無意識/偶然 に発生するパクリを防ぐ方法&3分で読めるレイルロオドのお話「黎明期のハチロク」
はやくも9月中旬です。
にもかかわらず、残暑、というには厳しすぎる暑さでなかなか秋らしい日を迎えることができずにおります。
残暑の酷暑ですから、まさしく残酷、でございますね――
と書いてすぐに思い当たって検索したら、少なくとも2022年には同じことおっしゃってた方を確認できました。
かように、「シンプルなアイディアにはほぼ確実に先行者がいる」ものでございます。
また、もしかするとわたくしは2022年当時に当該のツイートを目にしていて、しかし忘れてしまっており。
「記憶には無いのだけれど、結果としてパクってしまった」 という危険性もありません。
パクリ、というものはそれが意識的なのもであれ無意識/偶然のものであれ、いまの世の中発覚すれば徹底的に叩かれてしまう可能性を有するものかとも思います。
そこで本日は
「無意識に/偶然に パクってしまうことを防ぐための方法」をいくつか考えてみたいと思います。
1:アイディアの複雑化
例えば「鉄道を制御する少女形アンドロイド」という設定であれば、先行例はあったかもしれません。
また「新交通機関の発展により、鉄道が滅びかけてしまった世界」という設定も、おそらく先行例が多数あるでしょう。
しかし、「新交通機関の発展により、鉄道が滅びかけてしまった世界で、鉄道事故により家族を亡くしてしまった青年が、鉄道事故により鉄道を制御する機能を損なってしまった少女と出会い繰り広げる、癒やしの物語」――と、2つのアイディアを組み重ねれば、これは先行例がなかった(発表以来、一件も「この物語はパクリである」との指摘を受けていない)物語となります。
ので、アイディアがシンプルすぎるときには、他のアイディアと組み合わせることによって独自性を模索する方法が有効なのではないかと考えます。
2:できる限りの調査
アイディアに関連するキーワードを検索したり、あるいはAIに「これこれこういうアイディアの作品の先行事例はありますか?」と聞いてみたり等、いまは先行事例を調査することが昔よりも容易になっているかと存じます。
また、信頼できる人たちに「こういうアイディアを考えているんだけど」と共有すれば、先行事例を知っている誰かにいきあたる可能性をあげることができるかとも存じます。
考えうる限りの手段をつかい、先行事例を当たることもまた、ストレートに有効な方法かと存じます。
3:認知バイアスの存在を意識する
認知バイアスとは、過去の経験や自身が抱えている思い込みなどによって、正常な判断ができなくなってしまう現象です。
この認知バイアスによって、無意識、偶然のパクりが発生しているか/いないかの評価が不合理になってしまう可能性があります。
先行事例との明らかな類似が認められているにもかかわらず、「これならパクリになっていない」と判断してしまったり、
全体としてはパクリとみなされないであろう事例の、些細な部分一致にとらわれ「パクってしまってる!」と判断してしまうようなケースです。
自身の認知バイアスがどうなってるかなど自覚できるはずもないのですが、AITテスト
https://implicit.harvard.edu/implicit/Study?tid=-1
などで、限られた範囲の認知バイアスの傾向についてはテストできるようです。
ただ、このテストででてくる結果をパクリ/パクリではないの自己判断の精度をたかめることに応用するのは難しそうに思うので――
「パクリかどうかを判断したい」と考えた案件については、「これってパクリになっちゃってるかな?」的に、信頼できる複数の方に聞くのが、安全そうかな、とも思います。
――つらつらと書き連ねましたが、明らかな盗作ではない場合の「パクリ、パクリではない」の判断って、とくにSNS上などでは
「受け取った人の印象」とか「声が大きい人の判断」で大きく左右されてしまうものかとも存じます。
そこを気にしすぎるせいで創造の自由が損なわれるのも悲しいことですし、
さりとて気にしなさすぎて「パクリ認定」を受けて炎上などしてしまえば、その後にも影響が出てしまうかもしれませんし……
いずれにしても、上記した3つの方法は、「常に行って損はない」ものかとは存じますので、少しでも参考にしていただける部分あれば幸いです。
で、WEBTOON作品
『レヱル・ロマネスク0』のネーム&字コンテの方は、前回までで
第41話『過去の疵』の1話分まとめ公開
をいたしましたので、今回は更新お休みさせていただきます。
かわりのメンバーシップ限定記事といたしましては
『企画草案にかかれている各種設定(抜粋)』
を公開いたしました。
冒頭の部分はどなたにもお読みいただけますので、
もしご興味おありの方がいらっしゃったらチェックいただけますと幸いです。
で、本日の短いお話は「類似デザイン」をテーマとさせていただきかく思います。
登場するレイルロオドは、ハチロク。
タイトルは『黎明期のハチロク』
どなたにも無償でお読みいただけるお話となりますので、もしよろしければご笑覧いただけますと幸いです。
■ハチロク■
御一夜鉄道8620専用レイルロオド。
マスターである双鉄の家、右田家の一員として暮らしている。
記憶に欠損はあるものの、鉄道史に明るい。
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『黎明期のハチロク』
なんでしょう、獣の唸りのような音。
あるいは、歯痛に苦しむどなたかのような……
「うーーー、うーーーーー、うーーーーーーーん」
音をたどってそっと歩けば、気づきます。
階段をのぼってすぐの、日々姫のお部屋。
「うーーーーーん、どぎゃんしよー……。うーーーーーーん」
苦悶の声です。
繊細な悩みなのかもしれませぬが、体の痛みなどなのかもしれませぬ。
前者であれば邪魔せぬほうがよろしいでしょうし、後者であれば様子を見に行くべきでしょう。
どちらであるのか、今少し慎重に見極めなければ――
(ぱきっ)
「え?!」
「あ」
床鳴りです。
日々姫の唸りが止まります。
「にぃに?」
「いいえ、わたくしハチロクです」
「ハチロク! ならちょうど良かった。いまちょこっとだけ大丈夫?」
「はい。でしたら――失礼しますね? ――わ!」
画用紙。床一面に散りばめられて、いっそ華やかとさえ映ります。
「ロゴデザイン。発注元からの指示が異様に細かい案件でね?」
「はい」
「そいば外さんよーにデザインすると――」
日々姫が示すデイスプレイ。
それに映るロゴマアクは、わたくしでさえ存じ上げているものです。
「――どぎゃんしてもこんテイストになってしまうん」
「それは、あるいは……このロゴマアクに似せてほしくて、そのような細かいご発注となられたのでは?」
「やっぱり!? ハチロクもそぎゃん思うと? 私もそぎゃん思うてしもーて……そうしたらもう、どう外そうとしても似てるとしか思えんよーになってしもーて」
「似ていることには、問題が?」
「あると! 世間さまからパクリって思われて、パクりデザイナーのレッテルばはられてしもーたらもう、その後のお仕事に支障でまくっちゃうでしょお」
「なるほど」
「やけん、もう完全に詰まってしもーて! ね、ハチロク、どぎゃんしたらよかって思う?」
「わたくし、デザインは完全に専門外なのですが……」
「専門外だからこそ! 逆に見えてくることもあるでしょお!」
「と、申されましても……」
すがりつく目に、罪悪感さえ覚えます。
そもそもわたくしと日々姫では、「パクリ」というものに対する感覚が大きく異なっていることでしょう。
「……わたくしがロオルアウトし、仕事に邁進しておりました時期には、類似デザインなど当然のことでございましたのに」
「そぎゃん時代ばあったと?」
「そう遠い昔の話でもございませんよ?」
話すうち、なにか見えてくるかもしれませぬ。
切り口は……せっかくです、わたくしと同じ名前の機関車のことからはじめましょう。
「例えば、日ノ本でつくられた一番最初の蒸気機関車――860形からしてもそうです」
「860形! って、ハチロク!?」
「はい、左様です。わたくしの8620形の前のハチロク――量産されず、たった一両だけのハチロク。
この860形は、部品のほとんどが詠国から輸入された上、設計もA8系と呼ばれる、当時の主流だったタンク式蒸気機関車を、完全な下敷きとした機関車だったのです」
「下敷きって……パクリってこと?」
「今の世の中でしたらそう評価されたことかもしれませぬ。が、当時は良く働く蒸機の構造や寸法を真似るのは、当然の技法でございました」
「そぎゃん時代があったとねぇ」
「左様ですね。模倣と改良を繰り返すことで、蒸機は、鉄道は発展していったのです。
実際、この860形もA8系の蒸気機関車とは大きく異なった完成形となりました」
「って、どぎゃんして?」
「まず、単式――シリンダア内で仕様した蒸気をそのまま排出するタンク式機関車であるA8系とは異なり、複式――一度仕様した蒸気をもう一つのシリンダアで再利用する方式を、860形は採用しました」
「ふむふむ」
「けれど、違いはそこだけにとどまらず、煙室の前板――煙室戸を囲む前面部を、末広がりの独特の形状に仕上げたのです」
「それは、どぎゃん理由で?」
「……理由まではわたくし存じ上げませぬが、860形を設計した技士の方が設計した他の蒸機も全て同様の煙室前板の形状になっておりますので――」
「いわゆる手癖? じゃなきゃ、その形状に美意識を抱いていたとか」
「そういう感じなのかもしれませぬね――ああ!」
「え?」
「日々姫にも、あるのではございませぬか? そうした手癖なり、にじみ出てくる美意識などが」
「ある……のかなぁ? 自覚はできておらんけど」
「きっとございます。かくも高く評価されるデザイナアなのですから」
「いやいや、そんな、私なんてまだまだ」
実力を有するものの謙遜は、そうでないものを傷つけかねないかと存じますが――
いまの日々姫に必要なのは、そのアドバイスではないでしょう。
「ともかく、試していただきたいのは模倣です。それも半端なものではなく、完全な模倣」
「完コピ? って、パクリにならんよーにって話なのに」
「だからこそ、あえて、完全なコピイを試みるのです。
どうしても似てしまうロゴを、日々姫なりに分解して分析するのです。
発注者さまのオオダアにとらわれることなく、日々姫の視点で」
「!」
「そうした上で、その全ての要素を盛り込んで、できるだけ類似したデザインになるようにロゴを制作してみて――」
「……ありがと! ハチロク、やってみる!!!」
日々姫の手が、猛然と動き始めます。
で、あるならば、これ以上の言葉は必要でしょう。
完全に似せようとして、それでも出てくる似てない部分。
それこそがきっと日々姫の個性でしょうし――
そこを強調していくならば、似た印象など、個性の前にきっと消え去ることでしょう。
「大丈夫。日々姫にはそれだけの力がございますよ」
で、なければ、誰かを魅了することなどできない。
乗務の上でも、そこは決して変わらぬとこでございますので。
;おしまい
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いかがでしょうか?
個性とは、いわゆる個性的な部分を全て削ぎ落としてそれでも残るもの――
なのかと、わたくしは常々思っております。
ハゲという特徴を削ぎ落としたわたくしには、果たしてなにが残るものなのでございましょうか?
そんなこんななWEBTOON作品『レヱル・ロマネスク0』。の過去話。
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