通って慣れる
上野鈴本演芸場 7月中席夜席。主任は当代きっての人気落語家・柳家喬太郎師匠。お客様の投票でトリの演目を決めて10日間かけてゆく特別企画公演で、出演者も柳家文蔵師匠に、喬太郎師匠と同期の林家彦いち師匠と入船亭扇辰師匠が中入り前にあがる豪華なもの。落語ファン垂涎の番組となっていた。
ところがこの企画を台無しにする客があらわれたというのだ。東京スポーツが伝えるところによると、演者があがるときや、噺の途中でも構わず「指笛」を鳴らしたというのである。彦いち師匠は「受け流して大人の対応」、扇辰師匠は「しないようやんわりと(諭す)」などしたが、一向やめる気配がない。喬太郎師匠があがったとき、ひときわ大きい指笛が鳴ると、思わず師匠が「俺は犬じゃない!」と「ハッキリと不快感を示」した。それなのに、終演時に再び指笛を吹いたというのだ。
指笛を鳴らすことに「賞賛」の意味があることは分かるが、それがどのような場所、場面でそういう意味に取られるか、考えなければならない。まず、寄席という空間に指笛が合っているかといえば、全く同意出来ない。今まで指笛を吹いた客がいなかったか、というとそうではないと言い切れる。少なくとも一度、私は他の寄席で遭遇している。それは指笛なのか口笛なのか分からないが、とある噺家に向けて鳴らされた。演者も少し口を歪めたが、にこやかに高座について噺をはじめようとしていた。すると、その客の隣に座っていたおじいさんが、おもむろに耳打ちして客の膝元をポンポンと叩いた。そのあと、客は何度か頭を下げて、それっきりおとなしくなった。おそらくおじいさんに指笛を窘められたのだろう。ましてや今回は、演者からやめてくださいね、と伝えられていたのだから、その時点でやめるべきなのだ。
なぜ、そこまで指笛を鳴らすことにこだわったのか、あるいは執拗に指笛を鳴らしたのか、理由は本人しかわからない。寄席に何回くらい足を運んでいるのだろうか。他の劇場にはどうだろう。普段はどんなものを好んで見ているのだろうか。そんなことに頭を巡らせて今回の指笛のことを考えたが、それでも、寄席というお客様が無条件に楽しめる空間を、ここまで壊してしまったことには変わりない。このことを反省して、今後は絶対に指笛はやらないでいただきたい。そして、これに懲りず寄席に通ってもらえればいいと思っている。
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