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【60ページ分を無料公開:第4回】書籍『中国はリベラルな国際秩序に対する脅威か?』より

『CHINA AND THE WEST 中国はリベラルな国際秩序に対する脅威か?』第2章から、ディベートの冒頭部分を公開します。
*この記事は連載第4回です。第1回から読む方はこちらです。

ディベートの命題:
CHINA AND THE WEST(中国と西側世界)
中国はリベラルな国際秩序に対する脅威か?

        賛成 H・R・マクマスター、マイケル・ピルズベリー
             反対 キショール・マブバニ、王輝耀


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(Image credit: ▷マイケル・ピルズベリー=Hudson Institute, Flickr. ▷キショール・マブバニ=mahbubani.net/ ▷王輝耀=securityconference.org/)


ちなみに、連載第1回でも紹介しましたが、元のディベートの動画はここにあり、

無料登録すれば、視聴できます。
動画は英語ですが、英語が堪能でない方も、動画を見てライブの雰囲気を味わってから以下を読むと、より実感を伴って読めるかと思います。


開幕

ラッドヤード・グリフィス 皆さん、ようこそ、いらっしゃいました。今回のムンク・ディベートは、中国についての討論を行います。私は司会のラッドヤード・グリフィスです。今回もまた、この討論会のシリーズの企画をし、司会を務めることができるのは光栄です。

北米全体でCPAC(カナダ公共問題チャンネル)テレビで視聴中の皆さん、アメリカ全土でC-SPAN(衛星公共問題ネットワーク・ケーブルテレビ)で視聴中の皆さん、WNEDとその姉妹局で視聴中の皆さんもようこそ。今夜、皆さんとごいっしょできることを大変うれしく思います。それから、独占ソーシャルメディア・パートナーであるFacebook.com のウェブサイトで視聴中の皆さんもです。ようこそ。そして最後になってしまいましたが、今回もこのロイ・トムソン・ホールを満席にしている、3000人を超すご来場の皆さん、こんばんは、ようこそ、いらっしゃいました!

こんにちの重要問題についてよりよい討論を行うために、いつも応援してくれる会員の皆さんにも感謝します。あなたがたの応援なしには、この討論会のシリーズを実現することは不可能だったでしょう。

そして、もちろん、毎年このように、世界でも最高の頭脳をこのステージにお招きすることができるのも、ピーター・アンド・メラニー・ムンク財団とムンク家の皆さんのご厚意と献身のおかげです。どうぞ、皆さんも盛大な拍手を! 財団とムンク家の寛大な支援なしには、この討論会のシリーズを続けることはできなかったでしょう。ピーター・ムンクは2018年3月に亡くなりましたが、彼の博愛精神はきっと受け継がれていきます。

さて今夜、私たちは今最も重要な地政学的問題について討論します。今夜のテーマは一日中、スクリーン上に掲示されていました。この一週間ずっとニュースでも報道されていました。そのテーマとは、中国の再生が国際社会のパワーバランスにどんな影響を与えるかという問題です。この重要な問題を深く考えるために、こんな命題を用意しました。「中国はリベラルな国際秩序に対する脅威か?」という疑問です。

ここで、この質問に含まれる用語をどう定義するか、考えておく必要がありますね。それは、「リベラルな国際秩序」とは、どういう意味かということです。この「リベラルな国際秩序」という言葉は、私たちの多くが育ってきた世界を表すキャッチフレーズです。人々、思想、物、資本が自由に行き来できる世界です。それは、法の支配によって、つまり、法を定め、法を守ることによって保証される世界秩序です。過去数十年にわたって、この世界秩序は、政策決定の方法として単独主義よりも多国間協調主義を守ることで支えられてきました。この世界秩序の下では、それぞれの国民国家に民族自決の資格と能力が与えられています。同時にそれは、これまで50年以上にわたって、多くの面において、アメリカ合衆国の軍事力と経済力によって保障されてきた世界でもあります。

そこで、今夜はいくつかの厳しい質問をしたいと思っています。こんな質問です。中国の政治的利害、つまり、中国政府から見た世界観、そして中国政府がこうあるべきだと考える世界観は、リベラルな世界秩序の価値観や制度とは相いれないものなのか。それとも、そのような考え方をすること自体が、中国の世界観に対する基本的な誤解にすぎないのでしょうか。中国政府は、敵ではなく、実は、多極間の競争と混乱の時代における、あるいは、アメリカが単独主義に向かっていると思われる時代における、リベラルな国際秩序の重要な同盟国なのでしょうか。

その答えを見つけるために、いよいよ今晩のディベータ―の皆さんにご登場いただいて、討論を始めていただきましょう。今日の命題「中国はリベラルな国際秩序に対する脅威か?」に対して、「イエス」と答えた側の討論者は、まず、アメリカ合衆国の元国家安全保障問題担当大統領補佐官で、著名な軍司令官(陸軍中将)でもあるH・R・マクマスターです。

今夜の討論でのマクマスター氏のパートナーは、今、アメリカで中国問題についての最も影響力のあるアドバイザーと言われている人です。彼はこれまで複数の政権に助言を与えてきましたし、ドナルド・トランプ大統領に対中国戦略の助言をするうえでは主要な役割を果たしました。ワシントンDCからおいでいただきました、マイケル・ピルズベリーです。

さて、この素晴らしい討論者のチームに対抗するのは、もちろん、それにふさわしい人たちです。今夜の命題に「ノー」と答えるのは、シンガポールの外交官であり、ベストセラー作家でもあり、国連安全保障理事会の議長を務めたこともあるキショール・マブバニです。そして彼のパートナーとなる人は、はるばる北京から来てくれました。グローバル化に関する中国随一の専門家であり、北京の重要なシンクタンクである「中国とグローバル化シンクタンク」の創設者で会長を務めるヘンリー・ワン、王輝耀(ワン・フイヤオ)です。

さて、いよいよ会場の皆さんに今夜の命題について事前投票してもらいましょう。

会場の事前投票では、76%が「中国はリベラルな国際秩序の脅威」と回答

結果が出ました。皆さんのうちの76%が、「中国はリベラルな国際秩序にとって脅威である」と考えています。反対は24%だけですね。ディベートを始めるにあたって、これは面白い投票結果です。しかし、忘れてはいけません。皆さんの考えは意外に簡単にひっくり返されるかもしれませんよ。

次に、第2の質問にも投票していただきます。第2の質問は、「あなたは今夜、自分の意見を変える可能性がありますか?」です。今日の討論者の皆さんの話を聞いた後で、自分の意見を変えてもいいと思っていますか?

イエスかノーか、討論を聞く前とは反対の意見に変わる可能性がありますか? 83%が、意見を変える可能性もあると答えました。さあ、これはとても流動的な討論ということになりますね。どちらの側も、聴衆の皆さんの意見を大きく動かす可能性があります。さあ、討論を始めていただきましょう。最初に、一人ひとりの討論者に6分ずつ、オープニング・スピーチをしていただきます。登壇の順番については、前もって合意しています。「イエス」の側のH・R・マクマスターから始めていただきましょう。

◎オープニング・スピーチ

中国は統治モデルを輸出し、リベラルな国際秩序を弱体化させようとしている

H・R・マクマスター ありがとう、ラッドヤード。皆さん、こんばんは。この素晴らしいイベントにお招きいただき光栄です。

習近平国家主席の下で、中国共産党は権力支配を強め、世界の主役となり、習主席の公約を遂行して、中国の利害に一致する新しいルール、新しい国際秩序の建設をリードすると決意しています。中国共産党は、国内の統制を強化して人の自由を抑圧し、独裁的支配を広げているだけでなく、その国内の統治モデルを世界中に輸出して、リベラルな国際秩序を攻撃し、弱体化させようとしているのです。

今日のディベートが終了した時点で、「中国はリベラルな国際秩序に対する脅威か?」という質問に皆さんがもう一度投票するときには、「イエス」と答えていただきたいと思います。中国共産党は中国の人々にとってだけでなく、中国以外の世界をも脅(おびや)かしているからです。

まず、リベラルな国際秩序とはなんなのか、そして、なぜ私たちはこのような国際秩序を守りたいのか、考えてみましょう。リベラルな秩序とは、北米やヨーロッパだけのものではありません。西洋だけのものでもありません。リベラルな国際秩序の主要な構成要素は、代議政治、法の支配、言論の自由と報道の自由、プライバシーの権利と信教の自由、そして、起業家精神をもち、勤勉で、社会に貢献する人たちが自分と家族とコミュニティーのためによりよい生活を営むことができる自由市場経済です。

カナダ人の皆さんはこのリベラルな秩序をとても大切に思っている、と私は信じています。カナダは模範的な民主国家であり、二つの壊滅的な世界大戦の後にこのリベラルな国際秩序を築き上げた国々の一つでもあります。ですから、カナダ人は、リベラリズムはたんなるイデオロギーではなく、カナダの多様なモザイク社会で人々の権利を守る統治システムでもあることをよくご存じのはずです。これまで約30年の間、自由な世界の中国に対するアプローチは、中国がリベラルな国際秩序を脅かすことはないという前提にもとづいていました。中国は必然的に西側世界に溶け込むだろう、経済を自由化し、やがて、政治制度も自由化するだろう、と私たちは信じていました。そのような変化を加速させるべく、西側諸国は中国を歓迎し、市場を開放し、資本を投入し、中国人エンジニア、科学者を、いや、人民解放軍の士官たちの養成をも助けてきたのです。しかし、時がたつにつれて、私たちは失望しました。

イデオロギー強化、党内粛清、新疆…30年間の支援は失望に終わった

私たちは改革に抵抗する中国共産党の力を甘くみていました。そして、党の政策決定にイデオロギーの果たす役割も過小評価していました。習近平は、イデオロギーを生き返らせています。これほどまでにイデオロギーが強化されたのは、あの数千万人を死に追いやった毛沢東の文化大革命〔1966~1977年。100万人超とされる死者、社会制度の破壊に帰結した〕以来、一度もなかったことです。習主席は党を支配するために、党内の粛清を進めています。150万人の幹部が罰を受けました。カナダ連邦全体の公務員の数の3倍以上です。彼はさらに習近平思想についての勉強会を義務づけ、習近平思想のアプリまで導入しました。党は新しいテクノロジーを利用して他の情報源をシャットアウトすると同時に、ジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984年』に登場するビッグ・ブラザー(偉大な兄弟)よりももっとひどく人々の生活に入り込んでくる警察監視国家を作りあげているのです。

少数民族や宗教上の少数派は最もひどい迫害を受けています。新疆(しんきょう)ウイグル自治区では、150万人から300万人ともいわれる人々が強制収容所に入れられ、洗脳を受けています。彼らの宗教や文化を抹殺するための洗脳です。さらに新しい収容所を建設中です。党は大学を強制捜索し、学生活動家たちが姿を消しています。彼らは何カ月もたってようやく、自分の罪を自白するビデオで姿を現します。何百人という弁護士、弁護士助手、教授たちが拘束されています。法の支配について書かれた本は大学の書棚から持ち去られ、処分されています。党はまるで強迫観念のように、メディアや人々の間のコミュニケーションを検閲しています。党は日常的に、反西側、反カナダ、そしてリベラルな国際秩序に敵対するプロパガンダ(政治的宣伝)を押し付けており、それとは異なる視点はありえません。中国企業の幹部がアメリカで行った銀行詐欺の容疑で法に従って拘束されると〔アメリカの対イラン制裁に違反する商取引を隠して銀行を欺いたとして、ファーウェイの最高財務責任者兼副会長・孟晩舟容疑者が、カナダで逮捕された事件のこと〕、中国共産党は反西側、反カナダのプロパガンダをまき散らし、人質を取るという手段で対抗しました。

中国はそのようなプロパガンダ作戦を海外でも展開しています。最近、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカでの研究で明らかになったことですが、このような作戦が、中国の目的に都合のよいように人々の意見を変えていくために行われています。海外にいる中国人留学生は監視下に置かれ、高等教育に不可欠なものである自由な意見の交換を行うこともできないでいます。党の「統一戦線」政策〔統治目標の実現のため、国内外の非共産党勢力に対し、政治的接近を図る政策〕によって偽の機関が作られ、この機関は偽の書類に首相の偽の署名をすることまでやっています。党は、南シナ海を我がものにしようとするなど、とんでもない侵略的行為に対する批判も黙らせようとしているのです。

中国でビジネスを行おうとする西側の企業に対して、党はその企業と従業員がチベット、台湾などに対する中国の政策を支持するよう要求します。中国は温室効果ガスの削減に努力するふりをしながら、地球の環境に毒をまき散らし、そして、一帯一路政策を利用して……。

R・グリフィス ありがとうございます。のちほど、すべての討論者のオープニング・スピーチを聞いた後で、あなたにはまた、それらのポイントのうちのいくつかについて話していただきましょう。

さて、王輝耀(ワン・フイヤオ)、次はあなたのオープニング・スピーチを聞く番です。どうぞ。

米国が築いたリベラルな国際秩序から、中国はおおいに恩恵を受けてきた

王輝耀 ありがとう、ラッドヤード。ご来場の皆さん、そして、著名なパネリストの皆さん、こんばんは。トロントにお招きいただいて、本当に光栄です。さて、今のマクマスター将軍のお話では、中国は大変な悪者になっていました。しかし、私はもっと客観的に見る必要があると思いますよ。

まず、私の個人的な話から始めたいと思います。私は文化大革命の時代を生きてきた人間です。およそ40年前、私はいなかで働いていて、収入は1日5セントでした。しかし、35年前、私はカナダに来ました。最初に住んだ都市がトロントです。トロント大学で学びました。素晴らしい大学でした。初めての授業の日、ある学生が寄ってきて、私にこう言いました。「触ってもいい?」。私が「いいけど」と答えると、彼は私に触りました。その学生は、「わあ、赤い中国から来たやつに触っちゃったよ!」。なにしろ、赤い中国から来た学生です。よっぽど怖かったんでしょう。私は二度とそんなに怖がられないように願っています。怖がらなくてもいい理由をこれから三つ、お話します。

第一に、中国は開放政策をとって以来、リベラルな国際秩序からおおいに恩恵を受けてきました。アメリカは、この素晴らしいリベラルな国際秩序を築きました。そこには、国連、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)などのすべてが含まれています。中国はそのすべてを受け入れました。そして、これまでの40年ほどで、8億人を貧困から救い上げることができました。それは、世界の人口の10%以上に匹敵する人数であり、世界の貧困が70%撲滅されたことになるのです。

ハーバード大学の元学長であるローレンス・サマーズが、2カ月ほど前に私たちのシンクタンクを訪れ、中国の変化はおそらく産業革命より大きなプロセスとして歴史に残るだろうと言いました。WTOに加盟して以来、中国のGDPは10倍に増えました。それも、中国がリベラルな国際秩序を受け入れたからです。中国は世界最大の貿易国です。100を超える国々が中国の経済活動から恩恵を受けています。世界のGDPの合計に対する中国の貢献は35%を超えています。中国は世界経済のエンジンになっているのです。

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