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世界を切り取る理由

カメラ。
それは自分の世界を切り取る魔法のアイテム。
切り取ったものを何に使うかは、人それぞれ。
誰かに共有する人、自分の思い出としてしまっておく人。
作品として発表する人、後世に残すべく世界を切り取り続ける人。
何に使うかは人それぞれ。

僕はちょっとだけ違った。
もちろん思い出として切り取ることはあるけれど、僕が世界を切り取る理由はファインダーを覗いた先にいる人にあることを伝えるためだ。

彼女は鏡が嫌いらしい。
昔から彼女の部屋には鏡がない。
洗面台にも、風呂場にも。
どこにも鏡がない。
出かけた時も鏡をできるだけ避けているような素振りすら見える。
身だしなみは行きつけの美容院で整えてもらっているらしいけれど、
美容院には鏡ってあったような?

そう、彼女は自分の姿を見ることが嫌いだった。
なぜ嫌いになったのか、教えてくれることはないけれど。

けれど彼女は僕の撮った彼女の写真だけは嬉しそうにみてくれる。
自分の表情がどんな表情だとしてもだ。

だから僕は彼女の喜怒哀楽を切り取る。
彼女の喜怒哀楽の表情を彼女に伝えるために。

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