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凪への宿題
「できたと! やのーて、えと、できた――です」
「うん。合格。足音でもTPOに応じられるようになった」
えへへ! 稀咲ねーちゃんに褒めてもらえると、嬉しかとばい!
まったく意識しとらんかったばってん凪さま、剣術しとるとき以外、
いつでもどこでもどっかんどかん足音立ててしもとったけんね!
「これでまた、凪の目指す、『よか女』に一歩近づけたわけだ」
「ありがとばっ――ありがとうございます、稀咲さん」
一番肝心の言葉はまだまだ、危なっかしかとこ残っとるけど、
毎週毎週ちょっとずつよか女に近づけとる実感、自分自身でもあるけんね!
「じゃ、また来週もこの時間でよかっ――とと、いいですか?」
「来週?」
え? 稀咲ねーちゃん、来週なんかご用事でもあると?
「来週の今日……1/7は凪のお誕生日だろう。
ここでの勉強は、リスケジュールしても大丈夫だけれど」
「!!!? 稀咲ねーちゃん、凪さまのお誕生日しっとーと?」
「標準語。それから敬語。言い直すには及ばないけれど、次からね?」
「あ、はい――です。ごめんなさい」
「で、質問の答え。バンカーとして当然把握しているよ? 凪は――
というか蓑笠凪機関士は、御一夜鉄道のキーパーソンの一人だからね」
バンカーは、たしか詠語で”銀行員”。
さすがは稀咲ねーちゃん、凪さまのこと生徒としてだけじゃなく、
取引先? 関係先? の一員としても見てくれとるとね!
「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。
お誕生日のパーティーは、夜になってからの予定ですから」
「そうなんだ。なら来週も授業をして――その際、ボクからもひとつプレゼントを送るとしよう。
なにがいい?」
「なに……えと――それなら、良か女に一歩近づけるなにか――
そういうのがあればほしいです」
「ふふっ、終始一貫見事なものだね。承った。来週、期待していてくれたまえ」
* * *
「と、いうことでボクからのプレゼントは、これだよ?」
「きれいな包み! 開けてよかっ――とと、開けてもいいですか?」
「もちろんだとも」
「わおわお~――ととっ! これもTPO。
破かないで、きれいに剥がして――
!!!! まっことかわゆか小瓶ばい!」
「良か女に近づくためのマストアイテム。お化粧品の中から一番、いまの凪にふさわしいものを選んだつもりさ」
「お化粧品……化粧水とか、ですか?」
「ではないよ。これはオードトワレ。身だしなみのための香水さ」
「香水!」
「凪の肌はみずみずしさでいっぱいだ。まだ化粧水も不要だろうし、塗り隠すのももったない。
だから、最初の一歩に、香りの化粧を覚えるのがいいんじゃないかと考えた」
「香りのお化粧!」
かっこよかばい! おとなばい!!! 凪さまさっそく!
「これ、つけてみても」
「いいとも。おっと、トワレとはいえ首筋だと香りすぎるかもしれない」
「それじゃあ、どこに」
「僕のお薦めは両膝の裏にワンプッシュずつ。控えめな香りが比較的長持ちする付け方さ」
「じゃ――んしょ――ん――わ! ふわって! ふわって良か香りがしてきたば――です」
「ふふっ、好みにあったようで何よりだ」
「さわやかなのに甘くって、めっちゃくっちゃよか匂い――です。これ。
ふかみちゃんとかにーさんにも喜んでもらえます、ぜったいに!」
「今日のパーティーは、そのふたりと?」
「そうです」
「なら、ね? 凪」
「!!?」
稀咲ねーちゃんのきれいな顔が近寄ってくる。
耳元、ささやき、なんだかゾクゾクしちゃうばい!!
「宿題。双鉄にもその香り、きちんと嗅がせてみてご覧?
なにかコメントをもらえるくらいに」
「!!?」
「それができたら――ふふっ、
もう一歩、良か女へと近づけるはずさ」
;おしまい