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#短歌
ノート的境界線群 18号
1.新作詩
「更新」
カレンダーをめくり忘れている君は
「月日が急ぎ足過ぎる」と言いながら
ずっと煮豆を作っていた
衣替えがなかなか終わらない君は
「寒いぐらいがちょうどいい」と言いながら
暖房の下を動かなかった
思い出は積み重ならない
何かが消えていったけれど
何が消えていったかはわからないまま
干し忘れた洗濯物を抱えた君は
「不燃物を出し忘れなかったから」と笑った
思い出が更新されて
ノート的境界線群 17号
1.新作詩
「青い香り」
無色透明に生まれたかった
そうでなければ鮮やかな光の下で
抱かれたまま育ちたかった
世界は単調に過ぎて
僕はまっすぐにひねくれた
自分で作った盤を抱えて
走り抜ける先
いつもの場所には柵
風もさえぎられている
絶望の種が落ちているよ
一人じゃ
角換わりできないだろ
帰ってこいよ ねえ ねえ
間違いだらけでもいいから
時間よ狂って
あの人
青い香り 少し揺れて
空
ノート的境界線群 16号
1.新作詩
「信じるもの」
あなたの背中
四国のあたりに
佐渡島のような痣がある
私以外も見つけただろう
多くの人が撫でてきたはず
私はそっと息を吹きかける
佐渡島に見えるのは私だけ
あなたの瞳
ハワイのあたり
カナダのオーロラのような輝き
見とれる人は多い
吸い込まれて好きになっていく
私はじっくり観測する
カナダのオーロラに見えるのは私だけ
シャンプーも柔軟剤も歯磨き粉も
再会までには
ノート的境界線群 15号
1.新作詩
「マイリス3」
マイリス3の動画を毎日観てる
コメントのない動画が生きがいになってる
僕以外の二人はきっと
作者と作者の複アカ
それでもいいんだ
僕にとっては最高のエンターテイメント
見つけられなくてもいいから
消えないでいてほしい
おじいちゃんになって
目が見えなくなったって
毎日再生し続けるから
マイリス3の動画は今日もマイリス3
再生数は毎日2ずつ増える
僕以外は確実に
ノート的境界線群 14号
1.新作詩
「光景」
桜の季節になると
思い出したように足を向けた
家から一分もかからない公園は
360日ただの光景だった
その場所で朝を待つ
太陽はきっと上る
けれどもそこから先
当たり前のことは少なかった
一人一人去っていく
それは旅立ちだった
昨日までの町は無い
誰も望まなかった異世界
桜の木を見上げる
素知らぬ顔で緑の葉を広げ
町を見守っている
君はもう光景にならない
2.新作
ノート的境界線群 13号
1. 新作詩
「キリン」
生まれたばかりのキリンは
それでもずいぶんと背が高い
高みから見下ろす世界は
どんな感じだい
生まれたばかりのキリンは
空を見上げている
これからどんどん
近付いていくんだ
生まれたばかりの僕が
目指していた視線は
どこに向かっていたのか
越えられたんだろうか
生まれたばかりのキリンは
家に帰っていく
遠い遠い空は
僕らを守っているんだ
2. 新作短歌
子ど
ノート的境界線群 12号
1.新作詩
「言葉」
君の辞書から一つ言葉を盗んだ
生きている間に気付けるかな
盗んだのは知らない言葉だった
生きている間に使いこなしたい
僕には未来が薄い
君はいつも笑う
嘘つきみたいに笑う
君の辞書から盗んだ言葉は
重たくなっていった
僕には過去が淡い
押しつぶされてしまう
押しつぶされるのでいい
君に言葉を返したい
そんな現在が消えていく
2.新作短歌
オリオンの自己主
ノート的境界線群 11号
1.新作詩
「宇宙十分の一」
星が減り始めていると分かった時には
九割の星は消滅していた
光がここに来るまでの間に
終焉してしまった仲間たち
銀河を巡った船たちが見つけたのは
様々な痕跡ばかりだった
誰もがどこかに逃げて
誰でもなくなってしまったのか
必ず訪れる老いと死は
星にも宇宙にも存在する
未来に投げ捨ててきた無責任に
ついに追いついてしまったのだ
私たちは看取れるだろうか
青くはな
ノート的境界線群 10号
1.新作詩
「生きてしまうんだ」
ポンと出たよこの世に
嫌なこと積み重なっていったよ
辛い日々は泣くこともできなかったよ
好きな人は誰かのものになっていったよ
それでも明日も生きていてしまうんだ
わからないことだらけなのが救い
無意味が暴かれたら多分終わり
傷つく体がある限り
何かにすがる意地汚さもあるから
笑うこともあるよ
ポンと出たよこの世に
いいこともあるにはあるよ
どんな日々もご飯
ノート的境界線群 9号
1.新作詩
「作り笑顔」
心の奥からお知らせがあった
「作り笑いのストックがありません」
いつの間にか浪費してしまって
人生の後半に余剰がなくなってしまった
それから半年間
笑顔になれなかった
本気で笑っているつもりでも
作り笑いを消費していた
それを理解してようやく
苦笑することはできた
ある日通販で
「正規品と変わりない作り笑い」を売っていた
程々に安かったので買った
使ってみると笑
ノート的境界線群 8号
1.新作詩
「僕の魔法のステッキ」
僕は魔法のステッキを隠してる
願うだけ食べ物が出てくるらしい
僕は一度もそれを使っていない
世界中の飢えがなくなるかもしれないのに
どうすればいいのかを考えてみたんだ
世界中を旅していては時間がかかりすぎる
世界中に送ればいいのだろうか
困っている人まで届くだろうか
困っている人が困っている理由のために
きっと困っている人までは届かないと思う
そして僕みた