おかえりなさいをくれた人。
今朝、ゴミ捨ての帰り。
となりのアパートの入り口に「入居者募集」の看板が見えて、あぁ、春は引越しの季節だもんなぁ……としみじみ思った。
そして、そのあと自宅アパートに戻ると。
なんとうちのアパートにも「入居者募集」の札が付いていた。
ガスメーターに掛かった鍵ボックス。
お隣さんのメーターだった。
郵便受けには緑の養生テープ。
間違いない。
お隣さんが、知らぬ間に引っ越した。
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お隣さんは、不思議な人だった。
神出鬼没で年齢不詳。
何をしている人なのか、おそらくいつもその部屋にいた。
昼夜問わず、ぶつぶつ言いながら何処かへ出かけて行ったり、帰ってきたと思ったら突然叫んだり。
とにかくよくわからない人だった。
でも、何故か。
怖いと思ったのは最初だけだった。
挨拶がしっかり返ってくる人だったからかな。
夜に会うとおかえりなさいって言ってくれる人だったからかな。
家に入る時間がバッティングすると、私が入り終わるまで少し離れて待っていてくれる遠慮深い人だったからかな。
わからないけれど。
怖くなかったよ。私は。
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おかえりなさい、って言葉が嬉しかったこと。伝えられなかったな。
神出鬼没な"元"お隣さんが、新しい住まいで怖がられませんように。
名前も知らないけれど。
そう願っています。
*最後まで読んでくれてありがとね、おしまい*