【短編小説】ねえ、君となら
君が見付けてくれた湖で。
僕は間違って黒い服を選んでしまいました。君は生真面目に「死に装束なのに」と言って、白いTシャツを着てきたのに。僕はまた間違ってしまいました。それでも君は、僕を許してくれます。
君が見付けてくれた湖は、とても澄んでいるけど、世界一綺麗ではなさそうだから、好き。そして君も、世界一ではないけれども、とっても綺麗です。
でも、二人は途方に暮れました。入水自殺のやり方がわからなかったからです。
「ゆっくり入ってくの? 苦しくなって戻ってきてしまうわ」
「でも、飛び込むような場所もないよ」
「困ったなぁ。経験者に聞いてくるんだった」
仕方ないので、二人でビスケットを食べ始めました。指をなめる君の仕草が僕は大好きです。
「かえろっか」
君は言いました。
「そうだね。帰ろうか」
僕も言いました。
「帰りのチケット、ないや」
「そうだね。でも、ねぇ……」
「ん?」
「君となら、歩いて帰ったっていいよ」
君は、いつもどおり僕に微笑んでくれました。僕は、今日も幸せです。
★★★
たまには昔の小説を。ショートショートというにははおちのない話をよく書きます。雰囲気を楽しんでいただければ。
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