【まえがき全文公開】『デューン 砂の惑星』の原作者の息子が、公式コミカライズ版に込めた思いを語る
まえがき
フランク・ハーバートの古典作品『デューン 砂の惑星』は視覚的にもすばらしい体験をもたらしてくれるうえ、その壮大な物語性でSF界で最も愛されている小説だ。傑出したキャラクター造形と権謀術数に満ちた複雑なプロット、そして砂漠と銀河のめくるめく光景を備えた、この文学界の金字塔ともいえる傑作小説は、グラフィックノベル化するには完璧な作品だ。このグラフィックノベルを上梓(じょうし)でき、喜びの至りだ。
原稿を書く作業に入った時、わたしたちは最初から──出版元のエイブラムズ社の全面協力を得て──1965年に出たフランク・ハーバートの初版本の真に忠実なグラフィックノベルにすると決めていた。『デューン 砂の惑星』にわたしたちなりの解釈をつけるとか、ストーリーに自分らしさを加えるなどということにはいっさい興味がなく、ただただ純粋に忠実な──各章ごと、場面ごとに忠実な──『デューン 砂の惑星』にしたかったのだ。
むろん、それは登場人物のゼスチャーや会話の言葉をいっさい変えないということではない──絵には千語を費やすに等しい情報量があるのだ──が、わたしたちはフランク・ハーバートが当初口にしていた意欲的なストーリーを伝えたかった。もともとの小説は3分冊で出ていたので、グラフィックノベルも同様に3分冊で出ることになった。
原稿を書くのは、この挑戦ともいえる大作業のほんのはじまりでしかなかった。まず、この作品にぴったりのグラフィック・アーティストを見つけることが必要不可欠だった。エイブラムズ・コミックアーツ社の編集部の密接な協力を得て、大勢のアーティストの作品を閲覧させていただき、最終的にスタイルと想像力の豊かさから、表紙カバーはビル・シンケビッチ、中身部分はラウール・アレンとパトリシア・マルティンに決定した。それから、キャラクターデザインやコスチューム、テクノロジー、各種セッティング、“アラキス” 別名“砂漠の惑星デューン” 以外の惑星等の設定という問題を討議しなければならなかった。どの場合にも、わたしたちはフランク・ハーバートが設計したオリジナル「デューン」が守られるよう目を光らせ、グラフィックアートが彼の創り出したすばらしい世界にふさわしいものであることを確認した。
デューンはすでに何度か映画化されている。デイヴィッド・リンチ監督による1984年の映画、SciFi チャンネルのミニシリーズ、そしてドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によって新しくつくられたレジェンダリー社の映画。これらの映画作品には独自の審美的・ヴィジュアル的主張がある。わたしたちはこのグラフィックノベルもほかに類を見ない独立した作品にしたいと考えている。
グラフィックノベルの中身部分は、ラウール・アレンとパトリシア・マルティンに加え、エイブラムズ・コミックアーツ社の編集チームが作成した。わたしたちはページやレイアウトのぱっと見た感じや雰囲気を改良した。この第1巻の仕上がりにわたしたちはわくわくしており、残る2巻が出版されてこの小説のグラフィック化が完成されるのが待ち遠しい思いだ。本書が、冒険や政治、宗教、生態学(エコロジー)等多彩な要素が盛りこまれたフランク・ハーバートの息を呑むすばらしい世界に、たくさんの新たな読者をもたらしてくれることを願っている。
わたしたち〔注:原作者フランク・ハーバートの息子であるブライアン・ハーバートと、作家のケヴィン・J・アンダースン〕は1997年にはじめて手を組み、デューンの世界観での物語執筆を模索した。そしてそれ以来、デューンの歴史とキャラクターたちをさらに広げる、世界的ベストセラー小説をたくさん送り出してきた。そうした小説で、わたしたちはレト公爵やレディ・ジェシカ、ハルコンネン男爵、帝王皇帝シャッダム4世とその腹心の部下ハジミア・フェンリング伯爵の全生い立ちを展開させた。わたしたちは5000年先の未来を旅してフランク・ハーバートが創りだした叙事詩的大作を完成させ、1万年さかのぼって、〈バトラーの聖戦〉の起源、フレメンのアラキス到来、ベネ・ゲセリット教団や演算能力者(メンタート)、航宙士、航宙ギルドの設立について書き記した。わたしたちはそれらの小説に何百万ワードも費やしてきた──が、このグラフィックノベルはわたしたちにとって、資料の核心に踏み入り、フランク・ハーバートの小説にまさに彼が思い描いたとおりの生命を吹き込むという特別な、すばらしい機会なのだ。このイラストで綴(つづ)られた作品で、わたしたちは大勢の熱意あるデューン・ファンたちに、この年代を問わぬ最高傑作であるSF小説を新たなエキサイティングなヴィジュアルで再体験していただけたらと願っている。
ブライアン・ハーバート、ケヴィン・J・アンダースン