ノート的境界線群 9号
1.新作詩
「作り笑顔」
心の奥からお知らせがあった
「作り笑いのストックがありません」
いつの間にか浪費してしまって
人生の後半に余剰がなくなってしまった
それから半年間
笑顔になれなかった
本気で笑っているつもりでも
作り笑いを消費していた
それを理解してようやく
苦笑することはできた
ある日通販で
「正規品と変わりない作り笑い」を売っていた
程々に安かったので買った
使ってみると笑顔がやめられなくなった
笑顔だけで送る人生はだいたいが悲しい
それでも楽しいと思われている
心の奥にお知らせをする
「感情のストックもなくしてください」
2.新作短歌
ハンカチに少女が語りかけている「持ち主さんを落としちゃったの?」
3.旧作詩
「腰から上は人」
腰から下が馬になった日から
いろんな場所に行くのが億劫だ
バスにも乗れないトイレに入れない
社会は四本足に優しくない
飲み会をいくつも断った
就職の面接もあきらめた
人生の色が減っていく
気付いたら走り出していた
速かった
夢は番組制作
いろんな人に届けたかった
今はただ走ってる
誰もが振り返るけれど
誰もが目をそらす
山を越えてたどりついた
湖のほとりで
感情に名前を付けて
一休みした
自分以外誰もいないところでは
特に何も困らなくて
それこそが絶望だった
何年か暮らしてみると
そこそこに幸せで
何を望んでいたのか
忘れてしまった
ある日目覚めると
二本足に戻っていた
それもまた絶望だった
★以前「無責任」に載せた作品です。一番自分らしいタイプの詩と思うのですが、やはり「よく意味が分からない」と言われることもあります。自分でもどこから発想がやってくるのかよくわかりません。
4.あとがき
先日、久々に大きな台風が通り過ぎていきました。まだところどころに爪痕が残っています。そういう時、「詩を書こう」とは思わないものですね。何か月語って、「そういえば」となって題材にすることはあります。他の方々はどうなんだろう、などと思っているところです。