3分で読めるレイルロオドのお話「オリヴィとハチロクのベンチマアクテスト」&ベンチマーク作劇法
”ベンチマーク"を辞書で引くとこのような言葉が返ってきます。
①:物事の基準となるもの。基準点。指標。
(以下略)
さて。作劇分野においてもベンチマークという言葉は使われます。
「ベンチマーク作品」といった形でです。
新規の作品企画をたてるにあたり、
先発の大ヒット作品のヒット要素を分析し新企画に当て込む――といった形での企画立案を行う場合。
「分析される先発の大ヒット作品」がつまり、『ベンチマーク作品』となります。
たとえば
・こども向け
・鉄道モチーフ
・映像作品
というジャンルで新企画を立案しようとした場合、
そのジャンルで優良・最高の事例(ベストプラクティス)となる作品は「機関車トーマス」であるという分析には、あまり異論が出てくるとは思えません。
ので「機関車トーマス」を、新企画のベンチマークとして作劇を行っていく、といった手法が、ここで言う「ベンチマーク作劇」ということになります。
より踏み込んだ例として、機関車トーマスが「ヒットした要因」を、わたくしなりにピックアップしてみます。
1:「鉄道」というひとつの社会を、様々な役割をもつキャラクターたちによって複眼的に描いている
2:キャラクターたちが個性豊かであり、『自分』『友人』『親』などを投影しやすい(似ていると感じる)対象をみつけやすい
3:キャラクターたちの役割に代替できないものが数多くあり、問題解決のためには「協力」が基本的に必須となっている
4:1~3までの複合効果で、「誰でも社会の中で役割を持ち、貢献することができる」という前向きなメッセージを受け取れる
もちろん4でいう「役割」が、機関車の任を外されボイラーとして再活用される……という容赦ないものであったりすることもまた、
隠れたヒット要素かとは思うのですが、その辺の細かいところは今回は考えないこととします。
さて、分析ができたら次の段階「あてこみ」です。
「こども向けの新しい鉄道もの」として、ヒット要素をどうあてこんでいくかを、具体的に考えていくわけです。
「1」
→トーマスにおいては「ソドー島の中の鉄道事業」という社会が描かれています。
これを例えば「幼稚園の中の鉄道事業」にあてこんでみます。
巨大な敷地面積をもつ幼稚園があり。
その幼稚園内では交通のために鉄道が活用されている。
鉄道車両の運転を任されるのは選ばれた園児たちである。
――といった感じです。
で、次は「キャラクター」もあてこんでみましょう。
トップハムハット卿を「幼稚園の園長」に。
トーマス他の機関車たちを、「列車運転を任されている園児たち」に――
といった感じです。
そんな感じで世界観とキャラクターを起こしていけば、
『ぼくらのきかんしゃようちえん』
みたいな新しいこども向け鉄道物の企画が、比較的容易にたちあがります。
が、このケースですと、
「これってトーマスの焼きなおしでしょ?」
みたいな指摘を受けてしまう可能性も、結構ありそうに思います。
それはなぜか。
『ベンチマーク作劇を、同ジャンルで行ってしまっているから』です。
これを逆から考えれば、
『ベンチマーク作劇は、まったく別ジャンルで行ったほうが、独自性の高い企画ととられやすい』
ということになるかもしれません。
例えば、機関車トーマスのヒット要素を分析し、それを極道マンガに当て込む。
例えば、美少女戦士セーラームーンのヒット用要素を分析し、それをグルメマンガに当て込む。
――しっくりこないケースも多々あるでしょうが、化学反応が発生し、いけてる企画が誕生する可能性も、まれにはありそうに思えます。
また、ベンチマーク作劇には 「自分が適正を持たないジャンル」をあぶり出してくれるという効果もあります。
ベンチマークとなるはずの大ヒット作品のヒット要素を解析できない≒どこが面白いんだかわからない
という場合には、その大ヒット作品のジャンル、あるいは読者層をターゲットとしてヒット作を飛ばすことは、大変に困難なのではないかと思われます。
逆に、ベンチマーク作品のヒット要素を鋭く解析できるのであえば、そのジャンルへのあなたの解像度は、恐らくかなり高いはずです。
まとめますと
1:『ベンチマーク作品を定める』ことで、そのジャンルにおける作品のヒット要素を整頓しやすくなる
2:ベンチマーク解析は、もちろん同ジャンルで活用してもよいのだが、異ジャンルにもちこんでも面白い
3:ベンチマーク作品の解析は、書き手の適正の分析にも使えるかもしれない
――という感じかなと思います。
作劇にとってもっとも重要なのはオリジナリティ! 作家性!
という考え方をされる方におかれましては、ベンチマーク作品を設定する、という作劇法はあまり好まれないものかもしれませんけれど。
しかし、まったく同じテーマ、お題、設定で書き始めても、ガラリと違う作品ができあがってくるのもまた、創作という世界ではないかとも思います。
ので、アイディアに困ったときには、『ベンチマーク作劇』。
試してみるのも刺激のひとつとなるのではないか――と、わたくしは考えます次第です。
と。
そんなこんなでございますので、本日の短いお話は「ベンチマーク」をテーマに書きたく思います。
登場するレイルロオドはオリヴィとハチロク。
タイトルは「オリヴィとハチロクのベンチマアク・テスト」です。
どなたにも無償でお読みいただけるものとなりますので、よろしければどうぞご笑覧ください。
■オリヴィ■
旧実延鉄道Ⅸ号機関車とともに輸入されてきた、冥国産まれのジェネリック・レイルロオド。
現所属は肥颯みかん鉄道。
保線に関する高度な知識と技術とを有している。
■ハチロク■
御一夜鉄道8620形8620号蒸気機関車専用レイルロオド。
自身の専門分野についてはスペシャリストである上に、
新しいことに0から挑戦する気概も持ち合わせている。
■「オリヴィとハチロクのベンチマアク・テスト」■
(あらすじ)
自作PCに凝ってしまった双鉄。
それを嘆くハチロクは、
オリヴィにグチを漏らしてしまいます。
///
「Benchmark Test?」
「左様でございます。ベンチマアク・テスト」
オリヴィちゃんの大きな瞳にじいっと見つめてもらえると、
それだけで、心がいくらか軽くなるように思えます。
「ポーレット様のパソコンが壊れてしまいまして。
稀咲様やら電車姫様やらからいろんなパソコンや部品が
わっと集まってしまいまして」
「A-Ha。それでソーテツ、組み換えの楽しさ覚えちゃったんだ!」
「です。『最速最良のピイシイに』とおっしゃって、
暇が発生するたびに、パアツを組み換えベンチマアクテストを繰り返されて」
「ソーテツにヒマなんてそーそーなさそーだけどねー」
「です! なのに、その貴重な時間を電算機ごときに湯水のようにお注ぎになられて」
「で? ハチロクはどーしたいの?」
「どう……とは?」
言われて、少しドキリとします。
わたくし……いったいどうしたいのか――
「ソーテツにベンチマークテストをやめさせたいの?
ソーテツを休ませてあげたいの?
ソーテツにPCじゃなくて自分のことを見てもらいたいの?」
「ああ――」
例示をされれば、モヤが綺麗に晴れていきます。
「全て、でございますね」
気恥ずかしくはありますが、オリヴィちゃんを相手に格好をつけたくもございません。
「双鉄様にさっさとパソコンから離れていただきたいですし、
しっかり休んでご自身の時間を有意に使っていただきたいですし、
わたくしのことも……お気がむいたら、構っていただきたくもありますし」
「そっか! 全部か!!」
Amazing! と小さく小さくつぶやかれ。
そうしてうーん、と、オリヴィちゃんは腕を組まれてしまいます。
「全部いっぺんに叶えるなんてできるのかな。
オリヴィだと……んーーー、いますぐにはちょっとIdea思いつけなそー」
「全部一度に……問題解決――」
そもそも問題解決という発想自体、わたくしにはございませんでした。
双鉄様が好んでやられてることですし、
それにわたくしが口や手を出すなどはとても――
「誰かいない? そーゆーことできちゃいそーな人」
問われれば、一人の名しか浮かびません。
「真闇様、でございましょうか?」
「じゃ、マクラサマをBenchmark! お手本にしてみよーよ」
「ベンチマアクに?」
「そ! マクラサマだったらどーするのかを考えてみるの?
ソーテツがPCに夢中になっててさ? 休憩も少しもとらないで、
家族のことをほっぽりだしてる――そのジョーキョーを解消しようと思ったら」
「真闇様でしたら――!」
『双ちゃん』
と、メモリ内に声が再現された瞬間、
続く言葉も自動再生されていきます。
『おねえちゃんにも手伝えること、あると?』
「なるほど、ベンチマアク方式は、なかなか優れたやり方ですね」
「Wow! なんか思いついたの?」
「ええ。わたくしが双鉄様に、教えていただけばよいのです」
ピイシイパアツの組み替え方を。
ベンチマアクテストの行い方を。
そうしましたら――
「双鉄様のテスト終了は早くなり。ご自分の時間を自由に使えるようになり」
「そのうえ教わったり一緒にテストしてる間は、
ハチロク、ソーテツにたくさんかまってもらえるわけだ!」
「左様ですね」
なんと嬉しいことでしょう!
嫌で嫌でしかたなかったベンチマアクが、楽しみに変化してくれました。
にこにこ顔のオリヴィちゃんと目が会えば、
ふたり、同時にうなずき合います。
「Amazing!」「アメイジング!」
;おしまい
///
いかがでしょうか?
オリヴィちゃんの出番ももうすぐ!? ないWEBTOON作品『レヱル・ロマネスク0』。
どなたにも無償でご確認いただける0~7話のネームはこちらとなります。
よろしければどうぞ、あわせご笑覧ください。
(それ以降のまとめはメンバーシップ特典です)
///
【メンバーシップ限定記事のご案内】
『レヱル・ロマネスクnote』メンバーシップ『御一夜鉄道サポーターズクラブ』
にご参加いただきますと、レイルロオドたちにかかわる詳細な内部設定資料や掲示板機能などをお楽しみいただくことができます。
『レヱル・ロマネスクゼロ』の字コンテ掲載時には、その字コンテがネーム化されたもの、および推敲過程でボツになった未公開ネーム画像などがあるときには、そうしたものも公開していきたく思っております。
どうぞご参加ご検討いただけますと幸いです。