市民による市民の為の市民の水道(後編)
前回は岩手県雫石町のペンション村における事例、イギリス・フランスにおける事例をお話ししました。
フランスに至っては再公営化に伴い、市民が水道事業の運営に参加する仕組みが設けられましたが、こういった事例はブラジルでも行われています。
【公共事業に参加する市民】
ブラジルのポルトアレグレ市(地名の意味は“陽気な港”)では市民達が公共事業の優先順位をどうするかを、地域ごとで話し合って決めているのです。
こうした取り組みは、スペインやインドの一部のエリアでも行われています。
【再公営化を阻む壁】
このように世界では公共事業を公営化し、一部では市民の参加まで実現しています。
しかし、日本では水道事業を含めて一度民営化された公共事業を二度と公営化出来なくなる可能性があるのです。
その理由はTPPなどの貿易協定に含まれるラチェット条項(規定)です。
ラチェット条項とは、簡単に言えば『一度緩めた規制は二度と厳しく締め直せない』というものです。TPPにおけるラチェット条項は以下のようなものになっています。
『規制強化につながる法改正は原則として禁止』
『自国産業を守るためにいきなり外資の出店規制を厳しくするなどの変更は不可能』
『適用範囲は企業活動に関連する分野にとどまり、食や人命の安全に関わる規制強化は含めない』
しかし、水道料金が値上がりし『安全な水を不自由なく利用出来る生活』が脅かされても“水道料金の値上げは人命の安全に関わらない”として一蹴される恐れがあります。
これと改正水道法が合わされば、日本の水道事業は大きな危機に晒されます。
何故なら改正水道法では『地方公共団体以外の者』・『地方公共団体以外の法人』という記述があるからです。水道事業を民間業者へ委託する事が前提になっていると見ていい。
これにより民間業者に水道事業を委託する事が容易になった水道法。これとラチェット条項が合わされば『水道事業は簡単に民営化出来る。そして再公営化は不可能』という環境が出来上がるのです。
【民営化したい。でも失敗のリスクは背負わない】
何故、ラチェット条項との合わせ技を準備してまで再公営化の可能性を潰すのか。
それは、民営化に潜むリスクを恐れているからだと筆者は考えています。
民営化によって税金の支出を減らしたいと考えている人達にとって、『民営化が失敗し、再公営化する際にかかる“買い戻し費用”』は怖い筈です。
実際、他国では再公営化の際に“民間業者との契約を白紙化する事で生じた高額な違約金”を支払う形で買い戻す例が確認されています。例えば………………
🇺🇸アメリカ:インディアナポリス市
違約金…2900万ドル(当時のレートで32億6000万円)
🇩🇪ドイツ:ベルリン市
違約金…12億5000万ユーロ(当時のレートで1500億円)
※13億ユーロ(1600億円)という情報もあります。
決して安くない額です。水道事業を民間業者に売却したい側からしたら、多額な違約金を請求されるリスクが付きまとうのは嫌でしょうね。
だから、ラチェット条項との合わせ技まで準備しているのではないか。
しかし、私はこれを『責任の放棄』と断じます。民営化するなら、『民営化が失敗した場合は責任をとる』覚悟が必要です。
それを避けて水道事業への支出を無くすという“旨味”だけを取ろうとするのは虫が良すぎる。
行政側は水道民営化のリスクから逃げて、市民だけがリスクを背負うような形で民営化を推進するのは控えめに言って暴挙です。
それでも水道民営化に賛成しますか?
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