床屋と本屋と100円玉
僕の地元は所謂ニュータウンというやつで、郊外にぽつんと位置しながら子育て世代が集まり暮らしている、そんな場所でした
町の外れには駅が一つ、それから地元のバス会社が鉄道とは別のルートで路線を敷いていて、住民はそれを使って仕事や買い物に出かける日々を送っていました
山奥にある割に子どもの数はめちゃくちゃ多く、ニュータウン内の小学校は1クラス40人、1学年6クラスという大勢の児童が通うマンモス校でした。僕はその中の1人だったわけです
町には小さな商店街があって、八百屋、魚屋、花屋、郵便局、喫茶店にブティック…少し経って小さなスーパーが出来ましたが、それによって他のお店が潰れるような事はなく、それぞれが活気よく営業していました
中でも思い出深いのが、床屋と本屋です
商店街の中にある床屋は、子どもたちの人気店でした
理由は髪を切るのがとても楽しいから…ではなく、店主のおじさんが毎回帰る時に「おこづかい」を100円くれたから(確か高学年になると500円)
薬局を挟んで床屋の2つ隣、散髪を終えて頭をピシッと整えた子どもたちが「おこづかい」を握りしめて本屋へ走るのがいつもの光景でした
本屋は僕たちにとって恰好の遊び場。軒下にはマンガが並ぶラック、ガシャポン、じゃんけんマシン(知ってる?)、カードダス、ビデオゲームなんかが所狭しと置かれています
初めに書いた通り、ニュータウンは郊外にあって車や電車でしか他のエリアへ行けない、子どもからすると「陸の孤島」でしたから、日常に刺激的なことはあまり起こらないのです。自ずとそういう場所が僕たちの娯楽の中心地になっていきます
新作マンガが入荷されれば「誰が一番に買ったか」なんて話が起こり、ガシャポンの中身が変われば朝から学校で噂が流れ、ゲームの裏技が発見された!と聞いて意気揚々と駆けつければデマだったり…
次に遊びに行った時には、どんな楽しいことが起こるんだろう?
時間が経てば新しい本が並び、流行りのキャラクターカードや新作ゲームが仕入れられる。そうそう、進級時に行う教材の新調もこの本屋でした
思えば子どもにとってそこは、変わり映えのない小さな町にある「新しい何かがやってくる場所」だったのかもしれません
(決して多くない)親からの小遣いと床屋の「おこづかい」を合わせれば色んな事が出来ます。低学年の子はカードダスやガシャポン、高学年になると立ち読みやゲームに興じるのです。僕もそうやって少年時代を過ごしていました
やがて低学年から高学年に上がり、中学に入る頃には遊び場が変わって僕の足は商店街から遠退きました。たまに参考書を探したり、教養の為にオトナな本を買ったりする時には訪れていましたが、下級生たちが笑顔で床屋から本屋へ走る光景は何年も続いていたのを覚えています
僕の育ったニュータウンは今から38年前に完成しました。我が家と同時期に移り住んだファミリー世帯のほとんどは、子どもが巣立って親が家に残るようになり現在は町の人口がずいぶん減っているそうです。現に、僕自身も実家を離れて暮らしています
おぼろげながら、確か自分が中学に入る頃にはマンモス校と呼ばれた小学校のクラス数も1学年4クラスに変わっていたと思います(1クラスあたりの人数も恐らく少なくなっていたでしょう)
2019年。今の住居が実家と2時間ほどしか離れていない事もあり、年に数回、僕はこの町へ帰っています。前に帰ったのは今年の9月…商店街ではどちらの店も同じ主が営業を続けていました。そして、
子どもたちは今も床屋で100円の「おこづかい」を受け取っているようです
時間の流れで人が少なくなった小さな町にも「いつもの光景」は変わらず続いていました。次にゆっくり帰れる時には久し振りに店を覗いてみようかな?なんて思った、今回はそんなお話でした
(しかし昔ながらの商店街って、年末年始は〆縄を提げて閉店しているんですよね。次はずいぶん先になりそう…)
※記事中に『フリー素材ぱくたそ(pakutaso.com)』様の画像を使用しています(現地の写真が手元にないので)