こいぬのクリスマスケーキのnote
-1調書.
逮捕された
拘束の身
手に自由はない
腰には縄がある
最低限の権利は
摂取すること
排泄すること
ムダなくらい水を欲した
食はなくても水さえあれば生きていける
排泄も主張した
さすがに小用にとどまるが
取り調べの中で摂取と排泄は可能だった
移動は縄を引っ張られ
パドックの馬なのか
散歩の犬なのか
手の自由を失った瞬間から
馬や犬の気持ちで生きた
それしか自分を愛でる手立てはない
人間であると自分を律すれば壊れる
そんな繊細さを自覚していた
取り調べの最中は縄は解かれ
可視化カメラの下
人権を尊重してもらえた
だから取り調べは言語を使い
物書きが好きな人物として
納得のいく調書を作り上げた
刑事科の巡査と共に
調書は苦痛ではなかった
適切に休憩の提案があり
乗ってる時には不要だからと
付き合ってもらえた
意外に楽しかった
カツ丼もテーブルのライトもなかった
ただ後があるようで
10分の弁当タイムがあった
女子にセブンのおにぎり弁当
10ぷんで握り飯3個と少々のおかず
かなりヘビーだが
馬・犬タイムなのでがっついた
後で悔いるがっつきだった
続く
-2拘置所移動.
さっき
がっついた弁当が消化しきれないまま
警察車両に乗り込んだ
右隣には安全課の女 フジタが
左には署で肩書き的に高いオヤジ刑事
運転も刑事
フジタだけが似合わない制服に
華奢な身を包んでいた
拘置所の道中に精神科へ
処方のため寄ってくれた
先生を待たせないためと運転は荒い
調書を見て人間味を味わったのだろうか
刑事たちの対応は柔らかい
こんな機会だから質問してみた
遺失物を五千円札で届けたのに
千円札5枚が返ってきたのはなんで?
漫画のようにオヤジ刑事はとぼけた
少し前のギャグを挟んで
荒い運転のすえ精神科へ到着したとき
果てしない気分不良におそわれた
吐く、腰が抜ける、視界は真っしろ
病院なので車椅子が手配される
酔っ払いの始末はできても
こういった介護方法がわからない
事故でも事件でも消防署員の役割だから
ほら立って、歩けるだろう
やはりここでも馬や犬なのだ
いや、
サラブレッドや血統のよい犬はもっと
丁重に扱われているだろう
腰縄をひかれたてたてと指示をうけ
拘置所に向かう
大きなゲージのある拘置所
続く
-3拘置所.
拘置所
どんな匣なのか
看守の女は言う
ここでは
名前を名乗らない
どんな罪で入ったか
言わない
聞かない
がルール
それは皆が平等に扱われて然るため
私たちはあなたが裁判に臨むまで
安全に暮らせる手伝いをする、と。
まず柔らかい態度で
初めの間に通された
ありがちな
前向きの写真
横向きの写真
を身長がわかる線を背景に撮る
体重を測る
全て下着まで脱ぎ
一枚のワンピースを羽織り
ボディチェック
古着を渡され着替える
0時前の収監だったので
とにかく静かに眠るよう指示される
6畳間にトイレ洗面付き
103、わたしは103と呼ばれた
でも眠られない
かまってほしい
それがしつこかった
度がすぎだ
とうとう看守たちに囲まれ
歯がいじめにされ
手首と胴の拘束ののち
留保というゲージに移った
103という名前が消えた
留保は4.5畳
部屋の隅に穴がある
用をたすあな
用がすむと流してくれるシステムだが
誰一人として流してくれない
手も洗えない
飲みたい水分もくれない
とにかく寝ようとした
が蛍光灯の位置が気に入らない
蛍光灯のが真っ直ぐに
位置するよう布団を敷く
穴の上にあたる場所に敷かないと
気持ち悪い
仕方なくそうして寝た
乾燥がひどかった
鼻の奥が砂漠
唇もバリバリ
洗面所はゲージの向こう
水分を欲した
水分は…
なんとかする
人に言えないなんとか
そう
拘束生活は慣れている
サバイバル
そんな中眠った
ただし眠ってから何かやらかしたみたいだ
続く
-4拘置所、翌.
朝が来た
日は昇るのだから来る
けれど来た
なにやら昨日の看守が優しい
まず待ってました
起床
フツートーンで喋っていい合図
看守が通るたびに
すいませーん
を連呼する
5回に1回ぐらいにかまってくれる
お茶を頼む
起床の時
留保には課せられなかった点呼
を聴く
すばらしいきびきびさ
この看守たちは夜勤の終わりを
点呼でけじめて明けるのだろう
次に掃除
びっくりした
便器の中は洗わないルール
これは……
昨夜の私を比較して
甘かったが
お腹下しも肌荒れもなかったのが
幸いだった
とりあえず床隅々まで拭いて
洗面所を洗う
布ナプキンを洗わせてもらえた
また
お茶を所望する
いってる間に朝ごはん
深夜の収監だったので特別
にぎりめし
またか
でも冷えた握り飯は
誰かが具を混ぜてきちんと握られて
ラップで提供された
湯呑みに入ってレンゲで食する
安全に暮らせる手伝いのレンゲ
箸だと危なかしくみえたらしい
けれど優しい看守は
「美味しそうに食べるなー、
わたしも仕事上がったらおにぎり食べよ」
昨夜何があったかは教えてくれなかった
ただ
「あんたのせいで仮眠取れんかった」
とぐちぐち言って
「昨日くくったとき詐病ってゆってたやん」
の問いに
「昨日はそう思った」
と申し訳なさそうに頭を下げてくれた
何かあったみたいだ
ただただお茶をめいいっぱい注いでくれた
日勤と交代
入りの看守はめんどくさそうに対応する
お茶のリクエストは
聞いてもらえたりなかったり
そうこうで昼食
本気の塀のなかのめし
暖かく
かつて働いていていた
デイサービスのものと変わりない
単価500円か
レンゲで食す
今日はこのあと検事との接見を控えていた
日曜なのでなかった運動も
また明日味わえる拘置所の身を
ワクワクで待っていた
食べ終わるか終わらないか
「留保、釈放だって」
イライラした看守たちに手錠をかけられ
着替えの間へと連れ出される
日勤の看守は
「もうくんな」
と手向けの言葉をくれた
そして市が用意した救急車に乗り込み
次の匣へと移動となった
移動の際
こころの相談センターの署員と
府警の精神科医が同乗した
府警署員は謎に
「何、録音されるかわからんから話さん」
という
逮捕の際の録音が効いたのか
昨夜の夢の出来事が効いたのか
裁判をすることも白黒はっきりがないまま
宙ぶらりんなグレーなわたしは
精神病院という匣におさまる
あとは
「最後に錠を閉めたのは」につづく…
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