WEBTOON作品『レヱル・ロマネスク0』第41話「過去の疵」シーン2ネーム&3分で読めるレイルロオドのお話「メガネハチロク」
書き物に苦戦しておりました。
久々のジャンルで、3本書くうちの2本目でした。
1本目は、感覚なかなか取り戻せず。
しかし四苦八苦しながらわたくしなりにベスト尽くして書き上げて。
「感覚戻った!」と思ったのですが、それは鮮やかな錯覚で――
また書き上げるのに、四苦八苦しておりました次第です。
で、その四苦八苦の間にわたくし、思考しました。
「書く」ことと「物語る」ことは、まったく異なっているのだと。
わたくしが執筆しているのは「物語性を持つお話」がほとんどです。
で。わたくしはプロですので、その物語の中に「必要要素」を盛り込む必要が出てくる場合などにも見舞われます。
今回の四苦八苦中。
その必要要素をわたくしは、ただ単に「書いて」しまっておりました。
そうするとどうなるか。
その要素が、悪い意味で、浮くのです。
例えば一枚のイラストの中に、牛乳瓶を描き込む必要があるとして。
その牛乳瓶を、素材写真の張り込みで済ませてしまったときのような、違和感。
「その要素が、そこにあるだけ。他と全く馴染んでいない」
という事態に陥ってしまうのです。
ただ書く。
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「俺は風呂に入った」
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と、ただ書く。
これは、単なる説明です。
エピソードになっていません。
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へとへとに疲れ切りベッドにもぐりこもうとした瞬間に、異臭を感じる。
ああこれは――この俺自身の、こびりつき乾いた汗の匂いだ。
……正直このまま寝てしまいたい。
が、この匂いをまとったままでの目覚めは、最悪だろう。
きしみをあげる体を動かし、どうにかこうにか湯に浸かる。
汗が、疲れが、ぼろぼろと――垢のような塊になって落ちていく。
(風呂は、いい)
思った途端、額にぽつぽつ、汗が浮く。
体がようやく、湯のぬくもりを感じ始めてくれたのだ。
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これであれば、入浴という要素は物語の1エピソードとして意味をもてるかと思います。
物語には、主人公がいます。
その主人公が「その要素」と、何故向き合うのか。
どのように向き合うのか。
――納得のいく行動と心情がともなえば、要素を主人公は自らの意思で扱ってくれます。
これがつまりは「物語る」ということではないかと、わたくしは思考したのです。
……この思考が果たして正しいものなのかどうか。
それはいつか、四苦八苦した物語群が世にでたときに、受け取った方がどのように評価してくださるかを見届けるまで判断できなく思うのですが。
しかし、いまのわたくしはこの思考を正と信じて――
書くのではなく、物語を物語っていきたいと……強く思います次第です。
こちらもそのように物語っていきたいWEBTOON作品
『レヱル・ロマネスク0』のネーム&字コンテは、
前回ご紹介、第41話「過去の疵」のシーン1からとなります
に続きましてのシーン2となります
路子登場でございますね。
メンバーシップ特典記事とはなりますが、
もしよろしければ御確認いただけますと幸いです。
で、短いお話は、「メガネ」をテーマに書いてみたいと思います。
登場するレイルロドはハチロク。
タイトルは「ハチロクのメガネ」といたしましょう。
こちらはどなたにも無償でお読みいただけるものとなりますので、どうぞご笑覧ください。
■ハチロク■
旧帝鉄8620形蒸気機関車トップナンバー機、8620専用レイルロオド。
御一夜鉄道の誇る大人気レイルロオド。
広報活動の一貫として、地元商店の宣伝などを引き受けることもある。
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『メガネハチロク』
「ほう」
……双鉄さまの、めずらしく熱のこもる声。
温度がどちらに向いているのか、不安を感じてしまいます。
「――いいな。とても似合っているぞ」
「左様でございますか!?」
あらやだ、現金。
自分の喉から出た声に、思わず苦笑してしまいます。
「レイルロオドがメガネだなんて……縁起でもなく思ったのですけれど」
レイルロオドは究極的には、鉄道保安部品のひとつ。
メガネをかける必要が出る……視覚ユニットがそこまで劣化してしまい、なおかつ交換不能なら――
基本、間違いなく廃棄処分になる存在です。
「今どきはそう感じるものも少なかろう。不死鳥博士などメガネをトレードマークにしているではないか」
「あの方は……特殊例中の特殊例ですから」
けれどもしかし、不死鳥博士――なるほど、あの方の存在が、
レイルロオドがかけるメガネの持つ意味を、変えてくれたのかもしれません。
「知性の象徴としてのメガネ」
「だな。不死鳥博士の場合は。ハチロクのメガネはまた性質を変えようが」
「あら」
まこと、わたくしは現金で欲張りですね。
双鉄さまに褒めていただけなかったことを、こんなに残念と感じています。
「知性的ではございませんか? わたくしのメガネ姿は」
「知性的でもあるけれど、それ以上に強い印象がある。
案を出した日々姫も、それを受け入れた店主さんも、そこを見込んでくれたからこそ、広告起用を申し出てくれたのだから」
「……ポスタア、でしたか。メガネをかけたわたくしの」
「うむ。いまどきはコンタクトレンズもずいぶん手軽になったと聞くからな。お前のメガネは、ゆえに大きな宣伝となりそうだ」
「と、おっしゃいますと?」
「わからんか?」
双鉄さまが手鏡を、わたくしに向けてくださいます。
「実用品としてのみではなく、おしゃれ、ファッションの選択肢としてのメガネの提案の宣伝さ」
「まぁ!」
浅ましい。現金。いやらしい――
言葉は頭を巡るのですが、巡ったところでこの頬の、ニヤニヤ笑いは消せませぬ。
「おしゃれ、ですか? わたくしのメガネ姿は」
「うむ。おしゃれだし……お召かし感が出ているな。よそ行きの、普段とはまた別の魅力を、メガネが引き出してくれている」
「! それでしたら」
思った瞬間、手が動きます。
「ああ――どうだ?」
「よくお似合いです」
双鉄さまが、わたくしにおっしゃってくださったこと。
それがそのまま、わたくしの喉から溢れます。
「おしゃれで、似合って、とても、とても素敵です。普段は見られぬ双鉄さまの魅力をメガネが、確かに引き出しているようです」
「ふむ? 普段の僕はおしゃれではないと言われているか?」
「双鉄さまの普段の装いは、ダンディズムというものでしょう。わかる人にはわかる魅力というものです」
「ほう」
同じ柄のシャツを、ベストを、何枚も揃え、その上で毎日召し替えられてる。
それが一番、双鉄さまに似合うから。
「けれども、メガネの双鉄さまのおしゃれさは――誰にでもわかる格好良さかと」
「ふぅむ」
双鉄さまはメガネを外し、またわたくしにおかけになります。
「メガネのお前の魅力ははっきり、誰にでもわかる愛らしさだが……それは別段、メガネがなくとも全く変わらんことだよな」
「うふふっ、過分なお褒め光栄です。けれど、そこまでの高評価をいただけますのは――」
まっすぐに、双鉄さまを見つめます。
「ただわたくしが双鉄さまの、お眼鏡に叶っているからなのでは?」
「違いない」
双鉄さまはわたくしのメガネをそっと外され――
そうして、ぴったりゼロ距離で、わたくしを見つめてくださいます。
;おしまい
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いかがでしょうか?
メガネハチロク、思った以上にニーズあったようでしたので、
いつかどうにか、作中でも動かしてみたく思います。
そんなこんななWEBTOON作品『レヱル・ロマネスク0』。の過去話。
どなたにも無償でご確認いただける0~7話はこちらで
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それぞれお読みいただけますので、よろしければどうぞご笑覧いただけますと幸いです。
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