ノート的境界線群 14号
1.新作詩
「光景」
桜の季節になると
思い出したように足を向けた
家から一分もかからない公園は
360日ただの光景だった
その場所で朝を待つ
太陽はきっと上る
けれどもそこから先
当たり前のことは少なかった
一人一人去っていく
それは旅立ちだった
昨日までの町は無い
誰も望まなかった異世界
桜の木を見上げる
素知らぬ顔で緑の葉を広げ
町を見守っている
君はもう光景にならない
2.新作短歌
今ならば並ばずガソリン貰えるよそれだけでいいも一度おいで
3.旧作詩
「カルデラリンク」
カルデラの失われた側に住んでいる
豊かなものは全て奪われて
ただ歴史だけが堆積していく
誰からも見えない名誉
誰からも望まれない神秘
そんなものだけを啄んで生きる
カルデラの残された側で夢が溢れて
人々は溶岩に絶望を投げ込んでいる
抱え続けていれば
いつか輝くときもあるのに
希望にばかり投資されていき
思いは渦となる
カルデラは時折裏返る
私は山肌を転がって
世界のにおいを覚え込む
草木も岩も牛の糞尿も
私の世界では失われたものだ
心を穢していく甘さ
捕われそうになる前に歪曲は閉じる
においを繰り返し思い出し
表の歴史に糸をつなぐ
時折訪れる残酷も
乗り越えた後の素晴らしい歓喜も
こちら側には全くない
ただにおいを覚えておくしかない
カルデラの失われた側に住み
いつまでも生き続けたいと思っている
私は焦がれ続けるのだ
残された側の複雑さに
その中にある曖昧さに
その果てにある戸惑いに
終焉が生み出す新しさに
★上記の作品は『パンタグラフ 1.5号』に収録されています。初めて作った個人誌の、一番最初の作品です。水害について書きました。私は現実をそのまま書かない作風なのですが、そんな中でも現実について表現していかなければ、と思っています。模索しているうちに次の「現実」がやってきてしまいました。まだ、探し続けます。
4.あとがき
お店に行く前に「やっているか」を確認するのが当たり前となっています。多くの店が閉まったままだったり、移転していたり。近所の24時間スーパーが再開未定なのは痛いです。職場のエレベーターが止まっているので階段移動で大変です。と、いろいろあるものの日常は続いています。結構楽しいことも多いです。今回は意識して現状に関連する作品を集めてみましたが、いつも通りのふざけた作品も書いています。淡々と創作を続けていけることが幸せですね。