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【詩】くもり のち 吸血鬼

フィトンチッドが途切れた場所から
希望は海の弾力になる
パンクした自転車を捨て
小さくなった靴を脱ぎ
裸足でフライングした砂浜感

唸りをあげながら雲がやってくる
星を隠す光を隠して
完成度究極のくもり
波の音が何度も何度も
恒星になれなかったことを嘆いている

これでは足りない
投げ出して投げ出して
逃げ出して逃げ出した
その果てにあるご褒美は
もっと歪んでいなければならない

潮が満ちていくのに合わせて
雲も走り去った
天幕を隠すのは青
よく見ればコーデュロイ
スペースデブリを拭き取っている

地上に視線を戻すと女がいた
海水をすくって飲んでいた
何杯も何杯も
緑の髪は長くて
死んだ海藻に見えた

隣に行って真似をした
すぐに舌が拒否をして
思わず女を睨んだ
モルガナイトのような瞳が
睨み返してきて興奮した

血だ 海の 血を 飲む
血が 必要だ 血で 洗って
夜の 向こう 塵の 先の
まだ見ぬ 体 星の 頭
いつか たどり着く 必ず いつか

女は手を回して首筋を噛んできた
体の中の海が涸れていく
何色でもない光が見えてきた
女の姿は消えていた
また雲がやってくる

(「無責任」第六十三号(未発表)掲載予定作品)

 発表前に同人だった浮島が亡くなったため、「無責任」第六十三号が発表されることはありませんでした。5年以上毎月web詩歌誌を出し続け、「いい作品が話題にならないのは、最高の嫌がらせだ」と語り合っていました。

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清水らくは
大変感謝です!