親知らず
歯の話が立て続けに続いているが、飽きずに聞いて欲しい。
それは1本の親知らずを抜いた話である。
数年前のことだ。
親知らずの生え方が気になり、色んな人と親知らずトークになると言われる「生え方が悪いと虫歯になるらしいよ」と。
さながら呪文のように。
ただ、その言葉に恐怖を覚えた私は親知らずを抜くことを決心する。
まだ、平日に早退なんてよくないだろと働き方改革に背いていた時分。(休みに行けるだろって思った方いると思いますが筆者は色々面倒くさがりなものでそういう発想すらなかった阿呆です。)
近くの駅に夜間診療がある歯医者を見つけた。
今考えればよく見えるようにしか撮っていない院内の写真に騙されて行くのである。
院内はこじんまりとしていて写真と比べれば小さい。写真はそもそも消しゴムで消さなくたってマジックだ。小さく見える部屋も大きく見える。
受付に座るは60代のおばさま。
夜間とはいえは人気はなく、なにやら懐かしい匂いがする。
「〇〇さん。先にレントゲン撮りますねー」
と誘導される。
レントゲン撮り終わると昔さながらの椅子に座らされ先生を待つ。
来た先生は60代後半〜70代。
先生「うーんレントゲンを見る限りは大丈夫だと思いますが〇%の確率で上顎洞と繋がってしまうかもしれませんが確率は低いので。」
俺「はぁ。」
少し心配だ。
先生「じゃあ抜いていきますねー」
と先生は私を寝かしたあと麻酔もかけずペンチのようなもので左奥の歯に手をかけたのである。
そして支点・力点・作用点を駆使して歯を抜こうとするのである。
心配は増した。
先生「ふんっ!!意外と硬いですね…。ふんっ!!」
と先生は思い切り力を入れて私の歯を抜こうとする。
ー5分経過。
先生「ふんっ!!なかなか…ふんっ!!」
ー10経過。
徐々に親知らずが動き始める。
先生「ふんっ!!ふんっ!!」
ー15分経過。
先生「ふんっ!!」
俺「あがっ!!」
心配が爆発した。
先生が口から取り出したペンチのようなものには私の親知らずが挟まっていた。
先生は安堵の表情を見せていたがここから事件は起こる。
先生が離れた時に私が鼻呼吸をしてみると
ヒューヒュー。
と口の中から隙間風の音が聞こえるのである。
先生「どうですか?」
俺「なんか鼻から吸うと口の中でヒューヒューいいます。」
というと先生は急に焦り出して
先生「えええ!?それは大変です!!急いで処置します。型を取るので型を取ったら2時間後にまた来てください!!」
どうやら上顎洞と貫通したらしい。
緊急処置が始まり、私は言われるがまま型を取り一度家に帰り型がで上がるのを待ち再度歯医者へ向かった。
貫通した場所に脱脂綿を詰められ、取った型を上から乗せる。
先生「1週間は細菌が入らないように処置しますので毎日きてください。」
なんということだ。
貫通した上に毎日行く羽目になるとは。
ただ、以降の診察代はタダにしてもらえるとのことだったので怒りを抑えることにした。
上顎洞と繋がったままの生活は不便だった。
食べ物、飲み物が上顎洞に侵入しないようになるべく抜いた歯側を使わずに食べたり、飲んだり。
歯医者に仕事帰り行っては脱脂綿を交換し、消毒を受ける。
1日、2日と慎重な生活、通院を続けて7日目。
なんとか上顎洞とのトンネルは塞がった。
私はその時思った。
ちゃんとした病院に行こうと。
親知らずが生えてきたよ。
怖いから歯医者には行かない。
いえ、先生次第です。
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