トランプと原爆とアメリカ人の女の子
通訳ガイドのぶんちょうです。
先日、アメリカのトランプ前大統領の発言から、ある個人的な経験を思い出しました。
「広島に原爆を投下したのは、必ずしも良い行為ではなかったが、第二次世界大戦を終結させることになった。そうだろう。長崎もだ。大統領には完全な免責特権を与えなければならない」という大統領選挙の集会演説中のトランプ発言です。
彼が言いたかったことは、自身の抱える裁判で大統領の免責特権を適用されるべきでしょ、と言うことですが、引っ張りだしてきたのが、なんとトルーマン大統領の日本への原爆投下です。
私が思い出したのは、10年近く前に案内したアメリカ人との会話です。通訳案内士として各所を案内しているときに、10歳くらいの女の子が「なぜ原爆を落としたの?」と独り言のようにつぶやいたのです。
その瞬間、正確に言えば、女の子の発言が完全に終わる前に、その子のお母さんがこう言ったのです。”To end the war" 「戦争を終わらせるためよ」と。
発言内容はもとより、私が、はるかに驚いたのは、お母さんの反応の素早さです。この複雑な背景をはらんだ歴史的事実が、いとも簡単に、まるで算数の九九の解答かのように解決されたのです。「にさんが?ろく」2x3=6 かの如く!
私が一呼吸してから、この小さな女の子にどこから説明しようかと考える間も与えられず、一刀両断。そして次の話題へ。
話の前後は覚えていませんが、おそらく私が二次大戦の話をしていたのではないかと思います。戦争の話はしない、特にアメリカ人にはしない。というガイドさんもいらっしゃいますが、私は、ほぼ全てのツアーで、戦争の話題に触れるようにしています。ただし、そこには一切の感情を込めず、歴史的な事実を述べるのみです。
話を戻して、親子の会話です。私には女の子に語りたいことが沢山あったのに、話題を変えられてしまったので、じくじたる思いだったことが今でも、はっきり思い出されます。
それにしても、あのお母さんの反応の早さは普通ではありません。用意された答えなのでしょう。さくっと終わらせることで子どもに考えるスキを与えたくなかったのかもしれません。
それは、今になってもわかりません。戦後80年近くが経ち、日本でもアメリカでも、戦争観は変化しました。それでも、アメリカではまだ、半数以上の人が原爆投下が正当であったと考えていると言われています。
しかし、最近は特にアメリカの若者たちの間では、原爆が戦争犯罪であったと考える人が増えているようです。情報を自ら取りに行けるようになった時代だからこそかもしれません。
もうひとつ、思い出したのは、これもずいぶん前の話ですが、15人くらいのシニアのグループと話していた時のことです。年齢のせいもあるのか日米の戦争の話にとても興味を示し、「あなたはパールハーバーについてどう思うか」と聞かれました。
ハルノートが政府間の公式文書であるかどうかは議論の余地がありますが、少なくとも、その存在があったこと、暗号解読のことを話すと、あり得ないという反応が大半でしたが、その中の1人の女性は知っていました。
グループにひとりでも知っている人がいたことで、1人の日本人の戯言と一蹴されずに済んだ気がしました。そして、この日本での話題をきっかけに、新しい情報を調べてくれたらと願ったことを思い出します。