雨色流ボーカルMIX備忘録 令和最新版 (後編)
前編はこちら
お疲れ様です。雨色神撫です。
前編に続いてボーカルMIXの話をしていきます。注意事項とか諸々は省略するので、必ず前編の後で読んでください。
ハモり処理
ハモに関しては基本的に左右に広げて真ん中を空けます。曲や場合によりますが、個人的にはハモリはボーカルよりもオケに近い立ち位置と認識しています。なので最近はあまりハモリが目立たずほんのり聞こえるくらいにすることが多いです。特に上ハモがメインを食ってるのが好きじゃないので、なんか鳴ってる?くらいでも良いと思ってます。
2トラックあればそれぞれパンを振るだけでいいわけですが、メインからMelodyneでずらして錬成したり、同じデータから常に同じ結果が得られるソフシンボーカルだと面倒なのでFXによるダブリングで対応します。
ダブリングプラグインについても過去に色々試してはいて、iZotope Vocal Doubler(無料)、Waves Doubler、Sonnox VoxDoublerを経由し最終的に落ち着いた結論が
・左右に広げることが目的のダブリングならトラック複製して手動加工
・厚みを増すことが目的ならVoxD
でした。ここでは前者を紹介します。
⓪メインとほぼ同様にFX処理
気持ち程度ですが、メインよりコンプのGRを激しめにして抑揚を平坦めにしておいたり、EQでのブーストを控えめにしてあまり主張しないようにすることが多いです。
①L用とR用の2トラックにセンド
見た目の都合上、メインの出力先はミュート用のダミートラックに送ってしまい、センドとして2トラックに複製することが多いです。
②片方に超ショートディレイ
これによって左右差を作ります。ここではL側にディレイを挿すとして説明を進めます。
私が使うディレイはほぼ全てNIのReplika XTなのですが、ここでもやはり使っていきます。ちなみに後述する空間系の説明でも出てきます。
設定値はこんな感じです
ディレイというよりもモジュレーション的な使い方と言った方が正しいかもしれません。
③両トラックにコーラス
厳密に言うと、コーラス(合唱やハモリという意味ではなくエフェクトの種類としてのコーラス)は原理的に超ショートディレイの派生と言うこともできます。なので、実はLRに振ったハモリのうち片方にコーラス(あるいはLRそれぞれに設定の違うコーラス)を挿すだけでも左右差を作ることは可能です。
わざわざディレイとコーラスを重ねる意味としては、「ディレイ感の緩和」と言ったら良いでしょうか……
今回②でディレイを挿すのはいわゆるやまびこ的な効果が欲しいわけではなく、LR間で音色に差を作りたいからです。ディレイによって生まれてしまう不自然さをコーラスによって緩和することができます。
絵に関しては門外漢なので間違ってたら申し訳ないですが、イメージとして画像編集に例えると
ディレイ→RGBずらし
コーラス→ガウスぼかし
みたいな認識が近い気がします。すいませんやっぱり違うかも。
具体的な説明ですが、ここで使うコーラスではSerumFXのChorusをほぼ初期値で掛けています。今まで微妙にピンと来なくてSerumFXあまり使っていなかったし、なんなら普通にシンセとしてSerumの音作りする時もインサートで別プラグインメインに弄っていたんですが、実はかなり有能な気がしています。Serum持ってたらぜひ試したほうがいいと思います。
ただし、曲との相性や好みによってはこの段階でのコーラス自体不要な場合もあります。少し前のことですが、依頼をいただいてMIXしたカバーについて依頼主の方から「ハモリのモジュレーションが強すぎるので控えめに」というご指摘をいただいてしまいました。(最終的にディレイによるダブリングのみ残し、コーラスはバイパスしました)
脳死でプリセット読み込みではなく、場合に合わせて必ず耳で聴いて調整しないといけないですね……
③ディレイと逆側の音量をほんの少し下げる
Lにだけディレイを掛けているので、このままだとハモリの定位が右にあるような聞こえ方になってしまいます。
対応として、私はR側を0.5~1dBほど下げます。トラックのフェーダーで下げてもいいですが、私はなんとなく見た目を揃えておきたいのでほんの少し下げたゲイン調整プラグインを追加します。
④パン振り
それぞれを左右に振ります。基本的にL100%/R100%でやってますが、そんなに広げたくない場合60%くらいから様子を見ます。一応この後の段階でも広がり方は調整できるので、お好みでどうぞ。
ここに限らずですが、私は基本的にDAWのパンポットではなくプラグインでパン振りをしています。
Boz Digital LabsのPan Knob(最近アプデが入ってUI刷新と新機能追加がされた)がおすすめです。ミディさんの受け売りですが確かに買ってよかったです。
⑤LRをバスにまとめる
扱いやすくするためにハモリはハモリでステレオ1トラックにまとめます。
追加で微調整もしやすくなります。
(⑥必要なら調整)
基本的にここまででハモリの処理は終えますが、必要ならバストラックで以下のような調整をします。
(a)Ozone Imagerで広がり方の最終調整
さらなる広がりが欲しい場合にここで広げたり、逆に広すぎるときに狭めたり。ただし位相の問題とかもあるので普通に④のパン振りを詰めた方が良いです。めんどくさい人向け。
(b)Waves CenterでMidの音量を下げる
不要な場合が多いですが、極端にセンターを空けたい場合にこういうのもアリかと。
(c)あえてサチュで厚みを増す
上の方でハモリは目立たせたくないと言ったばかりなのですが、どうしてもハモリが物足りなく感じる時にはここで歪ませます。プラグインで言うとSaturn2とか、Saturation Knobとかを使いがちです。
音量を上げずに密度を増すようなイメージです。
音量調整
ここまでで音作りが一通り完了したので、狭義の「MIX」をここから行います。
オケを基準に各ボーカルトラックのフェーダーを調節します。左右に広げたハモリに関しては、最終的にまとめたバスのフェーダーを弄ります。
基本的には、一番音がたくさん鳴っているサビなどをループ再生させながら調整します。後ほど最終調整は行うので、80点くらいを目指しておきます。
これに関してはコツというよりは訓練かな……と思っています。埋もれすぎず浮きすぎずのバランスを頑張って探ります。
一応私が考えていること↓(私の環境の話なので他の人の作業に適用できるわけではないことに注意)
原則ヘッドホンでMIXをしていますが、私の聴く環境だとかなり音の分離が高く、バックのオケの音が明瞭に聴こえやすいです。そのためヘッドホンのみでMIXしたものをスピーカーや他のイヤホンなどで聴くと、ボーカルが過剰に出ていることが何度かありました。加えて、ボーカルを継続して聴いていると耳が慣れてしまい大きすぎることに気づかないケースもあると感じました。
なのでそれを込みで考え、ヘッドホンで聴いたときに心地よいバランスからほんの気持ち程度(つま先くらい)ボーカルを後ろに下げるような意識をしています。また、スピーカーで音を鳴らせる場合は参考程度に併用して確認しています。
ただ、私の作業環境のスピーカーはかなり不完全な置き方をしている(申し訳程度にインシュレーターを噛ませて机直置きな上に机上がものすごく散らかっている)ので、あまり全幅の信頼は置いていません。細かい音作りはヘッドホンでほぼ全て行い、全体のバランス調整はスピーカー:ヘッドホン=4:6 くらいの使い分けをしています。
ボーカル全体をまとめる
全ボーカルトラックを1つのバスにまとめます。トラック名は「VocalBefore」としています(英語は適当)。
曲の中で極端な効果(急にオケが無音になって耳元で囁くとか)が必要なもの以外は基本的に同じ空間系を掛けるので、この「VocalBefore」からセンドで各空間系(!?)に送るようにしています。
・NectarとRelayでオケに隙間を空ける
VocalBeforeにNectarを挿し、念の為全てのモジュール(Pitchは削除できないのでそれ以外)を削除しておきます。
VocalBeforeのセンド欄から、オケトラックに挿したRelayへのサイドチェインを選択します。これでVocalBeforeとRelayが連携されました。
VocalBeforeのNectarを開き、Vocal Assistant→Unmaskを選択。サビなど一番ボーカルの音が賑やかなところを再生します。
処理が終わるとRelay側でEQが作動し、ボーカルと被っている帯域を削ってくれます。
ここでさらにもうひと手間。オケトラックのRelayを開き、Unmaskをクリックしてプルダウンを開きます。Unmask機能によってオケにかかったEQカーブを見ることができますが、その下のDynamic→Sidechainをさらにクリック。
これによりEQカーブがダイナミック処理に変化し、より正確なマスキング回避ができます。
Amountが100%のままだと削りすぎてスカスカになっている場合が多いので、だいたい50~60%くらいで調整します。
ちなみにこの動作、WavesfactoryのTrackspacerでもおそらく同じ処理が可能です。むしろあちらの方が知名度があるのと、サイドチェインに対するHPF/LPFなどが搭載されていて若干高機能っぽいです。
Nectar+RelayをTrackspacerに置き換えて同じ結果が得られるかどうかの検証をサボっているので、ボーカルの時には慣習的にこちらを使い続けています。ボーカル以外の帯域棲み分けにはTrackspacerを使っています。
そういえばNeutronにもUnmaskモジュールあったような?誰かiZotope vs. Wavesfactoryの被り対策対決を検証してくれませんかね 帯域の被りは解決できるけど役割の被りは回避できなかったみたいですね
空間系
ディレイ・リバーブを掛けていきます。
トラックのルーティングがやや複雑になっているのですが、画像と合わせて理解してもらえると幸いです。
①VocalBefore(ボーカル全体のバス)
②Room(ショートリバーブ/ルームアンビエンス)
③Delay(ディレイ)
④Hall(ロングリバーブ/ホール系かプレート系を適宜使い分け)
⑤VocalAfter(空間系を掛けた後の音全てのバス)
①→②③④(ボーカルを各空間系に送る)/①→⑤(dry音をバスに送る)
②→③④(アンビをディレイやロングリバーブに混ぜる)/②→⑤(アンビをバスに送る)
③→⑤(ディレイ成分をバスに送る)
④→⑤(リバーブ成分をバスに送る)
☆共通のポイント
・空間系の前段にEQ等
空間系をセンドで処理するメリットとしては「空間系の成分だけにFXを掛けられる」ということが挙げられます。
その際、空間系FXの後段で加工することもできるのですが、そもそも空間系FXに入る前の段階で音を弄ってしまうという手法があります。
詳細は後述しますが例えば、ディレイ成分において歯擦音が強く耳についてしまう場合、ロングリバーブが重く過剰に主張してくる場合など、様々に応用が利くテクニックです。
・②③④のトラックフェーダーは0dBのまま、センド量によって音量を調整。
原則として、センドトラックのFXはwet100%の音を作り、dryな音と混ぜる比率によってMIX量を調節します。
この時、トラックフェーダーでシンプルに音量調節をしても良いのですが、センドトラックに送る音量を変えることによってもwet成分の音量を変えることができます。
FXの種類などによっても挙動は変わると思いますが、多くの場合以下の2パターンでは異なる結果が得られます。
(i)元トラックからのセンド量を0dB、センドトラックのフェーダーを-20dBとしてバスに送ったもの
(ii)元トラックからのセンド量を-20dB、センドトラックのフェーダーを0dBとしてバスに送ったもの
ごくわずかな違いだとは思いますが、なんとなく後者の方が自然な結果が得られるように感じたのでそちらを採用しています。
・薄味を意識
特に私は以前から「ボーカルのリバーブデカいよね」と言われがちだったので気を付けているのですが、空間系というのは絶対に鳴っていなければならないものではないと考えています。
リバーブをたくさん鳴らすと気持ちよく聴こえがちであるということは事実だと思います。ただ、あくまでメインの音をよりよく聴かせるために存在していると考えたうえで、その音がどのような役割を担っているのかを考えながら使うことが重要だと思います(何にでも言えることではありますが)。
じゃあ純粋に音量を下げればいいのかというとそれは早計だと思っていて、例えばリバーブタイムをやや短くしてみるとか、ダッキングを試してみるとか、あるいは大きいのはリバーブよりもディレイなのかもしれないとか、色んな可能性を試すと良いと思います。
①VocalBefore
先述の通りです。作業の都合上まとめておくだけでほとんどの場合加工はしません。
②Room
ルームアンビエンス(部屋鳴り)を付加します。
反響の無い声というのは綺麗で加工しやすいものですが、そのまま聴くと現実感が無い音のように感じます。
この段階であえて短いリバーブを掛けることで、実在の空間で歌っているような演出をすることができます。要するに「馴染む」わけです。
この段階のリバーブを濃くしすぎるとお風呂になるので、自然さを第一に調整しましょう。そのまま聴くと鳴っているか鳴ってないかわからないくらい、でもバイパスと比較すると違いはわかるくらい、を目安に普段は調整しています。
・IK Multimedia T-RackS Sunset Sound Studio Reverb
(詳しくない方面の話なのでggって出てきたものほぼそのまま受け売りです)
ロサンゼルスにあるサンセットサウンド・スタジオは元々初期のディズニー作品の音声収録のために作られ、今現在も超一流スタジオとして有名な伝説的スタジオ……だそうです。サンセット通りにあるからサンセットサウンド・スタジオ。
そのスタジオに存在する様々なリバーブをサンプリングしたコンボリューション(IR)リバーブがこのプラグインです。
ルームリバーブだけでなくチェンバーリバーブやアイソレーションブース(いわゆる防音室)、ビンテージのプレートやスプリングリバーブも収録されているのですが、私は主に「LIVE ROOM」の「STUDIO 2」をルームリバ-ブとして使っています。
訳も分からずセールに釣られてIKの上位バンドルを購入後しばらく寝かせておいたのですが、「なんか持ってたからせっかくだし使おう」とノリで採用してみたら普通に好みな音だったために採用し続けています。
IRリバーブは重いと言われがちですが、このリバーブだと弄る箇所も少ないので問題なく使えるのではないかと思います。
使い方も、挿してMIX100%でプリセットを選ぶだけにしています。このプラグインの前後で多少調整することもありますが、そもそもごくわずかに雰囲気を付加する目的なのであまり時間は掛けないことが多いです。
・わずかにディレイやロングリバーブに混ぜる
これによってなんとなく空間系が馴染みやすくなる気がします。おまじないレベルではあるかもしれませんが。
バスに送る他に、センドで2トラックに送っておきます。
③Delay
・ディレイの前に調整
前述していた部分ですが、ディレイをかける前にFXを加えます。目的は主に以下の通りです。
(i)歯擦音を思いっきり削る
dryな音以上に、ディレイ音は歯擦音が耳につきやすいです。場合によっては6k~8k付近にガッツリLPFを入れてしまい、無声音がほぼ聴こえないくらいの状態までもっていってからディレイをかけることもあります。
あるいはディエッサーを挿してリダクション量を極端に大きくしておく場合もあります。聴き比べて良い方を選びます。
(ii)基音付近を緩く削る
こちらはやったりやらなかったりします。ディレイ音が重すぎると感じる場合には、緩いslopeで2~300Hz付近(基音あたり)にHPFを入れることもあります。
結果としてBPF的なEQをディレイの前段に挿入することが多いです。ちなみに、ロングリバーブに関しては高域と低域が逆の考え方になります(後述)。
・Native Instruments Replika XT
ハモリのダブリングで一瞬出てきましたが、基本的に私が使うディレイは全てこれです。Komplete無印には下位版の"Replika"が含まれていますが、こちらはUltimateに含まれている上位版です。
私はKomplete13無印所持ですが、これだけ単体で買いました。なんなら作曲せずにMIX専門の人であれば、Komplete買わずにこれだけ買ってもいいくらいおすすめできるディレイです。
なんといっても視認性全一。ディレイタイムと回数が直感的にディスプレイに出ているので、ディレイがよくわからない人ほど有用です。(もちろん最終調整は耳で聞いて決定しますが)
しかも純粋なディレイだけでなく飛び道具的な使い方も可能で、唯一無二性もちゃんとある。何においても言える話ですが、わかりやすさと多機能性が両立しているのが一番良いプラグインだと思います。
具体的な設定としてはTwitterで「何にでも合う魔法のディレイ」として見かけたものを丸パクし、それを基準として調整します。
・Time : 190msec
・Feedback : 26%
・MIX : 100%(センドなので)
・Standerd(ピンポンではない)
さすがに「何にでも合う」はTwitter特有の誇張表現なので、ここからTimeなどを調整します。
生音系、ギターが厚めなポップス・ロック系は概ねこのままで大丈夫なことが多いです。
縦ノリが重要なジャンルや軽快な曲(ボカロやインターネット音楽に多い)はテンポ同期にしがちです。
サビや特徴的なフレーズを取り出したとき、
(i)四分・八分系が主体 → Timeは付点八分や16分
(ii)付点系など16分クオンタイズが主体 → Timeは四分・八分
という基準で選ぶことが多いです。
メインフレーズとディレイのリズムをずらすことで、控えめ音量でもディレイに存在感を持たせることができます。
もちろんオケの雰囲気や場合によって選ぶものなので、必ずしもこの限りではありません。
④Hall
ロングリバーブです。以前はホール系しか頭になかったのでこのトラック名になってますが、最近はプレート系を採用することも多いです。
空間系としては一番メインになる音ですが、しつこくなりやすいのでやはり薄味を心がけます。
・リバーブの前に調整
(i)基音付近がしっかり削れるようなEQ
ディレイとは逆に、低域処理を強く意識します。場合によっては3~400HzくらいにHPF(12dB/octが多い)を入れ、第2倍音以上にリバーブをかけるくらいの認識で進めます。
リバーブの低域はとにかく重さに繋がるので、しっかり調整します。
(ii)高域が刺さるときは少し抑える
リバーブに関しては高域の伸びが欲しいので、上はあまり削らないことが多いです。どうしても気になる場合はディエッサーないしマルチバンドコンプ等で軽く抑えます。
・Relab Development LX480 Essentials
Lexicon 480Lというこれまた伝説的なデジタルハードウェアリバーブのモデリングプラグインがLX480です。
上位版のLX480 Completeになると弄れるパラメーターが激増するのですが、「Lexiconの音が欲しいという目的であればEssentialsの限られたプリセットを調整する方が手っ取り早い」とDAW LESSONさんが言っていたのでEssentialsです。(セールでかなりお安くなります)
その言葉は嘘ではなく、挿してPLATEかHALLのプリセットを選ぶだけでほぼ最適なボーカルリバーブになってくれます。もちろん曲によりますが、私は少しだけTIMEを短めにするのが好みです。
以前はiZotopeのNeoVerbとかも使ってたんですが、完全に乗り換えてしまいました。既に他のリバーブを使っている人でも試す価値はあると思います。
(・リバーブダッキング)
普通のボーカルMIXだと最近やらないですが、一応紹介しておきます。
「原音が鳴っている間はリバーブを引っ込め、鳴り終わった瞬間にリバーブが出てくる」という効果を演出するテクニックです。リバーブによって原音が濁りにくく、同時にはっきりとしたリバーブ感も出すことができます。
極端にダッキングさせることで独特のうねりと残響感が出るので、クラブ系ミュージックのリードによく使われたりします。
(参考 : https://mkshadw.fanbox.cc/posts/1799285)
(これとかわかりやすいです)
やり方としては、サイドチェイン可能なコンプをリバーブのセンドトラック後段に挿し、原音をトリガーにしてコンプが掛かるようにすると再現可能です。
サイドチェインコンプ自体あまり馴染みが無い方も多いかもしれませんが、WavesのC1コンプやNeutronのCompressorモジュールなどメジャーどころのコンプは大体可能です。ここでは質感付加をする必要はないので、デジタル系で見やすいコンプを使うのがおすすめです。私はBoz Digital LabsのManic Compressorをよく使います。
もっとも、私は一時期ボーカルリバーブにも採用していたのですが、どうしても不自然さが出てしまうので最近はやらないことが多いです。やるとしたらGRをごく軽めにするか、アタック/リリースタイムを遅くして不自然にならないことを徹底した方が良いと思います。
⑤VocalAfter
ボーカル全体の総まとめです。ほんの少し調整をします。
・SSL Native Bus Compressor 2
CSと同時に買ったやつです。いわゆるSSL系バスコンプと呼ばれるものの本家です。
これも色んな会社がモデリングしてるものなので、何かしら持ってる人が多いのではないかと思います。
Thresholdを下げ、GRが2~3dBになったら止めてMake Upを2~3dB上げます。バイパスと聴き比べて音量感が変わらないようにしています。他のパラメータはデフォです。
・そのほか必要であれば
ほんの少しEQを入れたりすることも稀にありますが、まあ前に戻って対応した方が良いと思います。
最終調整
・ボーカルのボリュームオートメーション
先の音量調整の部分でざっくりと音量バランスは調整済みなので、細かい部分をやっていきます。
Aメロやブレイクなどでオケの音量が極端に落ちる場合などに、ボーカルのインサート最終段にゲイン調整プラグインを挿してオートメーションを書きます。S1ならMixTool、FLならFruity BalanceなどほとんどのDAWには付属していると思います。私はA.O.M.のTriple Fader(フリー)を使っています。
トラックのフェーダーについては、他トラックとの相対的なバランス調整に使いたいのでオートメーションを書かないようにしています。
先の音量調整では一番音数が多い部分を基準に合わせているはずなので、その部分を0dBとし、-1~2dBまでの範囲を目安に音量を動かします。細かい調整ですが、意外にやるとやらないとでは印象が変わりやすいです。
・最終的な音量調整
空間系を含めた上で最終的な音量バランスを決めます。ここまで来るとコツとかは無いです。今までの作業が水泡に帰さないように丁寧に確認します。
2mix完成
お疲れ様でした。以上で2mixはほぼ完成となり、一通り確認してからマスタリングを行います。
(マスタリングについてはカバー/オリジナル関係なくほぼ共通の作業になりますので、また別の機会に書ければと思っています)
あとがき
自分の作業を明文化しておこうと思って書き始めたのですが、カウントしたら2万字近くて笑いました。これでも端折ったつもりなんです……
「2万文字 目安」でggったら、ある大学の卒論が2万字前後らしいですね。何?
ターゲットというほどではないですが、UTAUカバーとかやってる方が読むと割と発見があるのではないかなと思っています。
DTMというか作曲をやろうと思うと割と最初から覚悟して始めるものだと思うんですが、UTAUって創作文化の色が強いじゃないですか。
なので「うちの子が歌ってくれた」的モチベーションで楽しく調声 → いざMIXとなると突然サウンドエンジニアリング的な世界に放り出されるので、正直何したらいいのか分からない場合が多いと思うんですよね。というか私が分からなかったんですよね。
今回は初心者振り落とし全開で書いてしまったのでこんなところを読んでいる人がいるとは思えないのですが、そのうち初心者向けに最低限何をどうしたらいいか、をまとめた文章とか書いたらいいですかね……気が向いたら……
あと、「ここ何言ってるかわかんないんだけど」とか諸々あったら、Twitterで声かけてもらえれば答えます。お気軽にどうぞ。ダニング・クルーガー曲線の1個目の山に今いるので、他人に物事を教えるのが楽しくてしょうがないです。
という訳で長々と書いてきた解説もこのあたりで終わりです。暇な人はこの文章に出てきたプラグインの値段を調べて足してみるとオススメです。私はやりません。
ではまた。
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