なりすましの話を聴く
(登場人物はすべて仮名です)
コータがやってきた
高校2年生の担任をしていた9月のとある日。職員室で次の日の授業の準備などをしていると、ボクが担任させてもらっているコータ君が職員室にやってきた。
「ちょっといいですか?」「人の少ないところで話をしたいです」
コータ君はいわゆるやんちゃ系の生徒さん。でもボクはきらいじゃないし、なぜかボクのことは頼ってくれている感じがする。
以前にもこんなことがあった。ある日の土曜日は授業日だったのにバイトのシフトを入れていたらしく、「授業が終わってすぐに学校を出たら間に合うんっすよー。終礼は出なくてもいいですか?」なんてことを言ってくる。
「そんなもん、担任のボクが〈終礼は出なくていいよ〉なんて言うはずがないやろ!!だまって出て行って、次の日にみんなの前でしっかりボクに怒られておけー!(ニヤッ)」と言ったらニヤっと笑って「わかりましたー」と反応するような生徒さんです。
(土曜日、ホントに終礼をサボって帰りましたけど、たまたま教室に向かうボクと廊下で会って、また、ニヤっと笑ってきたので、ボクもニヤっと笑い返しておきました)
そんなコータ君がちょっと深刻そうな顔でボクのところに来たわけです。
どうしたらいいか、わかんないんっすよ
どうやらInstagramにコータ君のなりすましアカウントができて、イヤなことを書かれている、ということらしい。でもコータ君は「オレとしては、学校に相談して解決したくないんっすよ。どうしたらいいか、わかんないんっすよ」と少し悔し涙を流して訴えている。コータくんなりに状況証拠と推理で〈なりすましアカウントの生徒の目星〉をつけたらしい。そして放課後、詰め寄ったとか。当然、相手は知らぬ存ぜぬだったらしい。「手は出さなかったよね?」と確認するボク。「出さなかったっス」「でも悔しいっス」「あいつがやったかどうかもわからへんし、わからへんうちに言いに行った自分にもなんか腹立つし。もう、どうしたらいいんですかー」
ボクはなんにもできなかった
とりあえず、なりすましアカウントのスクショ(スクリーンショット)や記録をとっておく(証拠を残しておく)ことと、警察に被害届を出しに行くことをオススメしました。
(SNSのトラブル対応は、本当に難しいです。実質的な被害がないと警察はなかなか動かないかもしれません。なので交番でもいいので〈警察に相談に行く〉ということと、〈警察に相談している〉というアピールが抑止力になるかもしれません)
2週間ほど経過して
Instagramのなりすましに憤慨していたコータ君から、「なりすましの件、犯人、みつかったッス」と話があった。彼曰く〈地元のチンピラみたいなヤツ〉なのだそう。ボクに話に来たときににコータ君が詰め寄った生徒さんではなかったことがはっきりしたようで、「ちゃんと謝ります」というコータ君。どうやってなりすましの人をみつけたのかも少し聞いたけど、あまり深くは突っ込まないことにした。ややこしくなりそうだから。
見つかってよかったなあ。
自分でうまく解決できたんだろうなあ。
ボクはゆっくり話を聴くことしかできなかったけれど、いい思い出です。
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