電音部が"発見"される現場に立ち会えた幸運
導入
2022年5月14日土曜日、バンナムフェス2ndDay1。
いくつもの幸運が重なって、『電音部』にとって、そして一ファンである自分にとって、重要すぎる一日となった。
2019年に初回が開催され、事前の不安を全く裏切る形で大成功となったバンナムフェス。翌2020年に開催予定だった2ndは、2度の延期を経て2022年5月開催となった。
会場は東京ドームからZOZOマリンスタジアムへと変更になり、野外会場となった上に直前の天気予報は雨尽くし。実際に設営やリハーサルは風雨の中行われたことが、演者やスタッフ陣のツイートから判明している。
蓋を開けてみれば、午前中こそ小雨が降っていたものの、午後には日が差す時間も長くなるほどの好天となり、終演まで雨に降られることなく祭を堪能することが出来た。
この日、私の最大の目当ては電音部だった。
2年前、AOFでの企画発表に衝撃を受け、昨年10月の1stライブでは2日間現地参加。今年3月の2ndライブは残念ながら配信アーカイブでの参加となったものの、電音部がリアルライブで魅せたい光景、音と光、そして歓喜と衝撃に溢れる世界を知り、もっと見たいという欲求は募るばかり。幸いバンナムフェス2ndは最速でチケットを確保し延期しても握り続けたため、今回初日はB10 ブロックというかなりの良席にて参加することになった。
今回のバンナムフェス2ndは、電音部が初めて外部のフェスに打って出る、いわばアウェー戦だ。当日入場して目に入ったのは、スタジアムの広大な客席と、グラウンド=アリーナを埋め尽くす観客、それに会場の規模に相応しい大掛かりなステージ。こんな場所で電音部のライブが……開演までは、期待半分、不安半分というのが正直な感情だった。
いざ開演してしまえば、慣れ親しんだアイマスや、アニメを楽しんだラブライブシリーズのステージに心は躍り、テイルズやガンダムシリーズではプロミュージシャンの場を湧かせる力を実感し、そしてアイカツシリーズでは、意外なほどに重低音が響くサウンドに驚かされた。後から思えば、アイカツ曲の"治安の悪い"重低音すら伏線だったように思える。
いつしか日は落ち辺りは暗く、ステージ照明と観客席のペンライトがスタジアムを彩る時間となっていた。出演コンテンツは残り2つ。
電音部、まさかのトリ前。
モニターに映る見慣れたキャラクターイラストと電音部の文字。さぁどう来る? 個人曲か、ユニット曲か、それとも9人全員で登場か。
暗転。学校のチャイムに似た電子音が鳴り、合わせて照明が明滅する。電子音は加速し、合わせて観客の手拍子も早く。もはや連打から一音になったと思ったら止まり、再び暗転したステージには電音部ダンサーの姿が。まさかのダンスショーケース始まり! 行進曲を思わせるようなドラムに合わせてのダンス。気づけばバックで流れる電子音は、親の声より聴いた音に。Hyper Baseのイントロダクション。
ハラジュクエリア
『Hyper Bass 2022 (feat. Yunomi)』
初手からハラジュクを代表する電子ドラッグを持ち出し、暗闇にレーザーを走らせる演出と緑ベースの照明が、曲調に合わせた妖しさを演出する。ふと周囲を見れば、客席を埋め尽くす緑のペンライト――照明に合わせた選択であり、エリアカラーやキャラカラーを知らない証左。圧倒的アウェー感を味わいながら、自分はペンラをピンクに設定。
ウィスパーで連呼されるはいぱぁべぇすと、初見で聞き取れるはずがない早口歌詞。空間に取り込まれるこの感覚を、自分は1stライブの立川で味わった。しかしあの時は3千人規模のホール会場、今日は最大3万人収容のスタジアムだ。10倍の規模のハコで、あの時と同じ衝撃を味わえるなんて。
気づけば一瞬で曲は終わり、『Future (feat. ミディ)』へと繋がる。
ステージ照明の明度が増し、ハラジュクらしいポップな色と共に観客席を照らし出す。前曲とガラリと方向性が変わる、可愛らしいアイドルソング。Hyper Bassで突き放した客を、慣れ親しんだジャンルで引き戻すような落差。だが余計なことを考える暇もなく曲は終わり、知らない音が流れ始める。
アザブエリア
ハラジュクからMC無しのシームレスにアザブの番に。いつ3人がステージに出てきたのか分からないほどのスムーズさ。そして小宮有紗の第一声を聞いた瞬間に心で叫ぶ。――新曲じゃねえか!!!
『麻布アウトバーン (Prod. ケンモチヒデフミ)』
モニターには曲名表示がされていたらしいが、演者に見入る自分はそちらに気づかなかった。だがそちらを見るまでもなく、新曲であることを悟る。フェスのユニット1曲目が、完全に初披露の新曲。発想がイカれている――この時点で自分の興奮は頂点に達した。
音源版を聴いた今では、言うほど治安の悪い曲ではないと言える。だがこのバンナムフェス版は別だ。会場を揺らし続ける重低音と、ずっちゃん(澁谷梓希)のドスの効いた低音ボイス。小宮有紗の高音と立ち振る舞いがアザブの高尚さを保たせるも、ずっちゃんと秋奈のハイテンポな煽りが脳を揺らしテンションを加速させる。
そして満を持しての『IAM (feat. Shogo, Tsubasa)』
ほんの1週間前に公開されたばかりの最新曲。アザブVer.2とでも呼ぶべき、最高に治安の悪い新たなアンセム。バンナムフェスに挑むまでに、何十週聴きこんで来たか。イントロでUOをブチ折った。
あからさまに明度を落とした照明とレーザーが、アザブの妖艶さを際立たせる。ダンスの動きは大きく、複雑さよりはリズムに合わせて巻き込むような意図を感じる。ずっちゃんの観客煽りもさらに熱を帯び、秋奈の
「ブレーキ壊れてるみたい――にゃっ」
も完璧にキマる。小宮有紗のフリル多めのゴージャス衣装が大きく動き回っていて、そのまま引きずり込まれそうだ。天井が無い野外ステージで、ミラーボールが回っているような錯覚。それどころか、まるで爆音ライブハウスのような熱狂感。存分に爪痕を残して、アザブエリアが駆け抜けていった。
アキバエリア
『pop enemy (feat. Shinpei Nasuno)』
やはりシームレスに始まったアキバ1曲目。三者三様なアザブの衣装と違い、アキバの三人は衣装の統一感が強い。歌声も、露骨に差をつけるような作り方はせず、素に近いところの声を重ねているイメージがある。いわば、他のアイドルコンテンツに一番近い"わかりやすさ"があるユニット、それがアキバエリア。
……というのも曲を事前にさんざん聴いて、しかもアーカイブを見まくっている今だから言える感想かもしれない。リアルタイムでこんな冷静な分析出来るはずがなく、とっくに脳が焼き切れていた。自分の体が揺れるのを止められない。
急速に治安を取り戻したはずのポップな曲調に、しかし周囲のペンライトは翻弄され、色も振りも安定したようには見えない。そうか、アキバはピンクだったのか――。
自分の視界内で「ドーンだYO!」したのは一人か二人だったように思う。クッソ気持ちいいからもっと広まれ。いやもう記事執筆時点では広まっているのか。
『NEW FRONTIER!』
「電音部これが最後の曲でーす!」じゃないんだよ完全にヤリ逃げじゃん!! 演出決めた大人(J○NGO)もイカれていれば、それを成し遂げた演者陣にも大拍手。
さんざん未体験の音楽と演出をブチ込んでおいて、最後に「飛び込めNEW FRONTIER!」と電音部の世界へといざなう。しかも作者は石濱翔――同日参加のデレマスとアイカツにおいて、広く親しまれている作曲家だ。初見でも親しみを抱かせる、どこか温かみを感じさせる音と曲調。暴走させるような治安の悪さから、日の当たる世界に引き戻して、落着させるような選曲。アキバの演者三人とも、また楽しそうに、熱狂的に歌い上げるんだ。
後から思えばこれしかない!と思わせる、完璧な〆。個別挨拶も無しに「以上、電音部でした~」だけで全員引き上げて、MCのヒャダインにツッコまれてた時はむしろ誇らしいくらいだった。
電音部が"発見"された日
出番直後のMCパートでは、ヒャダインと宇垣さんの興奮が伝わってきたし、メインモニターに映し出された配信コメント欄の戸惑いっぷりすらも楽しく思えた。
終演後はひたすら電音部で検索し続け、広がる興奮の一部に自分もなったように思えた。曰く、約70曲のサブスク公開が素晴らしい。曰く、まだ最強に治安の悪いエリアが残っている。曰く、キャラクターごとにプレイリスト設定されているのがヤバい。曰く、1stライブは2000円でストリーミングレンタルできちまうんだ。etc……
そして、時間が経った今冷静に考える。
もし、バンナムフェスが1年前に開催されていたら、ここまでの広がりを得ていただろうか?
記憶が確かなら当時はアキバエリアの三人だけが参加する予定だったはずだし、電音部が一部界隈に畏怖を与えた『40週連続新曲デジタルリリース』
も計画段階に過ぎなかったはず。そして演者は、1st・2ndの大舞台を経験することなくドームに立つし、同じことは我々観客側にも言えただろう。
バンナムフェス2ndの現地に集った電音部ファンorフリークor電音部員(呼称が一つに決まっていないのも電音部らしい)は、あの場においてはごく少数派だった。
それでも、この2年間、数々の配信(リアルDJやGAMEのテスト等々)やリアルイベント(大規模ライブだけでなく、ピューロランドでのイベント開催もあった)、そして何より多くの楽曲たちがあったからこそ、
「電音部のためにバンナムフェス2ndに参加したい!!」
という熱が、我々の中に生まれたのだと思う。
この熱が、少しでもバンナムフェスでの盛り上げの一助になれていたら。そこまで言ってしまってはうぬぼれが過ぎるだろうか。
バンナムフェス2nd、電音部は、キャストのパフォーマンスも演出の力の入れようも、そして何より楽曲も、本当に本当に素晴らしかった。
他コンテンツを目的に来場した・配信を見た人達に爪痕を残したと、確信を持って言える。
2022年もまだ半分。電音部はこの勢いのままに突っ走って欲しいし、それを必死で追いかける自分でありたい。