「宴会場」原案：コロコロコロ助

【原案】
よく以前の職場の夢を見るそうで、複数の断片が。

　　　　・会議の時間が迫る中、営業先で営業車が見つからない。
　　　　・社員旅行で道に迷い、合流先に着けない。
　　　　・同僚の結婚式、なぜか結婚式場がわからなくなる。

ほぼノンフィクションとのこと。この中からさらに絞って
「社員旅行で道に迷い、合流先に着けない」を原案として決定。

　宴会場である「藤の間」には巨大なフジの花が飾られ「桜の間」もまた見事な切り枝の桜が活けられていた。ではその襖の向こう、旅館最大の宴会場「鳳凰の間」に何が待っていたかと言えば、開けるやいなや鋭い嘴が俺の額に突き刺る。恐らくは鳳凰であろう怪鳥が、なぜか俺をやる気満々である。
　
　最初、俺みたいな内定をもらったばかりの新卒でも社員旅行に行けるのか、など迂闊に考えていたが、違う。間違いない。まだ入社試験は終わっていなかったのだ。この鳳凰を打ち倒し、真の宴会場にたどり着けるかどうか。これが最終試験なのだ。「元気だけが取り柄です」、そう面接で繰り返してきたことを後悔する。
 
　今一度、案内状を確認。宴会場は全て襖で次の間に繋がっている。目指すべき合流場所は「鳳凰と龍のあいだ」とある。
　
　つまり、この「鳳凰の間」を抜け、「龍の間」の前に行けば、内定だ。
 
　なんて考えているあいだ、鳳凰とくればのんびり羽繕いに勤しんでいやがる。舐めんなこら。背面から忍び寄り一気によじ登り、細首を浴衣の帯で締め上げ、頭頂部の飾り羽をむしってやった。
 
　鳳凰はよほどショックだったのか、畳に嘴を突き刺し、しょげてしまった。勝利。晴れやかな気持ちで、最後の襖を開けた。

　ところが残念。次の間にはさっき倒したのとは違う鳳凰と、巨大な龍がとぐろを巻いている。
　薄々、そうなのではないかと思っていた。案内状を再び見る。そこ記載されているのは「鳳凰と龍の間（あいだ）」ではなく「鳳凰と龍の間（ま）」らしい。
 
　なめるな。「元気だけが取り柄です」に嘘はない。刹那にして龍の背に飛び乗り逆鱗を蹴散らせば、激昂した龍はのたうち回り傍の鳳凰をも薙ぎ払う。やがて龍も疲弊しきって動かなくなった。
 
　すると、拍手。
「おめでとう。合格だ。」
　ようや人間に会えた。人事部長らしき男がゆっくり俺の方へ歩み寄る。手を差し出す。
　
　俺は笑顔で龍から降りる。懐に手を伸ばす。先ほど案内図の裏に、額の血をインクにし、毟った飾り羽をペンにして書き殴った辞表を掴むと、人事部長の鼻っ面に叩きつけた。元気だけが取り柄です。