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二つの顔

東京国立博物館『はにわ』展で、不思議な埴輪が展示されていた。表と裏、両面に顔のある埴輪。 

両面人物埴輪【和歌山県大日山35号墳出土】

和歌山県和歌山市の岩橋千塚古墳群に属する大日山35号墳は、6世紀後半に作られた全長86mの前方後円墳。この埴輪は造出(つくりだし 墳丘から小さく突き出た壇のこと)部分で発掘された。この頃の近畿地方の古墳では、造出部分に埴輪を置くことが多く、この大日山35号墳でも多種多量の埴輪が出土している。

首から下が発見されていない(破片が細かすぎて再現できなかった場合もある)ので、何を表したものかは分からないが、どうやら盾持人(墳丘の外側に立てられ、邪悪なものの侵入を防ぐ役割の埴輪)の可能性が高いとのこと。顔に鏃と矢羽根の文様が刻まれているのは刺青を表わしているとみられ、同様の模様が入った盾持人が奈良県田原本町の羽子田1号墳から出土していることから推測されている。これが盾持人であったとすれば、表と裏、両面で侵入者を睨んでいるのだから、「ガードマン」としては抜かりはなさそうだ。


今回の図録では二つの顔をもつ者として、飛騨国の「両面宿儺」が引用されている。

六十五年。飛驒國有一人。曰宿儺。其爲人、壹體有兩面。面各相背。頂合無項。各有手足 其有膝而無膕踵。力多以輕捷。左右佩劒。四手並用弓矢。是以、不随皇命。掠略人民爲樂 於是。遣和珥臣祖難波根子武振熊而誅之。 
(『日本書紀』仁徳天皇六十五年条)

【訳】六十五年。飛騨国にひとりの人があった。宿儺(すくな)その人は、一つの胴体に二つの顔があり。顔は各々反対を向いていた。頭頂が合わさり、うなじがなく、(胴体に)それぞれの手足があり、膝はあるが膕(ひかがみ=膝の後ろの部分)と踵がなかった。力強く軽捷(けいしょう=身軽ですばやい)で、左右に剣を佩き、四つの手で(二張り)並べての弓矢を用いる。これをもって、皇命(すめらみこと)に従わず、人民から略奪することを楽しんだ。和珥臣(わにのおみ)の祖、難波根子武振熊(なにわのねこたけふるくま)を遣わしてこれを誅した。

宿儺は二つの顔を持つため「両面宿儺」の名で知られている。この宿儺を討ったのが難波根子武振熊。武振熊は和邇臣の祖で、ここから春日氏、柿本氏、粟田氏、大宅氏、そして小野氏といった氏族が誕生する。


これからは妄想だが、もし武振熊ならば、この宿儺を討った武功を示すため、宿儺を表すような埴輪を置くかもしれない。それもわざと盾持人のような邪悪なものから墳墓を守る埴輪として。邪悪なもので邪悪を防ぐ。それはメデューサの首を盾に飾るように。
両面人物埴輪が、その異形でありながら下げ角髪(みずら)という貴人の髪形をしているのも、何となくまつろわぬ飛騨国の豪族といったイメージにも重なる。

いやいや、所詮は妄想なんだけれどもね。





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