通話エリアで、聴かれてはならない音を録る
自分でも恥ずかしいくらい瞳孔が開いている。
術後、四日目。痛みによる興奮でまたしても寝付けずただただ「躁」を持て余す。看護師さんの採血しにやってくる。華族の令嬢ごとき恥じらいで、そっと開き切った瞳孔を隠す。採血が終わると、性懲りもなく、また歩行器で歩き出す。
まだ一人でトイレにも行けぬ状態だが、仕事に復帰してやろうと思っている。ラジオの収録である。入院前からリモートで参加できるよう手配してもらっていたのだ。なお本来、休むべきところをこちらから無理を言って参加させていただいている。
時間になったので歩行器で「通話可能エリア」に向かう。
病棟には通話エリアが二箇所設けられており、扉がある方とない方がある。
当然、扉がある方を選ばなくてはならない。
これから収録するのは街裏ぴんく『虚史平成』なのだ。
間違っても聴かれてはならない。もし、少しでも収録中の音源がスマホから漏れ、医師や看護師さんの耳に入ったら、入院が長引く可能性がある。
スマホ画面の向こうにいるぴんくさんを始めとする『虚史』の人間と軽く打ち合わせ、収録が始まる。その時、録ったものがこれである。
だが、少なくとも収録の間、痛みから解放されていた。
ただこんな音を聴いてしまえば、今日はもう瞳孔は閉じないだろう。
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