2022年09月北海道録音取材記 ~Day3 旭岳。熊よけ鈴と噴気孔~
みなさんこんばんわ。レヱル・ロマネスクシリーズの原案、シリーズ構成を勤めます、進行豹です。
台風接近による風雨に、終始苦しめられ続けた取材二日目。
疲労困憊の一夜が開けた頭上に広がるのは、北海道に来てはじめての青空――
台風一過の晴天でした。
わたくしと録音技術者の町田さんとが、どれほど安堵したことか――
とても言葉では言い表せません。
なんとなれば、三日目以降の取材目標スポットには、
悪天候ではアタックし難い数多くの山野――
文字通りのフィールドが含まれているからです。
昨日までの録れ高不足を補うためにも、我々は早朝からの行動を開始いたしました。
昨夜の泊地は占冠。
メインとなる取材地は、天人峡と、大雪山系 旭岳。
行き道にはちょうど有名な観光地である「青い池」があるとのことで、立ち寄ってみることにします。
青い池はなるほど、大変に美しく。
けれど有名観光地だけあり、人が多く、録音に適している感じではありません。
それでも池周辺を丹念にあるいたところ、美瑛川と合流している地点を発見しましたので、その流れ込みの音が周辺環境音とまじるようにと、録音します。
録音しつつ検索すると、青い池の「青」は、アルミニウムを含んだ地下水が混ざることで、太陽に光を散乱させることにより、短い波長=青となり、我々の目に届いて表出するもの――なのだそうです。
そのアルミニウムの発生源は、「白ひげの滝」というスポットらしく、これも近所にございますので、訪れ、録音いたします。
と、なりますと。白ひげの滝と青い池との間を流れる美瑛川の中にも、「青い川」とでも言うべき箇所があるかもしれません。
グーグルマップをにらみつつ、目星をつけた橋のたもとから川面におりてみますと――
ビンゴです。
見事な青に流れる水。
これもきっちり録音し、青い池、白ひげの滝、ブルーリバーと――
揃えて『青の交響曲』とでも呼びたくなるような、同じ水でありながら、それぞれ魅力のポイントが異なる音源を取り揃えることができました。
大変に幸先のよいスタートとを切ることができましたので、
その勢いで天人峡、羽衣の滝へと目指します。
ここは「寂れた観光地」そのもので、
駐車場など完備されているものの、周辺のホテルは廃業しているものがほとんどとなっているようです。
しかし、滝までのアクセスルートはきっちりと維持整備されており、
駐車場からのほんの数分を歩くだけで、滝見台へとた取り付くことができました。
のですが!
アクセスよく整備されている分、滝壺付近への接近がとても困難、というシチュエーションでもありました。
それはつまりは、写真撮影には好適。録音難易度は高い、と言い換えても差し支えないでしょう。
幸いにして人通りも車通りもほとんどないため、離れたところからの滝音の録音はできたのですが――
離れたところから録る滝音は、
「落水が滝壺の水面に当たる音」でしかありません。
それはほとんど、ホワイトノイズのように聞こえてしまうのです。
そうなることを防ぐため、
『滝音を立体的に録音するためのマイク』――
すなわち水中マイク・ハイドロフォンも我々は用意してきたのですが、
本日この場所、羽衣の滝で使用するのは厳しそうです。
ので、それは後日に、別の滝にて仕切り直すことと決定し、
羽衣の滝を離れます。
羽衣の滝から少しもどってべつのルートで山の方に向かっていくと、
そこにはすぐに、旭岳ロープウェイが待っています。
ロープウェイの駐車場は有料。
少し離れた公共施設、旭岳ビジターセンターの駐車場は無料とのことで、
旭岳ビジターセンターに駐車し、関連の情報を探します。
ヒグマ関連情報を確認するに、結構ちょいちょい、ヒグマそのものや糞が目撃されているようです。
人にとってもクマにとっても不幸な事故を防止するため、
ロープウェイの売店で、熊避けの鈴を購入します。
アクセサリーでもお土産でもなく、実用品。
ここから先に踏み入るためには、ほとんど必須の装備品なのです。
何故かといえば、基本的にクマは、人間との遭遇を避けようとしてくれるそうだから。
人とクマとの遭遇事故は、双方が気づかずばったり、という出会い頭が多いため、
それを防止するために「熊鈴で現在地を知らせる」ことは、大変に有効だというお話です。
しかし、例外があります。
餌付けやゴミの不法投棄で「人間は美味しい餌をもっている」と――
あるいは最悪「人間は美味しい餌だ」と学習してしまっているクマがいる場合、
現在地を知らせることは、大変危険な行為になりかねません。
ので、北海道の山野に踏み入る前には必ず、
『ビジターセンターや地元の自治体、その関連のホームページ、あるいは地元に精通したガイドさん等に、
ヒグマの出没情報を確認しておく』ことが極めて重要な行為になります。
幸いにして旭岳では、熊よけ鈴が逆効果となったような事例は近年確認されていないようです。
ので大安心して熊よけの鈴をカロカロ鳴らしつつロープウェイに乗り。
降り立ったそこはもう国立公園――大雪山系、旭岳の中腹です。
旭岳の山の生き物たちの声は、環境庁が選んだ「音100選」のひとつにあげられているのですけれど――
驚くほどの無音です。
鳥も、獣も、虫の声さえ聞こえません。
跳ね返ってくる山もまわりに存在しないためでしょうか?
手を叩いても反響さえも返ってきません。
「静寂を録音してきました」
――非常に詩的なフレーズですが、実際的にそこにあるのは、無音のみです。
これはまずいと散策路を歩きはじめても、聞こえてくるのは他の観光客たちの足音と、そして熊鈴の音だけです。
しかし
「進行さん、なにか聞こえてきませんか?」
と、不意に町田さんが足を止めます。
耳をすませばシューシューと、なにかが確かに聞こえてきます。
「あれですかね?」
指差す先には噴煙です。
噴煙の音――その上、周囲はほとんど無音。
当初のお目当てとは全く違ってきましたけれど、録らないわけには参りません。
噴気孔からの火山ガス――
――まるでジェットエンジンの音のようです。
大自然の驚異におののき、感謝して。
粛々と山を下りれば、日暮れまでにはもう少し時間がありそうな気配です。
初日二日目の録れ高不足を補うべく、
癒やしそのもの、『旭岳水源地』の湧水の音を録音し。
返す刀で『東川町親水公園の水車の音』を録音し。
かくてとっぷり日が暮れたので、開いてる唯一の飲食店、焼肉屋さんで夕食を終え、
宿にもどって明日の取材準備をします。
今回の取材の大目標のひとつである
「滝の音の立体的な録音」
それを可能にする条件は、ハイドロフォン――水中マイクを有効活用できる滝壺を持つ滝をみつけること。
取材4日めに向かう美深には、『十六滝』と呼ばれる滝があるそうですので――
――そのいずれかできっと叶うと、そう信じつつ、やがて眠りに落ちるのです。
(つづく)
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『紅と熊鈴』
(あらすじ)
北開道のおみやげに、熊鈴をもらった紅。
りんりんりんと鳴らすうち、振り鐘への憧れがむくむくと湧いてくるのです。
(登場レイルロオド紹介)
「紅」(旧南颯鉄道キハ100形キハ101専用レイルロオド)
<出身> 日ノ本 河崎車両製 (キハ07準同型車)
<所属路線> 肥颯みかん鉄道(八ツ城駅→千内駅)
<能力・性格> もともと優れた気動車であるキハ07形唯一の弱点、足回りの弱さを改造した南颯鉄道キハ100形は実に優れた気動車であり、そのトップナンバーレイルロオドである紅も、車両性能にふさわしい優れた性能と、燃え盛る火のようなプライドと自信を持っている。紅から見れば旧時代の遺物である蒸気機関車や蒸気動車、架線等の大型設備が必要な電車などは全て気動車より劣ったものと心底から思い込んでおり、『気動車こそが鉄路の女王』と心底から信じ込んでいる。そのため、極めつけの負けず嫌いで努力家。
愛社精神も極めて強く、自分の恥はみかん鉄道の恥だと考えている。
足回り補強の代償としてわずかに失われてしまった加速性能、最高速度をコンプレックスとしており、スピード勝負は徹底的に回避して、勝てる勝負だけを挑み続ける慎重さあわせもっている
口調、行動ともにボーイッシュ。というかやや乱暴。
そこが風貌とマッチして、地元の乗客からは大変な人気を博している。
ハチロクやランや汽子のような全国区の人気を誇るレイルロオドとなり、みかん鉄道の定期外旅客収入の増加につなげたいと熱心に望み、改善努力を頑張ってもいる。