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創作×生成AI──個人的な指針と法的整理


概要:生成AI技術を創作活動に用いる者としてそのスタンスを表明し、法的・倫理的に留意したい事項を個人的に整理した記事です。

はじめに

 本記事は、過去記事「架空のシンガー生成過程」(※現在は非公開)から、法的な問題の整理部分を抜粋し、一部を加筆修正したものです。

 生成AI技術の過渡期において、自身の表現物を発表する以上、その考えを明示することは責務の一つだと考えます。そこで、あくまで個人的な整理に過ぎませんが、本記事を独立したかたちでまとめることにしました。

 私のスタンスが、生成AI技術との向き合い方に悩まれているクリエイターの方々にとって、なにかしらの一助となれば幸いです。






第1 生成AI技術と私の関係

1 生成AI技術に対する考え方

 生成AI技術を用いることについての私の考え方は、以下のとおりです。

MY ETHOS on generative AI technology
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I, Yugi, employ generative AI technology in parts of my work as a homage to human wisdom and cultural advancement. :*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:*:.:*:.:*
More Info:
*--∞- In adherence to existing laws, ethics, copyrights, and content guidelines, I warmly invite you to join me in experiencing the fragrance of a new civilization, much like the scent of flowers carried by the spring breeze, heralding the beginning of a new season.
*--∞- We are living through a period that future generations will likely learn about in their history classes as the "Intelligental Revolution", akin to the "Industrial Revolution" we know only from textbooks.
*--∞- Regardless of our varied perspectives on AI, it is a rare fortune to witness this monumental shift in civilization firsthand, not through books, as part of our own lives, feeling its impact with our own senses in real time, as true living beings.
*--∞- Thank you!

日本語訳:
生成AI技術に対する私の考え方
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私、由木は、 人類の叡智と文明の進歩への深い敬意を込めて、一部の作品に生成AI技術を取り入れています。
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詳細情報:
*--∞- 現行の法律、倫理、著作権およびコンテンツガイドラインを遵守しながら、新しい文明の香りを一緒に感じてください。それは、まるで春のそよ風が運ぶ花の気色、新しい季節の訪れを告げるものなのです。
*--∞- 私たちが「産業革命」を教科書で学んだように、未来の世代は、私達が今まさに生きている時代を、歴史の授業で「知性革命」と学ぶでしょう。
*--∞- AIに対する見解は人それぞれ異なるかもしれませんが、こうして教科書ではなく、私たちの生活の一部として、生身で、文明の転換を体験できることは、実に貴重な巡り会いであり、奇跡といえます。
*--∞- お読みくださり、ありがとうございます!


2 「ETHOS」と「POLICY」の違い 

 「考え方」といっても、上記の内容は「POLICY(方針)」ではなく、「ETHOS(精神・信念)」です。
 そのため、やや叙情的な表現を含んでいます。

 「POLICY」は時代の要請に応じて柔軟に変化するものですが、その根底にある「ETHOS」は揺らぐべきではありません。だからこそ、私が確実なスタンスとして明示するのは、上記の「ETHOS」のみなのです。

 一方、本記事の第2以降では、法的整理を踏まえ、生成AI技術を用いる上での個人的な留意事項をまとめています。これらは法改正などに応じて柔軟に見直されるべきものであり、固定的な結論を示すものではありません。

 そういう意味では、第2-3-(1)(2)(3)で示している各留意事項が「POLICY」に該当するのでしょう。

「ETHOS」はできる限り不変、「POLICY」は必ず可変であるべき。

 これは、あくまで「物事に対する考え方」に係る私個人の哲学に過ぎませんが、本記事はこのような視座のもとで読み進めていただければ幸いです。


3 利用している生成AI技術

 私が創作活動に用いている主な生成AI技術を、簡単にご紹介します。

  (1) 音声・歌声生成AIの活用

 私は、「由木」という名義で自作曲をYouTubeに投稿しています。歌唱を担当しているのは、「夕雨(ゆう)」という架空のAIシンガーです。

 「夕雨」は、AI歌声合成ソフトウェアACE Studio」専用のボイスバンクですが、公式の付属ボイスバンクではありません

 類似のソフトウェア「CeVIO AI」の「可不ちゃん」や「Synthesizer V」の「重音テトちゃん」のように、サードパーティーが追加販売しているものでもありません

 私が「理想の歌声を持つ、架空の、唯一無二のシンガーがほしい」と考え以下の音声・歌声生成AI技術等を用いて作成した、カスタマイズAIシンガー です。

使用ツール:
・音声合成・リアルタイム音声モーフィングプラグインVocoflex
歌声合成ジェネレーターACE Studio

作成ステップ:
1. 「
Vocoflex」のボイスジェネレーション機能を使用し、架空の歌声を生成。
2. 「Vocoflex」のモーフィング機能で、私自身の歌声と複数の架空の歌声をブレンドし、唯一無二かつ理想の歌声を作成。
3. 「Vocoflex」のボイスチェンジ機能を活用し、私が歌ったアカペラデータを上記の理想の歌声によるデータに変換。
4.「ACE Studio」のカスタマイズAIシンガー機能を使用し、上記の変換後データをクラウド上で学習させ、「ACE Studio」専用のボイスバンク(学習済モデル)を作成。
5. 完成したAIシンガーを「夕雨」と名付ける。

 詳細にご興味のある方は、以下の別記事をご参照ください。


  (2) 画像生成AI技術

 YouTubeに投稿する動画のサムネイル・イラスト等の作成に、画像生成AIを活用しています。

 以前は自力で描いていましたが、あいにくと絵心がなく、イメージに合ったイラストを作成するのに時間がかかりすぎるのです。

 しかし、私の表現手段のメインは 「詞・曲」であり、限られたエネルギーはできるだけ曲作りに充てたい。そこで、イラストの作成に以下の画像生成AI技術を活用する選択をしました。

使用ツールおよびモデル:
Stable Diffusion XLsd_xl_base_1.0
Stable Diffusion 3.5largemedium
FLUX.1flux1-dev-Q6_K.gguf
DALL·E(Chat-GPTを通じて使用、モデル不明)

活用方法(一例):
1. 曲の雰囲気や歌詞をもとにプロンプトを作成し、「Stable Diffusion XL」の「Text to Image(t2i)機能」で数十枚以上の画像を生成。
2. 
イメージに近い画像を選び、イラスト制作ソフト「CLIP STUDIO PAINT」で手描きの加筆や修正を施す。
3. 
加筆修正した画像をStable Diffusion XLやその他ツールの「Image to Image(i2i)機能」の各機能にかけ、細部を微調整。
4. 曲のイメージに近づくまで、2・3を繰り返し、複数の出力画像を組み合わせながら、動画のサムネイルとして仕上げる

生成環境等:
・DALL·E 以外は、すべてローカル環境に構築した「Stable-Diffusion-WebUI Forge」や「ComfyUI」上で生成。
・使用しているモデルは、いずれもツールの開発者によって公開されたベースモデル、または追加学習を行わずに量子化されたGGUFモデルに限定。

 私の場合、「曲」ありきなので、そのイメージに合うサムネイル・イラストを完成させるまでには、試行錯誤のプロセスが欠かせません。

 幸いにもローカル環境において生成しているため、大量出力や各機能を活用した細かな調整を行いながら、イメージに合う一枚を作り上げることが可能となっています。

 ある程度、納得のいく出力物がたまってきたら、「LoRA」を作成するなどしてさらなる作業効率化を図る予定です。

 きっと、既存のツールだけで充分に心象を絵で表現できる能力のある方にとって、これら画像生成AI技術は無為に時間を要するだけの代物でしょう。私が、楽曲生成AIを自らの作品に利用する意味を見いだせないのと同じく、明確な表現意図が先立つ場合の創作には不向きだなあと感じています。


(参考動画)
詞曲:由木 歌唱:夕雨
イラスト:Stable Diffusion XL × 加筆修正




第2 法的な問題の検討

1 前提及び基準

 本章では、生成AI技術の使用における著作権に関する法的な問題について、検討結果を「生成AI技術を利用するにあたっての個人的留意事項(メモ)」としてまとめています。

 もっとも、検討といっても、基本的には文化庁が発出した各種参考資料をそのまま踏襲した上で、実際の創作活動に照らし「こうするべきか?」と私なりに考えた点を併せて整理した程度のものです。

 そのため、検討の過程は割愛し、代わりにメモの各項に各種参考資料の該当ページを付記する形式とします。

 生成AI技術に関して多様な意見や議論があることを認識しているところ、私は感情に左右されることなく、現行法を基準とすることで、生成AI技術の利用における安定性や透明性を保ちたいと考えています。

 感情は現行法の改正を促す力にはなり得ますが、それを理由に現行法を無視することは、法治国家において望ましくない行為でしょう。

 もちろん、今後、法改正や社会的変化があれば、それに応じて柔軟に検討を見直していくつもりです。これは第一章の末尾でも述べたとおりです。

(余談)
 画像生成AIを中心とした生成AI技術について「外国で訴訟になっているから問題のあるツールだ」とする見解をしばしば目にします。しかし、これは法的な検討に値しないため、ここで簡単に私見を述べるにとどめます。

 そもそも、紛争解決のために訴訟を提起することは、法治国家において当然の行為であり、国を問わず一般的です。刑事事件として有罪が確定しているわけでもない以上、単に民事訴訟の当事者になったという事実だけで「問題あり」と判断するのは、裁判制度に対する偏った見方といえます。

 仮にその考えを個人の内で留めるだけでなく、外部へ広く主張して問題提起するのであれば、名誉毀損のリスクを避けるためにも、少なくとも相手方が訴訟を起こした目的や原因、争点について、訴訟記録や信頼できる資料に基づいた調査を行うべきでしょう。

 民事訴訟の背景は、通常とても複雑です。


2 参考資料及び免責事項

 本記事の検討結果を記載するに先立ち、参照した資料を示すとともに、免責事項について記載します。

  (1) 参考資料

 本検討にあたっては、主に以下の三種類の資料を参照しています。

  • 令和6年10月1日現在の関連法令および法制審議会の公開資料等
    (現行法の内容や立法趣旨の確認、ならびに今後の法改正の方向性の調査のために参照)

  • 令和6年10月1日現在の著作権等に関する専門書や判例等
    (現行法への理解を深め、司法府の判断基準を把握するために参照)

  • 令和6年10月1日現在の文化庁等による公開資料
    (行政府の見解を把握するために参照)

 なお、上記の資料の一部については、第3以降でリンクおよび引用を行っています。


  (2) 免責事項

 本記事に記載された検討内容は、現行法および行政機関が発出した各種文書といった信頼性の高い資料に基づき、本記事の執筆者(由木)が個人的な目的で整理したものです。

 本記事の執筆にあたり、正確性の確保には最大限努めていますが、個人の能力には限界があるため、法解釈の誤りや事実誤認が含まれる可能性があります。

 したがって、本記事に記載された検討内容について、本記事の執筆者(由木)はいかなる保証も行いません。

 生成AI技術の法的問題については、必ずご自身で一次資料をご確認の上、自己責任において慎重に検討するか、法律専門家にご相談ください。

 本記事の内容に関連して発生したいかなる不利益、損失、または損害についても、本記事の執筆者(由木)は一切の責任を負いません。

 本記事のコンテンツ(検討内容を含む文章・画像・動画など)の転載および複製を禁止します。ただし、著作権法上の権利制限事由に該当する利用はこの限りではありません。

 なぜ、このような免責事項を設けるのかというと、本記事の内容は、私個人が自らの制作指針とするために、他者との議論を経ず、孤独に検討したものを簡素に整理した、極めて個人的なメモに過ぎないからです。

 したがって、本記事の内容は一切鵜呑みにせず、拡散もご遠慮ください。また、類似の論点をお調べの方は、ご自身で一次資料をご確認ください。


3 検討結果

  (1) モデル選定時の留意事項

生成AI技術を利用するにあたってのモデル選定時の個人的留意事項(メモ)

 現行の著作権法には権利制限規定があり、一定の要件を満たす場合、利用者は権利者の許諾を得ずに著作物等を利用できる。
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」2(1)ウ / 5頁目)

 生成AIツール開発のための学習データとしての使用は、通常、著作物に表現された思想や感情の享受を目的としない利用であるため、同法第30条の4柱書により権利制限事由に該当し、利用の際に許諾を得る必要はない
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」2(1)ウ / 5頁目)

 ただし、学習データとしての使用に「享受」の目的が併存する場合、要件を満たさず、権利制限規定の適用はない
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」2(2)ウ / 10頁目)

 「享受」の目的が併存する例として、既存の学習済みモデルに対し、学習データ内に含まれる著作物の創作的表現を意図的に出力させるため、当該著作物を過学習させる追加的学習が行われた場合などが挙げられる。
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」5(1)イ(イ) / 20頁目)
※ 検索拡張生成AIにおける例もあるが、使用予定はないため、省略。

 したがって、使用するモデルの選定に際しては、違法性の高い追加的学習により権利制限の適用外となりうるモデルを避けるため、細心の注意を払う必要がある

 具体的に、以下のモデルは違法性の高いモデルとみなし、使用しない
著作物の権利者の許諾なしに当該著作物を出力させるために「ファインチューニング」を行っているモデル
同様の目的で作成された「LoRA(Low-Rank Adaptation)」等の追加的学習用モデル
合法なモデルと違法性の高いモデルをマージしたモデル

 合法なモデルの例として、以下のようなモデルが考えられる
生成AIツールの初期公開と同時に開発者によって公開されたベースモデル
追加的学習が施されているが、特定の著作物の意図的出力を目的としたものではないモデル
自身の著作物ないし生成AIで適正に出力した生成物や、パブリックドメイン等、権利的問題の存在しないデータを用いて追加的学習が施されたモデル
同様の手法で作成された「LoRA」等の追加的学習用モデル

 絵柄や作風は、アイデア等に類するため、現行の著作権法では保護対象とはならず、同法の罰則規定の対象外である
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」5エ(イ) / 23・24頁目・同2(1)ア / 4頁目)

 絵柄や作風に関する紛争の現状唯一の解決手段は、「違法性の高い特定のモデルにより具体的な法益侵害を受けた」として訴訟を提起し、認容判決を得ることである。しかし、この手段は個人クリエイターにとって現実的ではない。
 そのため、著作権法上の問題がなくとも、紛争を防ぐための道徳的配慮は不可欠と考える。特に、生成AI技術の急速な普及により、他のクリエイターへの尊重がより重要となる局面において、生成AI技術に不安を抱くクリエイターの心情を傷つける行為は、倫理的に慎むべきである

10 したがって、いわゆる「絵柄LoRA」や「作風LoRA」の使用は通常問題ないが、その選定には慎重を期すべきである。
具体的には、
特定のクリエイターの名を冠した「LoRA」
明らかに特定のクリエイターの絵柄や作風を想起させる「LoRA」
などは使用しない

11 また、共通した作風が一連の作品として評価されているクリエイターの場合、作風自体が著作物として認められる可能性があることに留意する
 その場合、類似した作風を生成することは「享受」目的と認定され、権利制限事由に該当しない場合、著作権侵害とされる可能性がある。
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」5(1)イ(イ) / 21頁目)

補足:
11
の「共通した作風による一連の作品群」について、資料には具体的な作品群までは例示されていませんでしたが、個人的にはジブリ作品等がこれに該当するのかなと考えました。社会通念上「●●作品」と呼ばれうるものだと個人的に解しました。


  (2) 生成時の留意事項

生成AI技術を利用するにあたっての生成時の個人的留意事項(メモ)

 生成AIツールを用いた生成行為や、生成物の利用行為が既存の著作物の著作権侵害に該当するか否かは、AIを使用しない創作活動と同様に判断される。
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」5(2)ア / 32頁目)

 AIを使用しない創作活動においては、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」の両方が認められると、著作権侵害に該当する(判例同旨・ 昭和50(オ)324 平成11(受)922)。
 生成AIによる生成物も、同様の基準で判断される。
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」5(2)ア / 32頁目) 

 「依拠性」および「類似性」の定義は以下のとおりである。
依拠性
:「既存の著作物に接し、それを自らの作品に取り入れること」
類似性:「既存の著作物の本質的な特徴を感得できること」
これらの基準に基づき、生成物が著作権侵害に該当するかが判断される。
(参考:「文化庁令和6年度著作権セミナー『AIと著作権Ⅱ』講義資料」47頁目 / 「AIと著作権に関する考え方について」5(2)イ(ア) / 32頁目)

 生成物による著作権侵害を防ぐため、以下のルールを遵守することが重要である
類似性を避けるため既存の著作物の表現上の特徴を模倣しない
 依拠性を避けるためプロンプトに著作物のタイトルを含めない」、「Image to Image(i2i)機能や同様の機能に既存の著作物を使用しない
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」5(2)イ(ア) ①/ 33頁目)

 自身が既存の著作物を意識していなくても、使用した生成AIツールが開発段階で当該著作物を学習している場合、客観的に「アクセスがあった」とみなされる可能性がある
 これにより、偶然の類似であっても依拠性が推認され、著作権侵害とされるおそれがあるため、そもそものモデル選定の段階で、違法な過学習モデルを避けることが必須である。
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」5(2)イ(ア) ①/ 33頁目)


  (3) 生成物に係る留意事項

生成AI技術を利用するにあたっての生成物の個人的留意事項(メモ)

 AIは法的な人格を持たないため、AI生成物が著作物とみなされる場合、その著作者はAI自身ではなく、当該AIを用いて創作した人となる
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」5(3)ア/ 39頁目)

 AI生成物が著作物として保護を受けるためには、生成時における創作的な寄与の程度を総合的に判断する必要がある。創作的な寄与のないAI生成物は、単なるアイデアにとどまり、現行の著作権法の保護対象とはならない。
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」5(3)イ/ 39頁目)

 AI生成物が著作物と認められるための具体的な要素には、以下のようなものがある。
① プロンプトの分量や内容
② 生成を繰り返しながらプロンプトを修正した過程
③ 生成物を思想や感情に基づいて選択した行為
(参考:「AIと著作権に関する考え方について」5(3)イ①②③/ 40頁目)

 生成物を自身の著作物として主張し、無断転載等のトラブルを防ぐためには、創作過程や創作的寄与の部分を記録しておくことが望ましい

 具体的な記録方法としては、以下のような手段が考えられる
① 日記やブログに生成過程を記録する
② 生成に使用したプロンプトを保存する
③ 生成手順や試行内容をスクリーンショットで記録する
④ 各ステップでの変更点や工夫点を簡単なメモとして残す
これらにより、創作的な寄与の存在が明確となり、著作物としての主張がより確実なものとなりうる




第3 参考資料へのリンク

1 関連法案

 生成AI技術の学習データとしての利用(学習データとしての使用が、権利除外事由に該当するか否か)に関する条文を抜粋し、リンクを貼ります。

 なお、著作権法第13条1号により、法文自体は著作権の対象外なので、以下の条文は自由に転載できます。


著作権法
(昭和四十五年法律第四十八号)

第五款 著作権の制限
(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四
 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
 二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
 三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
(令和六年法律第五十五号)
※平成三十年法律第三十号にて改正
※改正本条の施行日は平成31年1月1日

著作権法施行令
(昭和四十五年政令第三百三十五号)
※第三十条の四への言及はなし


著作権法施行規則
(昭和四十五年文部省令第二十六号)
※第三十条の四への言及はなし


 また、改正同条が施行されたのは平成31年(2019年)1月1日です。念のために、改正前の旧条文も調べましたので、以下に示します。


平成三十年法律第三十号による
改正前の旧著作権法

(技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用)
第三十条の四
 公表された著作物は、著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合には、その必要と認められる限度において、利用することができる。

著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
(平成二十八年法律第百八号)

 改正前の旧条文は短く、本条を拡充・整理する方向で改正が行われたことが分かります。これにより、少なくとも平成末期の時点で、関係省庁が「大深層学習時代の到来」を認識し、法整備を進めていたことが推察されます。

 なお、同法施行令(政令)および同法施行規則(省令)には、本条に関する具体的な記載がありません。 しかし、代わりに文化庁が詳細な資料を発出しており、大改正当時の行政府の解釈を明示しています。

 このとき発出された「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」という資料は、およそ6年経過した現在でも踏襲され、最新の各文書資料の随所で引用されています

 古い資料だからといって軽視せず、一読することを推奨します。


2 文化庁の公開資料

  (1) ウェブサイト

 文化庁が発出した各種文書の一部は、文化庁の公式ウェブサイトにて公開されています。

 また、同ウェブサイトには、

  • 「著作権」全般を扱う常設ページ

  • 「AIと著作権」に特化した特設ページ

が設けられており、必要な情報にアクセスしやすくなっています。

 以下に、それぞれのページへのリンクを掲載します。


文化庁ウェブサイト
トップページ


文化庁ウェブサイト
著作権全般に係るインデックスページ


文化庁ウェブサイト
AIと著作権に係る特設ページ


  (2) 文書資料(pdfファイル)

 以下に、文化庁および関連機関が発出した主要な文書資料(PDF)へのリンクを掲載します。


①「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」
発出者文化庁著作権課
発出日:令和1年10月24日
リンク:pdfファイル

  • 著作権法改正に伴う条解資料。

  • 一問一答形式で、改正の背景や行政庁による法的見解を整理した内容。


②「AIと著作権に関する考え方について」
発出者:文化審議会著作権分科会法制度小委員会
発出日:令和6年3月15日
リンク:pdfファイル

  • 上記①の「基本的な考え方」を踏まえ、生成AI技術に焦点を当てた資料。

  • 当面の間、生成AI技術に関する解釈の基準となる資料になりうる。

  • ただし、本資料は、表紙にも明記されているとおり、あくまで行政庁の「現時点の考え方を整理し周知すること」を目的としており、確定的な法的評価を行うものではないことに注意が必要。


③「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」
発出者:文化庁著作権課
発出日:令和6年7月31日
リンク:pdfファイル

  • ①②の資料を基に作成された、一般向けのパワーポイント資料

  • 要点を整理しているため、本資料だけでも基本的な理解は可能。

  • 「本ガイダンスを教科書」「前記各資料を参考書」として参照することで、著作権に関する致命的なトラブルを避けることができるのでは。


 その他、(1)で紹介した「AIと著作権に関する特設ページ」には、一般向けの講習「著作権セミナー『AIと著作権』」の過去の講演映像及びセミナー資料が掲載されています。

 セミナー資料は、上記③のパワーポイント資料よりもさらに簡潔で、行政機関が発出する文書資料に不慣れな方でも取り組みやすい内容となっています。そのため、初めて著作権に関する公的な資料に触れる方は、まずそちらを参照するとよいのではないでしょうか。

 また、同ページには、文化審議会著作権分科会法制度小委員会の過去の議事内容へのリンクも掲載されています。これら一連の議事録や会議資料は、今後の法改正の方向性を探る上で有用な情報源であるため、ご興味のある方は一読されることをおすすめします。




第4 参考資料の一部引用

 前章でリンクを掲載した文書資料のうち、生成AI技術の法的問題を検討する上で最低限把握しておくべきと考えた部分 を、著作権法第32条1項に基づき、一部引用します

1 デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方

 前章2-(2)-①で紹介した、著作権法第三十条の四が改正された当時の資料です。

   (1)「享受」という用語の定義

問6
著作物に表現された思想又は感情を「享受」するとはどのような意味か。

 「享受」とは,一般的には「精神的にすぐれたものや物質上の利益などを,受け入れ味わいたのしむこと」を意味することとされており,ある行為が法第30条の4に規定する「著作物に表現された思想又は感情」の「享受」を目的とする行為に該当するか否かは,同条の立法趣旨及び「享受」の一般的な語義を踏まえ,著作物等の視聴等を通じて,視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為であるか否かという観点から判断されることとなるものと考えられる。

「デジタル化・ネットワーク化の
進展に対応した柔軟な権利制限
規定に関する基本的な考え方」
(文化庁著作権課 R1.10.24 発出)
より引用

 まずは条文を押さえ、次に用語の定義を確認することが重要です。これは、法律を扱う際には必須の作業であるといえます。


   (2)「享受」を目的としない行為の具体例

問7
著作物に表現された思想又は感情の「享受」を目的としない行為とは具体的にどのような行為か。また、主たる目的は著作物に表現された思想又は感情の「享受」ではないものの,同時に「享受」の目的もあるような利用を行う場合は,本条の権利制限の対象となるか。

(中略)

「享受」を目的とする行為に該当するか否かの認定に当たっては,行為者の主観に関する主張のほか,利用行為の態様や利用に至る経緯等の客観的・外形的な状況も含めて総合的に考慮されることとなる。

(著作物に表現された思想又は感情の「享受」を目的としない行為の具体例について)
例えば,
・人工知能の開発に関し人工知能が学習するためのデータの収集行為,人工知能の開発 を行う第三者への学習用データの提供行為(問11参照)(中略)については,著作物の視聴等を通じて,視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用 を得ることに向けられた行為ではないものと考えられることから,「著作物に表現された 思想又は感情」の「享受」を目的としない行為であると考えられる。

(中略)

(同時に「享受」の目的もあるような利用を行う場合について)
法第30条の4では「享受」の目的がないことが要件とされているため,仮に主たる目的 が「享受」ではないとしても,同時に「享受」の目的もあるような場合には,本条の適用はないものと考えられる。
(中略)
また,漫画の作画技術を身につけさせることを目的として,民間のカルチャー教室等で手本とすべき著名な漫画を複製して受講者に参考とさせるために配布したり,購入した漫画を手本にして受講者が模写したり,模写した作品をスクリーンに映してその出来映えを吟味してみたりするといった行為については,たとえその主たる目的が作画技術を身につける点にあると称したとしても,一般的に同時に「享受」の目的もあると認められることから,法第30条の4は適用されないものと考えられる。

「デジタル化・ネットワーク化の
進展に対応した柔軟な権利制限
規定に関する基本的な考え方」
(文化庁著作権課 R1.10.24 発出)
より引用

 後半部分の「享受」目的ありとされる例が興味深いです。

 たとえば、漫画研究会のような有志団体が、研究や作画技術向上のために模写用として費用を出し合って漫画を共同購入し、回し読みするなどというよくある行為なども「享受」目的ありと認定される可能性があるのかもしれません。

 思えば音楽分野における「JASRAC」の徴収基準に似た論理構造ですね。漫画には「JASRAC」のような統一的な著作権管理機関がないため、現時点では単に見逃されているだけなのかもしれません。


   (3) 権利除外が適用されない場合にあたるか否かの判断基準

問9
法第30条の4ただし書の「…著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に当たるか否かはどのように判断されるか。

法第30条の4ただし書では,「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には,権利制限が適用されないことを定めているところ,当該場合に該当するか否かは,同様の ただし書を置いている他の権利制限規定(法第35条第1項等)と同様に,著作権者の著作物の利用市場と衝突するか,あるいは将来における著作物の潜在的市場を阻害するかという観点から判断されることになる。具体的な判断は最終的に司法の場でなされるものであるが,例えば,大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されている場合に,当該データベースを情報解析目的で複製等する行為は,当該データベースの販売に関する市場と衝突するものとして「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当するものと考えられる。

「デジタル化・ネットワーク化の
進展に対応した柔軟な権利制限
規定に関する基本的な考え方」
(文化庁著作権課 R1.10.24 発出)
より引用

 当時は、現在ほど生成技術が普及していなかったため、具体例もデータベースの売買に関するものが中心です。
 いずれにせよ、この種の判断は司法府が行うため、行政府としては過度に踏み込めない領域だと考えられます。


   (4) AIの学習データの収集等の法的解釈について

問11
人工知能の開発に関し,人工知能が学習するためのデータの収集行為,人工知能の開発を行う第三者への学習用データの提供行為は,それぞれ権利制限の対象となるか。

著作権法の目的は,通常の著作物の利用市場である,人間が著作物の表現を「享受」することに対する対価回収の機会を確保することにあると考えられることから,法第30条の4における「享受」は人が主体となることを念頭に置いて規定しており,人工知能が学習するために著作物を読む等することは,法第30条の4の「著作物に表現された思想又は感情を享受」することには当たらないことを前提としている。

したがって,人工知能の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録する行為は,「著作物に表現された思想又は感情を享受」することを目的としない行為に当たり,法第30条の4による権利制限の対象となるものと考えられる。
また,収集した学習用データを第三者に提供する行為についても,当該学習用データの利用が人工知能の開発という目的に限定されている限りは,「著作物に表現された思想又は感情を享受」することを目的としない著作物の利用に該当し,法第30条の4による権利制限の対象となるものと考えられる。通常は,人工知能が学習用データを学習する行為は,「情報解析」すなわち「…大量の情報から,当該情報を構成する…要素に係る情報を抽出し,…解析を行うこと」に当たると考えられることから,いずれの行為も第2号に当たるものと考えられる。

なお,旧第47条の7においては「情報解析」を「多数の著作物その他の大量の情報から,当該情報を構成する言語,音,影像その他の要素に係る情報を抽出し,比較,分類その他の統計的な....解析を行うこと」と定義されていたところ,時代の変化に応じて様々な解析が想定し得る状況となっていることを踏まえ,情報解析の定義のうち「統計的な」との限定を削除している。これにより,例えば,深層学習(ディープラーニング)の方法による人 工知能の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録するような場合も権利制限の対象となるものと考えられる。

「デジタル化・ネットワーク化の
進展に対応した柔軟な権利制限
規定に関する基本的な考え方」
(文化庁著作権課 R1.10.24 発出)
より引用

 膨大なデータを許諾なく収集するなどという行為を一体どのような建付けで整理したのか、非常に興味深いところです。個人的には、刑法分野における「機械は欺けない」という原則を連想しました。

 機械は欺くこともできませんし、何かを味わい、楽しむこともできません。哀しいですね。


2 AIと著作権に関する考え方について

 前章2-(2)-②で紹介した、有識者を交えた委員会の資料です。

   (1) 諸問題の検討区分

(ウ)開発・学習段階における著作物の利用行為
○ 生成AIとの関係において著作物が利用される場面を概観すると、大きく「開発・学習段階」と「生成・利用段階」に分けられる。

「AIと著作権に関する考え方について」
(文化審議会著作権分科会法制度小委員会 R6.3.15 発出)
より引用

 生成AI問題を論じる際には、段階を分けて検討する必要があることが示されています。本問題は関係者やデータの規模が膨大であるため、検討過程で混乱が生じやすいです。

 「開発・学習の主体とその動機」と「生成・利用の主体とその動機」が異なることすらも忘れがちであり、注意を要するポイントです。


   (2) 「開発・学習段階」における更なる区分

○ このうち、開発・学習段階においては、AI(学習済みモデル)作成のための学習や、生成 AI を用いたソフトウェア又はサービスの開発に伴って、次のような場面で著作物の利用 行為が生じることが想定される。
➢ AI 学習用データセット構築のための学習データの収集・加工
➢ 基盤モデル作成に向けた事前学習
➢ 既存の学習済みモデルに対する追加的な学習
➢ 検索拡張生成(RAG)等において、生成 AI への指示・入力に用いるためのデータベ ースの作成

「AIと著作権に関する考え方について」
(文化審議会著作権分科会法制度小委員会 R6.3.15 発出)
より引用

 先ほどの分類をさらに細分化した内容です。「学習データの収集・加工」や「事前学習」に関する記述は、前記「基本的な考え方」に記載された6年前の内容を踏襲しています。


   (3) 既存の学習済みモデルに対する「著作物」の追加学習

○ 上記ア(ウ)に示したような生成 AI の開発・学習段階における著作物の利用行為における、享受目的が併存すると評価される場合について、具体的には以下のような場合が想定される。
 ➢ 既存の学習済みモデルに対する追加的な学習(そのために行う学習データの収集・加工を含む)のうち、意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させることを目的とした追加的な学習を行うため、著作物の複製等を行う場合
(例)AI 開発事業者又はAI サービス提供事業者が、AI 学習に際して、いわゆる 「過学習」(overfitting)を意図的に行う場合
 ➢ 既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を、生成AIを用いて出力させることを目的として、これに用いるため著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の、著作物の複製等を行う場合
(具体例については後掲(1)ウを参照)。

「AIと著作権に関する考え方について」
(文化審議会著作権分科会法制度小委員会 R6.3.15 発出)
より引用

 現状、この点が最も大きな問題となっていると認識しています。

 追加的な学習に際しては、無作為に学習を行った基盤モデルに対し、感情溢れる人間が恣意的に学習データを選別するわけですので、基盤モデルと同じ法的整理が適用される筈がありません。

 別記事「架空×理想×無二のAIシンガー「夕雨」制作過程」において触れた、声優の方々によるNOMORE無断生成AI運動も、追加的な学習を問題視しています。

 さて、引用した文章ですが、前者は、学習済みモデルに対し、追加的学習のための複製行為のうち「学習データに含まれる著作物」を「意図的に出力させる目的」で「著作物を無断で複製等する行為」には「享受目的が併存すると評価される」(=権利除外の適用はない=学習のための著作物の無断複製は著作権侵害に該当する)と示しています。

 ここでいう「学習データ」とは、基盤モデル作成時の無作為に収集された学習データのことではなく、追加的学習のための学習データを指していると解釈することが文脈上自然だと思われます。

 そして記載ぶりからみるに、著作物を出力させる目的ではない、例えば単なるアイデアに過ぎないAI生成物、作品群とまではいえない絵柄や作風等の追加的な学習は、これに該当しないと反対解釈できます。

 なお、改めて確認するまでもありませんが、著作物とはいっても、自らが権利を有する著作物による追加的な学習は、第三者の権利を侵害するものではなく、法第30条の4の問題にはならないものですね。

 いずれにしても、追加的な学習を行うための学習データを収集する際には第三者の権利を侵害しないように充分注意を払う必要があるでしょう。

 また、引用した文章は、あくまで開発・学習段階に対する問題提起です。しかし、生成・利用段階の立場にあっても、モデルの選択にあたって「違法に収集された学習データによる追加的な学習が施されたモデルではないか」確認することは、権利侵害等のトラブルを避けるために必須と考えます。

 後者は、いわゆる「検索拡張生成AI(RAG)」の開発・学習段階に関する議論なので、私含め、大多数の個人には関係ないものですね。「大規模言語モデル(LLM)」の回答精度を高めるために施す追加的学習について検討されています。


   (4) 既存の学習済みモデルに対する「絵柄や作風」の追加学習

○ これに対して、「学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データに含まれる著作物の創作的表現の影響を強く受けた生成物が出力されるような追加的な学習を行うため、著作物の複製等を行う場合」に関しては、具体的事案に応じて、学習データの著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存すると考えられる。
 他方で、学習データの著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力することが目的であるとは評価されない場合は、享受目的が併存しないと考えられる。

○ 近時は、特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみを学習データとして追加的な学習を行うことで、当該作品群の影響を強く受けた生成物を生成することを可能とする行為が行われており、このような行為によって特定のクリエイターの、いわゆる「作風」を容易に模倣できてしまうといった点に対する懸念も示されている。
 この点に関して、いわゆる「作風」は、これをアイデアにとどまるものと考えると、上記2.(1)アのとおり、「作風」が共通すること自体は著作権侵害となるものではない

 他方で、アイデアと創作的表現との区別は、具体的事案に応じてケースバイケースで判断されるものであるところ、生成AI の開発・学習段階においては、このような特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみからなる作品群は、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまらず、創作的表現が共通する作品群となっている場合もあると考えられる。

 このような場合に、意図的に、当該創作的表現の全部又は一部を生成AIによって出力させることを目的とした追加的な学習を行うため、当該作品群の複製等を行うような場合は、享受目的が併存すると考えられる。
 また、生成・利用段階においては、当該生成物が、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該作品群のいわゆる「作風」と共通しているにとどまらず、表現のレベルにおいても、当該生成物に、当該作品群の創作的表現が直接感得できる場合、当該生成物の 生成及び利用は著作権侵害に当たり得ると考えられる。

「AIと著作権に関する考え方について」
(文化審議会著作権分科会法制度小委員会 R6.3.15 発出)
より引用

 引用した文章の下から6行目までは、学習段階において、「著作物の創作的表現の全部又は一部」ではない部分、恐らく「絵柄」や「作風」に類されうる部分の追加的な学習のために著作物を複製等する場合の問題点や懸念を示しています。

 なお、下から5行目以降は、生成段階においての話ですが、これは特に生成AI技術を用いた場合の話に限らないですね。

 いずれにしても、中段部分に記載のとおり、「絵柄」や「作風」は通常はアイデアに留まるものとして著作権法の保護対象にはならないため、行政府がなにかしらの一元的な基準を示せるものではなく、現実に発生した具体的な事案を、その都度、司法府が判断していくことになるのでしょう。

 それよりも、中段部分の「懸念」に関する記述を読んで、私自身も「懸念」を抱く部分がありました。作風や絵柄も著作物として保護されるべきだとする論調についてです。

 個人的には、これらを単なるアイデアとみなし、原則として著作権上の保護は不要だとするのが相当だと思料します。
 なぜなら、仮に作風や絵柄が保護対象とされた場合、没個性的な私のような者にとっては表現活動が制限されてしまうからです。

 実際、大多数の方々も、作風や絵柄が特定の権利として扱われたら、萎縮し、気軽な表現活動ができなくなるのではないでしょうか。絵、音楽、文章その他ありとあらゆる表現方法の全てにおいて突出した個性を持つ方はそうそういらっしゃいません。

 著作権法には罰則規定があるのです。
 憲法上保障されている「罪刑法定主義」及び「表現の自由」が同時に揺らいでしまう事態に陥ることは明白です。

 それにもかかわらず、作風や絵柄も保護するべきとする意見が、よりにもよって表現活動を主として行っている作家から多く出ているのは、極めて遺憾です。不正利用の被害に遭われたのかもしれません。しかし、気持ちは分かりますが、護るべき対象を見誤ってはいけません。

 生成AI技術への漠然とした不安感等を逆手にとった何者かに扇動されて、大切な自由を失う羽目に陥るのは、悪法もまた法なりと言えど、嫌ですね。


   (5) 「開発・学習段階」における「享受」目的の評価時期

○ なお、開発・学習段階における享受目的の有無については、開発・学習段階における利用行為の時点でどのような目的を有していたと評価されるかが問題となることから、生成・利用段階において、AIが学習した著作物と創作的表現が共通した生成物が生成される事例があったとしても、通常、このような事実のみをもって開発・学習段階における享受目的の存在を推認することまではできず、法第30条の4の適用は直ちに否定されるものではないと考えられる。
他方で、生成・利用段階において、学習された著作物と創作的表現が共通した生成物の生成が著しく頻発するといった事情は、開発・学習段階における享受目的の存在を推認する上での一要素となり得ると考えられる。

「AIと著作権に関する考え方について」
(文化審議会著作権分科会法制度小委員会 R6.3.15 発出)
より引用

 なお、学習された著作物と創作的表現が共通した生成物の生成が頻発したとしても、これが、生成 AI の利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成AIに入力・指示を与えたこと等に起因するものである場合は、このような事情があったとしても、AI 学習を行った事業者の享受目的の存在を推認させる要素とはならないと考えられる(後掲(2)キも参照)。

「AIと著作権に関する考え方について」
(文化審議会著作権分科会法制度小委員会 R6.3.15 発出)
より引用

 引用した文章に記載の評価時期や、なお書から、「享受」目的を認定しうるに至るまでの主張と立証は恐らく非常に難解だろうことが推測されます。
 司法府だって万能ではありません。本条に関する控訴審は、知的財産高等裁判所で統一的に扱ってほしいものです。

 さて、きりがありませんので、引用はこのくらいにしておきます。




おわりに

 生成AI技術を創作に活用すると決めてから今日に至るまで、さまざまな資料に目を通してきましたが、そのどれもが過渡期ならではの興味深いものばかりでした。

 本記事で紹介した資料は、現在の大生成AI技術時代において、必読・必携の書と言っても過言ではありません。日本語が読めるすべての方に、一度は目を通していただきたいと思っています。

 特に、生成AI技術を活用する方はもちろんのこと、反対の立場にある方であっても、今の法的状況を理解しなければ、適切に意見を述べることは難しいでしょう。

 感情というパワーは、とても貴重なものです。その貴重なパワーを無駄にしないためにも、生成AI技術に関して思うところがありながら、まだ資料をお読みでない方には、ぜひとも目を通していただきたいと願っています。

 もちろん、合法であれば何をしてもよいわけではありません。私自身も、多方面への配慮を忘れずに、慎重に慎重を期していきたいと考えています。

 冒頭で述べた「ETHOS」のとおり、私は令和最新の文化を謳歌したい。もっと簡潔に申し上げると、じゅうぶんに現代を楽しんでから死にたい。それが、私が今後も生成AI技術を各制作活動に活用し続ける理由です。



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