運命の子猫 2
家族
コンコンッ
「なっちゃーん!朝ご飯よー!」
ノックの後、部屋の外から母の声がした。
私はとても降りられないと思っていた地面に凄い勢いで飛び降り、素早い身のこなしで勉強机の下へ隠れた。
母が部屋に入ってくる。
「あら、いない……?」
机の下を覗きこまれたら終わりだ。
家の中に野良猫がいるとなれば、どうなるか分からない。
私は小さい頃から猫アレルギーで、母はそのことをとても心配していた。
「なっちゃーん!トイレなのー?」
母はトイレの方へかけて行った。
母が部屋を出て行った気配を感じた途端、一気に体の力が抜ける。
私はもう人の言葉を発することができない。抱き合うことも笑い合うことも、できない。
母の悲しそうな顔が目に浮かぶ。
すぐに父のつらそうな顔も浮かんだ。
これから先のことを考えることを止めるように、私はかなり広くなった自分の部屋から出る方法を考え始めた。
机の下から出て、窓を見上げる。
窓には猫でも爪を引っ掛ければ開けられそうな部分が見えた。
再びかなりのジャンプ力で窓までたどり着き、窓の鍵を頭でなんとか開ける。
そして窓の引っ掛けに爪を掛けた。
(せーのっ!)
私は全力で腕に力を込めた。
爪の間から血が滲むほどに力を込めて引っ張った。
しかし窓が開くことはなかった。
猫の力では、到底開けられる重さではなかったのだ。
「お父さん!大変!!なっちゃんがいないの!」
母が私がいないことに気付いて父へ助けを求める声が聞こえる。
この部屋に二人が来るのも時間の問題だ。
二人が階段を登る音が聞こえる。
私はどうすることもできず、慌てて布団の中に潜り込んだ。
「本当だな。」
父の困惑が感じられる声がした。
なぜこんなことになってしまったんだろうか。どうして、こんな目に合わなければいけないのだろうか。
両親の切迫した言葉を聞いたあとで、とても今の姿を見せることはできなかった。
私はただただ、見つかることを恐れながら悲しみに暮れていた。
「お父さん、どうしましょう。」
母がそう言うと、父は
「少し待ってみよう。何も伝えずに一人で出掛ける何かやむを得ない事情があったのかもしれない。」
と言って部屋を出ていった。
母も少し遅れて父の後を追っていく。
私はただただ、悲しみを感じることしかできなかった。