弦楽器フェアでの特別な審査体験
本日、待ちに待った弦楽器フェアに行ってきました。コロナ禍の影響で5年ぶりの開催です。協会の方々も会場確保に苦労されたようで、ご尽力に感謝いたします。来年は本来の規模で開催できるといいですね。
今回は規模は小さいながらも、「ヴァイオリン制作コンテスト」の審査員公募があり、私も早くから応募していたおかげで無事審査員として参加できました。審査方法は、川畠成道(かわばたなりみち)さんが目隠しカーテンの裏で弾く7台のヴァイオリンの音を聴き、聴衆審査員が一番良いと思った楽器に〇をつけるというものです。ヴァイオリンはテンポの遅い曲で一巡した後、速い曲で再び一巡し、良いと思うヴァイオリンの番号を最終的に選びます。
選ばれた7台は制作者の投票により、製作精度の高いものが選抜されているため、音量、音質、バランス、響きのどれを取っても高水準な楽器ばかりです。聴き分けること自体はできるのですが、「どれが良いか」となると、正直なところ好みを超えて直感に頼る部分が大きくなります。7台のうち、とても音が明るいものが1台ありました。私の先生は「迷ったら明るい音のヴァイオリンを選べ」と言っていましたが、今回の選曲がバッハの無伴奏No.1 アダージョであるため、この楽器は選びにくいだろうと思いました。もしモーツァルトの曲だったら、この楽器が合いそうですが…。速い曲での判断だと反応速度が速いのが5番と6番のようです。しかし、弦の種類によっても違いが出るので難しいですね。全体のバランスが良いと思える楽器ですが、音色的にはオールマイティで、少し個性に欠ける気もしました。色気のある音が好みなら3番か4番かな、と思うものの、少し反応が遅い気がしました。でも人に薦めるなら5番、6番でしょうか。
川畠さんの軽いボーイングも考慮に入れて、自分が弾き込んでみたいと思ったのは3番か4番ですね。2番も面白いですが…。かなり迷った末に、結局4番に〇をつけました。
公募審査員の集計結果は6番のヴァイオリンが選ばれ、制作者は三苫由木子さんでした。川畠さんが選んだのは耿暁鋼(ガン ショウガン)さんの作品で、総合優勝も三苫さんのヴァイオリンでした。ストラディバリ国際楽器製作コンクールで総合二位音響一位の実力を見破ることができた審査員さんたちもすごいと思いましたけども。私はたった7台でもこれだけ迷うのですか審査員の記憶力と集中力には感服するばかりです。
最近よく思うのですが、楽器を選ぶ際には、自分がどのような音を求めているかを明確にイメージできていないと難しいですね。コンクール上位の制作者の楽器が良いのは確かですが、演奏者のイメージと一致しなければ購入には至りません。そして、良い楽器とは、ピアニシモでも美しく響き、遠くまで届く音色を持っているものではないでしょうか。弦楽器フェアで大きな音で試し弾きをする人が多い中、ピアニシモで音色を確かめる人は少数派です。制作者の意図も汲み取りながら選ぶことが大切ですね。