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「マスクの女」 原案:アール・浄瑠璃
【どんな原案だったかというと…】
*テレビ番組の収録でVTRを見るときだけ
メキシコのプロレスラーのマスクをかぶる女性タレント。
*ワイプに映るときは必ずマスクをしているが、
スタジオに戻ると何事もなかったかのようにマスクを取る。
*そして周りの出演者も特に気にしていない。
これが記憶喪失、なのだろうか。
病室のような場所で目が覚めた。なぜ、ここにいるのかもわからないい。ただぼんやり周囲を眺め、なんとなく近くにあったテレビを点けた。
世界情勢をジャーナリストが詳しく解説するという番組がやっていた。興味はないが、今はなんでもいいから情報が欲しい。
番組は「核ミサイル問題」「未確認飛行物体」「違法クローン技術」と色々解説してくれていた。ところが、あることが気になって内容が全く頭に入ってこない。明らかに一人、おかしな出演者がいるのだ。
鈴香(すずか)という若い女性タレント。
彼女はプロレスのマスクをしてVTRを観ている。そしてVTRが終わると平然とマスクを取って話し出す。素顔をみて、どきりとする。加えて恐ろしいのが、他の出演者がそれに全く触れようとしない。怖い。まずこれを解説してほしい。
しかし私は記憶喪失。もしかしたら、これが普通なのかもしれない…いや、VTRを観るときにプロレスマスクをすることが普通?そんなことある?ダメだ。わからない。
番組は世界を騒がせている「ドッペルゲンガー問題」の話題に移った。遭遇したら命を落すとされる自分と全く同じ姿の人間、ドッペルゲンガー。これが今、世界中で大量発生中だとか。
マスク女に加えてドッペルゲンガー。
混乱が続く。
「その対策として今、若い世代を中心にマスクで顔を隠す方法が広がっているんですよね?鈴香さん?」
ジャーナリストが鈴香に話を振る。
「そうなんです。いつ遭遇するかわからないんで、外出中は絶対マスクをしてます。で、このドッペルゲンガー、最悪なことに画面越しでも目が合ったらアウトらしくて。たくさん人が出てくるようなVTRとか配信は怖いんですが顔を隠すと大丈夫らしいので」
ジャーナリストが鈴香の対策を褒め称えている途中で、テレビを消す。
なんだ。あのマスクも要はドッペルゲンガー対策で若者の間に流行っていることを紹介するための「演出」だったのだ。私の記憶喪失など関係がなかった。
さて、番組で得た情報を整理しよう。
画面越しにでも自分と同じ顔の人、つまりドッペルゲンガーを見つけてしまったらアウトということは、私が今テレビを観ていてもしドッペルゲンガーが映っていたら死んでしまっていたのだ。
でも、私は死ななかった。
テレビに、同じ顔がいたのに。
と、いうことはつまり。
大量発生。なるほどね。
記憶喪失の理由もわかってしまった。
最初から私に記憶なんてなかったのだ。
なんだよ、私だって、本物の方が良かった。
ため息、舌打ち、それぞれ一つずつ。
もう、こっちから会いに行こう。
そしてあのマスクを取ってやろう。
テレビの黒い画面に映る、鈴香と全く同じ顔を眺め、ちょっと笑う。
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