ノート的境界線群 16号
1.新作詩
「信じるもの」
あなたの背中
四国のあたりに
佐渡島のような痣がある
私以外も見つけただろう
多くの人が撫でてきたはず
私はそっと息を吹きかける
佐渡島に見えるのは私だけ
あなたの瞳
ハワイのあたり
カナダのオーロラのような輝き
見とれる人は多い
吸い込まれて好きになっていく
私はじっくり観測する
カナダのオーロラに見えるのは私だけ
シャンプーも柔軟剤も歯磨き粉も
再会までには上書きされて
私はもう覚えてしまった
知らなかったいくつもの香り
私は見えるものだけを信じる
私だけの見方で信じる
あなたの口の中
広がる銀河の奥
震える超新星が見える
ゆっくりゆっくり
育っていけばいい
私だけが知っている
全ての形
どんな変化も
見逃しはしない
2.新作短歌
自転車の切れたチェーンが繋いでる僕の地面と誰かの夜空
3.旧作詩
「Progressive五線」
残り四線が逃げ出した
上 真ん中 下
三つしか表せない
音符たちは戸惑っている
ト音記号は笑っている
「串刺しも一本なら我慢できるわい」
そうですか
仕方ないのでできることをする
はいはい こっちこっち
まずは様々な長さの音符
シャープにフラット
クレッシェンドデクレッシェンド
時折アフタヌーンティー
出来上がったものはそれなりだ
がんばったけれど
所詮それなりでしかない
音楽は安定に安住して安易にアンドゥ
やはり世界には五線が必要だった
ぐっと力を入れて線を伸ばした
地球を一周してずれたのが二本目
銀河を一周してずれたのが三本目
宇宙を一周してずれたのが四本目
存在論を何周もして
ようやく隙間を見つけて忍び込んで
綻びから新しく顔を出したのが五本目
楽譜は元通りになった
音楽も輝きを取り戻した
「また串刺しになってしもた」
ト音記号だけは不満そうだが
音符たちは満足そうだ
整頓された音楽は
世界を安定させている
そしたら急に虚しくなって
こっそりと逃げ出してしまった
シャープにフラット
クレッシェンドデクレッシェンド
記号たちがついてきた
また何か おもしろいことをしようか
★ 「無責任 第1号」の掲載した作品です。最初から何を言っているんでしょうか(笑) 私の通っていた幼稚園は、文字は教えないのに楽譜の読み方は教えていました。そんなわけで楽譜との付き合いは長いです。楽器は……何もしていません。始めたいんですけどね。
4.あとがき
今月の新作詩、すでにブログに載せたものですがご了承ください。作品はたくさん書いているのですが、公開できるものが少なくて。そういえば前回歌会に行く、と言っていましたが、すでに三回参加しました。かなり勉強になっています。私の場合どうしてもぼんやりとした作品が多いのですが、短歌ははっきりしたものが求められるのですね。音一つ一つが勝負。意識していきたいです。