漫画雑誌へ掲載するという作品の告知である。
その名も、『聖闘士真理矢』。
聞き慣れないタイトルだが、
これは、新たな『聖闘士星矢』の外伝、派生、スピンオフとなる作品である。
X(Twitter)における、制作関係のアカウントにも、同日、同様の告知があった。
・霜月星良における、ポスト(ツイート)
・プリンセスの中の人における、ポスト(ツイート)
これらの、原作者、
及び、制作関係者の、投稿の日付が、全て、
2024年12月 6日であった事に注目していただきたい。
それは、月刊プリンセスの、2025年 1月号の発売日に合わせての事である。
つまり、紙の媒体なら、『真理矢』の告知の初出は、
2024年12月 6日発売の、月刊プリンセスの、2025年 1月号だったのである。
ネットなら、車田のサイト、及び、上記の制作関係者の投稿。
それ以外では、公式の情報の公開はなかった筈である。
02.『真理矢』の告知の裏で起きていた事
この『真理矢』の告知について、不可思議な事態が起きていた事を述べたい。
実は、2024年12月 6日より前の、数日前に、なぜか、X(Twitter)の一部のアカウントなどの間で、この情報が、逸早く、広まっていたようである。
なんと、それらは、『星矢』の制作関係者でもない、一般のファンに過ぎないアカウントである。
なぜ、『星矢』の制作関係者とは無関係の、人間が、『真理矢』の発表の予定を、把握していたのだろうか。
誰か、千里眼や、予知能力といった、超能力、或いは、神通力でも、もっていたというのか。
あり得ない事である。
X(Twitter)には、日本以外に、海外のアカウントもある。
誰かは分からないが、
もし、情報を故意に、漏洩していた、『星矢』の制作関係者がいたのなら、情報の公平性、中立性を、著しく、欠いていたのではないだろうか。
というより、これでは、ファンの間で、『星矢』の制作関係者に関して、優遇されているとか、優遇されていない、とかについて、揉め事が起きる原因になるだろう。
張本人は、誰かは分からないが、
そのような事は、謹んでいただきたい。
03.真理矢における「真理」
ともあれ、今年、1月6日、秋田書店の、月刊プリンセス、2025年 2月号で、『真理矢』の連載が開始された、
表題の「真理矢」に対して、「真理」という言葉が、さり気なく、かけてある。
この事に、お気付きだろうか。
「真理」とは、意味深い、哲学的な言葉でもある。
これは、偶然なのか、はたまた、何らかの伏線を張った、意図したものなのか、興味深い。
04.霜月星良なる漫画家
『真理矢』に関して、
原作は、車田正美、
作画は、霜月星良となっている。
ここで、霜月という人物の事を、初めて、耳にした人は、多いのではないだろうか。
彼女について、把握が出来たのは、以下の作品である。
・『僭越ながら、皇帝(候補)を教育します
ただし、後宮入りはいたしません』
この作品は、あらすじの要約を読むと、
中国王朝を舞台とした世界に、突如、迷い込んでしまった、現代の日本における、女教師、莉世
(年齢は、アラサー)
を、ヒロインとした小説が原作のようである。
この小説の、漫画化に際して、起用されたのが、霜月だ。
莉世の前には、朱樹や蒼季といった、皇帝の候補者となる、美青年が、いる。
その時、一般に、女が憧れる男の側面とは、どのような側面か。
女が望んでいる、男との、親密になるシチュエーションとは、どのようなものか。
それらを、霜月は、劇しく、耽美に、漫画化して、描いている。
それは、いわば、小説や映画で言えば、
『ロミオとジュリエット』や、『タイタニック』のような、
身分や立場を越えた、胸を締め付けられるような、
危うく、運命的な、プラトニック・ラヴ路線である。
このようなテーマは、どちらかといえば、
十代の、はつらつとした、ガール向けの、少女漫画というより、
更に上の年齢層向けの、レディス・コミックという分野に向いている。
それは、家庭生活や、人間関係といったものについて、
したたかに生きている、女の労働者や、
もしくは、更に、進んで、人生の曲がり角にさしかかりつつある、やや、気怠さを、纏った、主婦向けの作品である。
だが、近年は、十代以降における、男女を問わず、アダルト・チルドレン化が進んでいる。
(俗な言い方をすると、それは、ませガキ、という部類である)
少女漫画や、レディス・コミックの境界線について、今更、設ける意味は、薄くなって来ているのかも知れない。
今回、霜月が、『星矢』の新たな派生に、抜擢された理由というのは、こういった、女でしか分からない心情の視点や、
熱い吐息が、かかるような、大人向けの、ラヴ・ローマンスの表現に関して、
並々ならぬものがあり、注目されたため、と私は思っている。
05.『真理矢』の評価
『真理矢』の評価は、今の所、未確定だ。
「絵が綺麗で、話も分かりやすい」
「展開が気になるので、続きが読んでみたい」
という、肯定的な評価もある一方で、
「少女漫画雑誌に、
『星矢』派生の漫画を載せる意味が分からない」
「聖衣のデザインが、『星矢』に較べると、地味」
このような、否定的な評価も聞く。
『星矢』の派生の作品には、皆が、等しく、肯定的だったわけではなく、
新しい作品には、一抹の不安を拭えない人もいる訳である。
作中に登場する、人間の言葉を解する、
謎の、羊のマスコットキャラの、緩い存在からしても、要領を得ない。
(このキャラクターは、何かの力によって、
弱体化した、牡羊座の聖闘士という事らしい。
しかし、これでは、聖衣カードの存在と相俟って、
『カードキャプターさくら』のケルベロスを、髣髴とさせる…)
原作者の、車田正美の単なる思いつきのようにも見える。
(車田は、『真理矢』の第一話が掲載された、
月刊プリンセスの巻末の作者のコメント欄において、
「…漫画家歴、50年を過ぎての、
少女誌デビューとなりました。
何か、女風呂に迷い込んだかのような、気恥ずかしさが、プチ、ありますが、…」
という声明を出している。
この車田について、
「『真理矢』の連載について、妙に、ウキウキと、浮かれているな」と思ったのは、私だけだろうか)
にわかに開始された感が否めない、この作品。
その開始された理由とは、一体、何か。
これには、やはり、れっきとした意味が存在するのだろうか。
06.『星矢THEN』における城戸沙織
私が思うに、それは、『聖闘士星矢』に登場する、
女のキャラクターの事を考えれば、ある程度、理由が浮かんで来るように思う。
それは主に、城戸沙織の事である。
記憶に新しい、昨年、11月14日、秋田書店の、週刊少年チャンピオン50号に掲載された、
『聖闘士星矢 THEN 廃墟の花』。
この作品の事を思い浮かべてみよう。
この作品が出た経緯は、昨年の、7月4日、週刊少年チャンピオン31号に掲載された、
『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話』の最終回に由来する。
『星矢ND』の最終回の、衝撃の展開について、
悲嘆に暮れる、
もしくは、続編を、切望する読者の思いに応え、新たな『星矢』の予感を描いた作品が、
『星矢THEN』である。
(その続きは、「鋭意制作中」との事だった)
『星矢THEN』における、花束を携えた、沙織。
彼女は、聖域の、アイオロスの、碑文の前を訪れ、
何気なしに、佇むのだが、
そのとたん、彼女の身に奇跡が起こる。
『星矢ND』における、アポロンとの、審議によって、失われた筈の、彼女の記憶。
なんと、それを、彼女は取り戻すのである。
(その全てを取り戻したのかどうかは、定かではないが…)
ここで、『星矢』の続編における、今後の展開は、
沙織が、重要なキーになっている、という事が、明らかになったのは、周知の通りである。
07.愛を、映画的に描こうとした、『聖夜』
車田作品には、『星矢THEN』より以前に、描かれた作品として、『聖夜に鐘は鳴る』がある。
この作品は、『星矢』シリーズとは、つながりはない。
しかし、『聖夜』からも、今年の『真理矢』の開始の意味が、何を意味しているかが、読み取れるだろう。
『聖夜』について、よろしければ、以下のリンク先を、読んでいただきたい。
車田にとっての愛を描こうとした作品が、『聖夜』という作品なのである。
08.沙織における、女の心理
話を、『星矢THEN』における、沙織についてに、戻そう。
沙織は、紛う事なき、女である。
『星矢』では、彼女は、星矢とは、
『あしたのジョー』の、白木葉子と、矢吹丈の関係さながら、
立場の違いから、水と油のように、反目し合いながらも、どこか、不思議と、互いを意識し合うようなシーンがあった。
『星矢ND』では、その星矢が、危機に瀕しており、
彼を救うために、沙織は、時を司る、クロノスの力を借り、過去の時代へと、飛び立つ。
更に、『星矢THEN』における、記憶を取り戻す、沙織のエピソード。
その間に描かれた、『星矢』とは無関係でありながら、
車田の思う、愛を、映画的に描こうとした『聖夜に鐘は鳴る』…。
全体を、俯瞰すると、見えて来るものがある。
つまり、『星矢』の、今後の続編のテーマの一つは、
「女の心理」を描く事なのではないか。
女の心理とは、専ら、
恋愛、結婚、出産…。
こういったものは、男の、概念と言うより、
やはり、どちらかというと、女の、概念である。
もし、これを、今後、車田正美が、『星矢』の続編において、
想像ではなく、
能う限り、正確に表現しようという、
彼の漫画家史上、今までにない、目論みが、あったとしたなら…?
09.車田正美にとっての、女の心理
『星矢』の作者である、車田正美。
もし、今後、『星矢』の続編で、女の心理を描く場合、
車田は、どれほど、この点に、精通しているだろうか。
そもそも、今まで、彼が、様々な作品において、
そのような事を、留意して、重点的に描く事があっただろうか。
(過去に、車田作品には、荒神山麗という少女が、主人公の、『スケ番あらし』という作品があった。
しかし、これは、おおよそ、実物の女をモデルとしたストーリーとは、言い難いので、ここでは、除外したいと思う。
しかし、車田本人にすれば、この作品も、思い入れのある作品には違いない)
車田が、男であり、
更に、彼が、昭和二十年代の、いわゆる、団塊の世代の生まれである以上、
おそらく、女の心理というものは、彼にとって、
深い霧に、阻まれた、神秘の湖を眺めやるような、不得意な分野である事は、想像に難くない。
(しかし、車田について、
少年ジャンプの、彼のコミックスのコメント欄の、著者近影の写真を見れば、女のように、髪を伸ばしていた時期もあり、
『実録! 神輪会』では、趣味が、意外にも、「押し花」とある。
実は、もしかして、彼にとって、女の心理を描く事は、不得意でもないのだろうか…)
10.男が、女の心理を理解するには
「…およそ、一般に、女とは、何を考え、
何を望んでいるのか。
異性である男に対して、
常々、どのように思っているのか。
このような事について、
今更でありながらも、あまねく、女自身の意見を、窺い知りたい…」
もし、このような、車田からの、奇妙な要望があったとする。
車田や出版社が考えた、最も、手っ取り早く、効果的な方法。
それは、荒唐無稽ながらも、
少女漫画雑誌に、『星矢』派生の漫画を載せる事である。
つまり、それこそが、他ならぬ、今年の
『聖闘士真理矢』…。
これが、この作品の連載が開始された、一番の理由のような気がする。
11.真理矢について、感じる事
『真理矢』の主人公である、真理矢。
ここでは、このキャラクターについて、私の想像というか、
今後の希望を述べたい。
この作品では、彼女は、平凡な女子学生として描かれている。
(朝の時間帯に、学校に遅刻しそうになるなど、
古典的な、少女漫画のヒロイン像を思わせる、
少し、おっちょこちょいで、ドジな感じはある)
しかし、やや、穿った見方をすると、
彼女は、『真理矢』における、沙織の、別の姿、
もしくは、別の可能性と見てもよいのかも知れない。
それも、何者かによって、その世界において、仮に託されたイメージのような、
時空や、宇宙空間の仕組みを解き明かそうとする量子力学の学説のような、形而上学的なものである。
但し、彼女は、沙織の記憶などは、もっていない。
つまり、真理矢は、何らかの事情によって、
沙織の意識から、かろうじて生じた、精神体と言うべき存在ではないだろうか。
(この場合、沙織そのものは、別の存在として、
今後、『真理矢』に出て来る可能性はある)
更に、あるアニメの主題歌の歌詞を借りるなら、
真理矢の、あの言葉は、
女神の元へと、歩き出すための、十字架(ロザリオ)…。
こう、『真理矢』の世界を、幻想的に、形容が出来るかも知れない。
12.読者に対して、作者が望むであろう事
つらつらと述べて来たが、
あたかも、人が、太陽の光の色を覗こうとしても、
到底、推し量れないような、未知なる部分が、『真理矢』には、多い。
(車田作品ファンなら、お分かりかと思うが、
これは、車田正美の『B't X』に出て来る、詩的な表現である)
ゆえに、
「少女漫画雑誌に、
『星矢』派生の漫画を載せる意味が分からない」
「聖衣のデザインが、『星矢』に較べると、地味」
という、類の発言は、軽率であり、
控えるべきであるように思う。
この作品の本当の目的は、
『星矢』の再現とか、
『セインティア翔』のような、女版『星矢』を作る、といったものではなく、
(全く、ないよりも、やってくれれば、くれたで、それは、嬉しいのだが)
定めし、別の所にある。
取りも直さず、それが、今後の『星矢』の続編の制作に、つながっている…。
こう見た方が、賢明ではないだろうか。
読者が出来る事は、作品を読み、自分の思いを、出版社や、作者に送る事である。
作品を、貶める事ではないだろう。
(自分が思っている『星矢』像ではない、という違和感はあるかも知れないが…)
13.『真理矢』に秘められた役割
現時点で、安易な断定は出来ないが、
『真理矢』において、
広く、読者の意見によって、
『星矢』の続編における、沙織の内面を、創造し、醸成する事…。
(本来なら、女の意見が求められているが、
今の、ジェンダーレス化を進める社会においては、男の意見の場合も、有効だろう)
つまり、車田正美は、『真理矢』に集まった意見によって、
今後の沙織の内面を形成するための礎を作ろうとしているのではないか。
『星矢』の続編で、女の心理を描こうとする、彼にとって、腕ならしとでも言うべきもの…。
これが、『真理矢』に秘められた役割であるように思う。
14.『真理矢』という夢を見る
青い空が続く草原に、
美しい少女が現れて、微笑みかけて来るが、
目を覚ますと、それは、夢だった。
時折、その事を思い出しては、にやついているような、私の、甘ったるい、愚見は、以上である。
いかがだったろうか。
『真理矢』を、このように読めば、楽しめる。
また、読者の意見によっては、他の、車田作品の展開も変わって来るだろう。
読者、つまり、ファンの思いが、車田作品の全てなのだ。
私は、そう思っている。