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ライオンとヒョウ

「僕、この麦茶の味好き!」
息子は様々ある麦茶の中で、「ミネラル麦茶」が好きなようだ。
「松島トモ子さんのね」
「えっ、誰それ?」
確かに、まだ小学生の息子には馴染みのない人物だろう。私が子どもの頃から「ミネラル麦茶」のCMは松島トモ子さんだった。
「♪ミネラ〜ルむ・ぎ・ちゃ」
(富山の薬売りに扮して)
「毒消しゃいらんかねぇ!」
いやいや、懐かしい!
しかし、松島トモ子さんを紹介するのに、何と言えばよいか。松島トモ子さんを語るうえで、一番に思い出すのは40年近く前にあったあの事故のことだろう。
「ライオンとヒョウに噛まれた人」
「えっ、両方に?死んじゃったの?」
「いや、九死に一生を得て、七十九歳で今も元気にされてるよ。」
「超人じゃん!」
息子はますます興味を示した。


それで思い出したのは永六輔さんの話。
ある舞台でゲストの松島トモ子さんを呼び込むとき、永六輔さんが
「今日のスペシャルゲスト。『ライオンの餌』松島トモ子!」
と紹介したそうだ。言われた松島さんもビックリ。
「餌になったら生きてないじゃないか!」
生きて帰ったからこその永さんの軽口だが、本人は生死の境を彷徨ったのだから全くもって洒落にならない。
松島さんはこの時のことを、「良くとれば」永さんの優しさだったのかもしれないと思うようになったという。それまでこだわって、恥ずかしいと思っていた事故を笑ってしまいなさいと。「ライオンの餌」と聞いて、観客はどっと沸いた。それでホッとした、「良かった」と。
それで開き直ったわけではないだろうが、松島さんがやっているブログのタイトルは

『ライオンの餌』

永六輔さんもあの世で笑っていることだろう。

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