「冷蔵庫がやってきた」原案:インデックスお釈迦様
なぜ俺は冷蔵庫に追いかけられているというのか。
落ち着け。
そう、あれは確か、1週間前。
人工知能搭載で自動充電。
エコを極めた超高性能の冷蔵庫だというので購入したのが始まりである。
これが最悪だった。
まず冷やさない。ただ腐敗させない程度に保つのみ。ビールを入れてもほぼ常温。しかも一日に3本以上飲もうとすれば開けさせてもくれない。
自動充電も最悪。表面の太陽光パネルで充電するので、日当たりが悪いと勝手にキャスターで部屋を移動する。こいつのせいで、床は傷だらけだ。その苛立ちを抑えるため、ビールを飲もうとすれば、例のごとく開けてくれない。
さらに、スパルタであった。うっかりドアを開けっ放しにしてしまったときなど、怒号のようなアラームを鳴らし、俺に閉めるよう迫りくる。
廃棄しようとメーカーに問い合わせれば、持続可能性を追求した家電であり、まず故障しない。そのため生涯、廃棄はできない、とのこと。
ふざけるなよ。
俺は一生、冷蔵庫からのDVに苦しまなくてはならないのか。バカな。
そこから、山奥の湖に不法投棄するという発想に至るまで、さして時間はかからなかった。当たり前だ。冷蔵庫に生活をおびやかされてたまるか。車で運ぶ途中、扉が開きっぱなしになっていたのか、アラームが夜の湖畔に響く。
「うるせえなもう」
ガードレールから真下の湖に、思い切り放り投げる。やつが底に沈むにつれ、アラーム音は聞こえなくなった。
翌朝、当たり前のように、玄関さきに奴は現れた。大量の水と枝が開いた扉より流れ落ちてくる。太陽光発電とキャスターだけでここまで戻ってきたというのか。恐怖でしかない。
問い合わせるか?いや、不法投棄がばれてしまう。ここにきてやつは大音量でアラームを鳴らす。近隣の目が刺さる。
逃げろ。
ところが、奴も猛然と迫ってくる。ゴミ捨て場で追いつかれ、転ぶ。手で顔を庇う。肘が、開いていたドアにあたり、閉まる。
途端、やつは大人しくなる。どうした。
「お前、ただドアを閉めて欲しかったのか…」
冷蔵庫は踵を返すと、振り返ることなく、去っていった。
ゴミ捨て場で一人考える。この場合、不法投棄されたのは俺ではないのか。一瞬、問い合わせようとして、やめた