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モノノ怪 唐傘

初めに


こんばんは。先日、友人と一緒に観た映画のご紹介。というか感想とネタバレ記事です。未だ観てない方やネタバレが嫌な方はブラウザバックをお願いします。又、当記事はあくまでも私の主観的内容が多く含まれています。
解釈違い等ありましたら、申し訳ございません。


・井戸水に大切なものを捨てる

まず、物語は二人の若い女性が出会うところから始まります。
ガヤガヤと賑わっている最中に出会った二人は同じ大奥に上がる為にそれぞれの故郷からやって来ました。直ぐに意気投合。眉目秀麗なアサとドジっ子おカメの凸凹コンビの誕生です。そんな二人の傍に近寄って来たのはなんとも怪しい身なりをした「薬売り」と名乗る男。当然の事ながら、見張りからも存分に怪しまれてしまいます。しかし、そんな男に熱い視線を送るおカメは持参した味噌のおにぎりを手渡しました。その場に居た主要人物全員がこのおにぎりを食べて「皆、おいしい」と言っています。

この物語でのキーパソンは「味」「匂い」そして「心」です。

アサとカメは、奥入りする女人の列に戻り、二人仲良く入って行きました。
そこで第一の関門が訪れます。

お水様の中に大切なものを入れる

到着した二人は淡島様と麦谷様という女中に自分の持ち物(大切なもの)をこの井戸の中に捨てなさいと言われ、戸惑います。アサは元々執着心が無く、捨てるものが無く戸惑い、カメはおばあちゃんがお守りにしなさいと持たされた櫛を捨てるよう言われ戸惑います。その前にカメはおばあちゃんが持たせてくれた「味噌にぎり」を「是非、皆さんへ」と渡したのに速攻で井戸に捨てられたことにショックを受けていました。

その時、女中が言った言葉は「これで、あなたは解放されました」でした。
奥に入る為には「真っ新な状態」でなくてはならず、「個人の心」は必要ないのです。アサは捨てる必要は無いと言いますが、カメはどうしても奥に入りたかった為、大切な櫛を井戸へ捨ててしまいました。井戸水の中に櫛が入った瞬間、何かの反応がありました。

そして、外に居る薬売りはこう呟きます。

“形を成した”

この儀式の最中に先輩女官達の顔が頻繁に見えなくなります。つまり、大切なものを捨てるという事は個としての尊厳を失う事に等しい。女官の顔が見えなくなるのは「特徴」が全くない存在になってしまったからなのです。

ここまでを踏まえて見た時、火にかけられる鍋を私はイメージしました。

井戸(鍋):大奥そのもの
水(お水様):流れるもの(新人)
大切なもの(具材):人のこころ
コンロ:大奥でのルール

ずっと火をかけ続けると鍋はどうなるでしょうか?
様々な危険なことが起こると思います。
煮詰まりすぎてもうごちごちに固まってしまったその「何か」が「形」を成したことで、事件は幕を開けるのです。

・毎朝飲むとっても「臭い」水

アサとカメは約2000人分の朝食を作るようにと女中頭麦谷様から命じられます。へとへとになるカメを他所にテキパキと準備するアサ。二人の能力の差がこの辺りから示され始めていきます。

朝食の準備が終わると、二人は初日に行った井戸の前「お水様」の元へ招集されます。毎朝飲むこの水は新人の二人にとって最もキツイ業務でした。その理由は何と言ってもこの水はとてつもなく「生臭い」のです。

そして、お水を入れる升は逆三角形。逆三角形は女性の子宮を表す形とも言われています。その器の片側を一糸乱れる動きで撫でた後、一気飲みします。二人以外(アサは無表情を保ちます)は全く表情を変えず、まるで臭いなど感じていないような素振りでした。

虐めを受けるカメ。だが、加害者側は目も当てられない姿へ変貌

いつまで経っても仕事を覚えられないカメは先輩達の虐めの対象へとなってしまいました。何も娯楽が無く、昇進昇格が無ければ「無」同然の扱いを受ける奥で「自分」という存在を確かめる為に行われる。言わば「確認作業」に私の目には映りました。そんなカメを庇ったのが、アサでした。実はアサは入って三日と経たずに役職を与えられていました。そのやっかみもあったにだと思います。アサが「私の元で面倒を見ます」と言うも淡島様はそれを拒否、罵詈雑言を浴びせまくっていた麦谷様にカメの面倒を言い渡しました。淡島様も又、アサをやっかんでいる一人だったので、少しでも足を引っ張ってやろう。という悪感情から来たものと捉えられます。

これから数日なのか数時間なのか不明ですが、ある事件が発生します。麦谷様がカメを再び詰って居た時でした。何者かによって二人は襲われます。強引に入口を突破して来た薬売りによって、カメだけは助かりますが麦谷様はカラカラに干からびた状態で発見されます。

その状態に恐怖するアサですが、実は役職を貰った日に個室を与えられます。そこへ以前そこに住んで居たという先輩女中「北川様」が現れこう言いました。

“乾いてはいけないよ”

麦谷様の遺体は正にカラカラに乾いた状態でした。この頃になるとアサは毎朝のお水様の行事で飲む水の匂いが分からなくなっていました。
アサは頭が良く、仕事を卒なくこなします。一方で要領があまり良くないカメは何時までも水が臭くてたまらず、虐めにもあっていた為、心も荒んでいました。そして、薬売りは女中達の頭である歌山様にこう尋ねます。

「消えた女中の名前を教えて下さい」


唐傘の正体

基本的には男子禁制の大奥ですが、その後も事件が続き、麦谷様の次は淡島様が帰らぬ人となりました。二人とも空へと天高く攫われ、完全に飲み込まれるとゲリラ豪雨の様な雨が急に振り出し、降り終わると干からびた遺体が何処からともなく降って来るのでした。この現象を引き起こす存在を薬売りは「唐傘」と呼びました。

唐傘の標的は麦谷様、淡島様、歌山様、そして何故かカメでした。アサの事は全くと言って良い程襲わないのです。
(最後の方で、歌山様と一緒に居たので巻き込まれ事故にあいます)

その理由を説明する前に一連の騒動主「唐傘」の正体を洗い出しましょう。

唐傘の正体

薬売りは「真・理・形」が分からないと唐傘を倒せません。
雨が降って来る事から、唐傘の主原料は「お水様」である事が伺えます。しかし、お水様は確かに「力を与えるだけの影響を持つ神様」である事に代わり無いのですが、唐傘そのものか? と聞かれると「違う」という回答になります。その証拠に、最初に薬売りが外にある井戸に札を張ってもずっと存在が「遠かった」のです。そんな唐傘の正体がようやく判明します。

真・北川
理・お水様(心)
形・北川様が大切にしていた人形が持つ傘

アサは自分の部屋に訪ねて来た先輩女中「北川様」より日本人形を預かるように言われていました。そして、一連の事件の引き金は餅引きという行事で大筆書きを担当していた女中が失踪した事から始まりました。その失踪した女中こそが「北川様」だったのです。北川様の遺体は発見されていない。でも、奥の外に出た形跡も無い。そこで歌山様は「北川は帰省した」と周囲に周知した。そして、何と麦谷様と淡島様の事もそう周知させたのが、これがまた良くない感情を生んだのを何となく感じました。

お水様はあくまで中立

お水様は井戸の奥深くに祭られている水の神様です。そしてこのお水を飲むことで天子(王様)の子供を授かりやすくなるとされています。ですが、このお水は先ほども申し上げた通り、とんでもなく臭い。しかし、お水様自身が臭い訳でも悪い神様という訳でもありません。
寧ろ、お水様は不安定であった北川様の心を支えていたとも言えます。しかし、お水様の中にカメが大切にしていた櫛が投下された事で均衡が崩れてしまったのです。大切なものを捨てるという事は何も物質的なものばかりを指す訳ではありません。

北川様がアサに言っていた「枯れてはいけないよ」という言葉の真意は「心を枯らしてはいけない」という事です。心が枯れると唐傘に狙われ雨にされる理由、何故カメが狙われるのかは後ほどお話します。

三郎丸が井戸の中で見たもの

三郎丸とは「表(幕府)」の役人で男性です。彼は、ある調査をする為に特別に大奥に入ることを認められた人物です。そのある調査とは「餅引きが何故延期されたのか?」「失踪した北川様は本当に帰省したのか?」という二つの疑問です。

その二つの疑問を彼は一気に知る事となりました。三郎丸は立て続けに起きる事件の根源は「お水様の井戸にある」と踏んで意を決して、中へ飛び込みます。

井戸は想像よりも遥かに深く、このまま叩きつけられて死んでしまうのではないか? と観ている側はハラハラしましたが、お水の中に落ちただけで死ぬことはありません。恐らくですが、お水様が「真相を知る者」として生かしたとも捉えられる。

そこには大きなご神体と皆がこれまで捨てて来た大切なもの、そして「女性の遺体」らしきものだった。

実は、狙われている歌山様の近くには二回ほど万華鏡が足元へ現れます。その万華鏡を拾い上げて、再び井戸の中へ投じています。

北川様の変身した姿とも言える唐傘の事をアサは「恨んでいない」と言っている事から、北川様は歌山様を含める女中達に「思い出して欲しかった」のかもしれません。

水の臭いの正体

三郎丸が見た通りなのだが、お水の臭いの正体は「皆が捨てた感情」である。北川様は役職を得ていたと思われるがふと急に空しくなってしまったのだろうと思う。今でいうなら精神的病に罹患していたと思われる。それが原因でお水様の井戸の中に自分自身を投じてしまった。
それは北川様が捨てたものに起因する。

どうしてカメが狙われるのか?

実は北川様にもカメの様な友人が居たのだ。だが、役職柄というか大奥の性質状「使えない」と判断された者は問答無用で追い出されてしまうのだ。つまり、北川様が捨てたのは「心のよすが」だったのです。心の縁を失った北川様は大奥の暗黙のルールに押しつぶされてしまったのだ。

そして何の縁か、アサにも同じような状況が起こったのだ。そして、一度はカメを突き放す形でカメに無期休暇を言い渡してしまった。

歌山様がアサを庇った理由

唐傘に執拗に狙われている歌山様は最後にアサを庇って亡くなってしまいます。歌山様は女中頭でありながら、何も得られていない様に見えました。高い地位にお就きになった。でも、それも手の甲に点々と現れるシミが終わりを告げている様にも見えます。つまり、歌山様は「死」を受け入れてしまっていました。

アサの心が枯れることは何なのかを気づいて欲しかった?

北川様の印象は「可哀そう」であり「とても親切」な人です。アサの姿は嘗ての自分そのものであり、また、カメを追い出す事も重なっている。

確かに、カメは正直「大奥」には向いていない。上手に振る舞う事が苦手であり、物覚えも良くない以上、そういった対象になりやすく、それを見るのも辛いだろう。だからこそ、このままバイバイする事を北川様は良しとしなかったのだろう。それは二度目の自分を生んでしまうからだ。

歌山様はアサを守り

アサは井戸へ落ちるカメの幻影を見て思わず助けに行く

反転してアサが井戸の中へ落ちる

カメがアサの手を掴み助ける

カメは最後の日にお水様の水を自らの意思で捨てます。そして、一度捨てた櫛はお水様(北川様)によってカメに返還されます。

アサとカメはお互いの櫛を交換して、カメは自らの意思で大奥を去りました。


最後に

所々で悲鳴があるんですが、その悲鳴が物凄い怖いです。怖さの部類は「人怖」ですかね。北川様は本来とても優しい人だったと思います。ですが、様々な心が入り混じってしまった唐傘の状態では自分の力を制御出来なかったが故に犠牲者が出てしまったのだ。

人には向き不向きがあるが、麦谷様の行動は悪手だし、淡島様も見て見ぬ振りをしてしまった。そして歌山様は「隠蔽」してしまった。唐傘が襲うのは明らかに「哀しい人」達ばかりでした。そして、カメも虐められた事で悲しみを抱えていた。しかし、北川様自身はアサに自分の様になって欲しくなかったのだと思います。

大奥は私たち流に言うなら「職場」であり、こういう場面あるよね~って観てて思いました。そして、心底恐ろしや~ とも思いました。

一番怖いのは人なのだ。とはよく言ったものですね。

ホラー度:★★★☆☆
面白さ度:★★★★☆
ストーリー:★★★★☆
ファンタジー:★★★★★
グロテスク度:★★★★☆

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