NHKの番組「危険なささやき」を、コールド・リーディングの観点から見てみました…
2023年9月23日深夜にNHKで放送された「危険なささやき」という番組が話題になっています。
旧統一教会による信者勧誘の手口などを、実際の裁判の記録を元に再現劇にしたこの番組。当初は「悪魔のささやき」という題名で放映される予定でしたが、教団の抗議を受けて題名を「危険なささやき」と変更。しかし放映自体は予定通り行なわれた、とのことです。
たとえばこの件についての概要がわかる以下のyahooの記事には、9月27日午後の現段階で2800超のコメントがついていて、関心の高さがうかがえます。
旧統一教会、NHK番組に「明らかな侮辱」 異例の放送中止要求
元記事は毎日新聞
宗教やネットワークビジネスの勧誘には、「コールド・リーディング」(下調べなしで、相手に自分のことをよく知っていると思わせ、信頼させる会話術)が使われることが多いので、この番組が話題になっているのを知り、旧統一教会もそうだったのかもしれないと思い、NHKプラス(見逃し配信)で番組を見てみました。
番組を見ると、たしかにコールド・リーディングの定番のテクニックをいくつか使っているようでした。具体的に場面を拾ってみると、
(以下、あくまでコールド・リーディングの本を編集したことがある出版社の編集者としての解釈で、専門家の意見ではありませんが…)
3分55秒位~
勧誘者が<手相の勉強をしている。無料でいいので手相を見せてもらえないか>と被害者に声をかけた後で、手相を見て、
勧誘者「すごくいい手相です! あなたには、人を幸せに導く特別な力があります!」
と言うのですが、これはコールド・リーディングのテクニックでいうと、
<細やかな褒め言葉>(Fine Flattery)、または<シュガー・ランプ>(Sugar Lumps/砂糖の塊、の意味)
というテクニックです。
いずれも、タイミングをはかって相手を持ち上げ、気持ちよくさせるテクニックです。
そして4分25秒位~
勧誘者が、被害者の悩みを聞き出した上で、
勧誘者「そうですか。あなたは今、人生の転換期です。前向きに考えるといい時期です。(中略)大きく変われるチャンスの時期です!」
と言うのですが(ここで使われている「転換期」は旧統一教会がよく使う用語とのことですが)、コールド・リーディングの観点からすると、これは、
<ジェイクイーズ・ステートメント(ジェイクイーズの言明)>
というテクニック、と言えます。
ジェイクイーズはシェイクスピアの『お気に召すまま』に登場する、人生の様々な段階について語る人物ですが、その人物に名称の由来を持つこのテクニックは、人間なら誰でも通過する人生の段階をあたかも特別であるかのように扱いそのように相手に思い込ませるテクニックです。
さらに番組が進むと、神とサタンの対立、「万物復帰」など、旧統一教会独自の言葉や教義を、被害者が教えられ信じていく様子が描かれ、見ているととても痛ましいのですが……。コールド・リーディングのテクニックでいうと、これは、
<専門語のたたみかけ>(Jargon Blitz)
のテクニックと言えそうです。
<専門語のたたみかけ>(Jargon Blitz)とは、コールド・リーディングにおいて、相手に専門語を次々に浴びせかけ、自分と相手が共有していることになっている信念体系を強化したり、自分の権威を高めたりするために使われるテクニックです。
また、コールド・リーディングには、相手が疑問を抱いた時に使われる、
<リビジョン(調整)>
というテクニックが、よく使われるものとしては7種類ほどありますが──認識に関するリビジョン(調整)、時間に関するリビジョン(調整)など──、それに当てはまるテクニックを使っていると思われる場面も、再現劇の中に出てきます。
見逃し配信で番組を見てみて、結論として、旧統一教会は(教団がそれをコールド・リーディングと呼んでいたかどうかは別にして、結果的に)、コールド・リーディングの定番テクニックと重なる方法を採用していた、と感じました。
しかし、コールド・リーディング云々はひとまず置いて、番組自体、全体として、とても優れた番組だと感じました。
NHKさんには、ぜひこれを、レギュラー番組化してほしいものです。
シリーズ化すれば、悪質な勧誘の被害者を減らすための教育映像としても、広く使えるのではないでしょうか。
話を戻すと、コールド・リーディングの概要や具体的なテクニックを知っておくことは、この番組で紹介されたような悪質な勧誘への防衛策としても非常に有用です。
もし勧誘されたとしても、勧誘者がしゃべっているのを聞きながら、
「ああ、コールド・リーディングのあのテクニックを使ってきたな」「今度はこのテクニックか」
とわかれば、被害者になる確率が低くなるのは、間違いないでしょう。
しかも、コールド・リーディングの概要を知っておくことのメリットは、それが人間の会話術のテクニックを「抽象的にパターン化・体系化」したものなので、勧誘者がどんな教団やネットワーク・ビジネスであっても、どんな教義や専門語を使っていたとしても、その独自の言葉遣いに惑わされることなく、相手が使っているテクニックを見抜くことができる点です。
数々の悪質な集団の具体的な教義や用語をあらかじめ学んで知っておくことは、専門家・研究者ならできるかもしれませんが、ほとんどの人にとっては不可能です。
しかし、コールド・リーディングの概要とテクニックを知っておけば、どんな集団のどんな勧誘にも、それが人間の会話によるものである限りは、かなりの程度、対処できるはずです。
自分や周りの人々を守るための教養として、コールド・リーディングの概要とテクニックを、以下の本で一通り知っておいてはいかがでしょうか?
ぱっと見たところ自己啓発系の軽めの本に見えるかもしれませんが、心理学者や科学者やFBI捜査官が推薦している、非常に充実した内容の本です(心理学者などの推薦文は以下参照)。
本書では、コールド・リーディングの概要が示された上で、そのメカニズムが詳述されています。
著者は、自分が知っているコールド・リーディングの技術をオープンにすることで、読者が、コールド・リーディングを自分の生活の中で人間関係をより円滑にするためなどに役立てるとともに、コールド・リーディングを悪用して人を騙そうとする詐欺師などにひっかからないようにという意図も込めて、本書を書いています。
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