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楠木ともりに贈るはなむけの言葉

こんにちは。かみなりひめです。
さっそくですが、本題です。

楠木ともりさん
優木せつ菜・中川菜々役、お疲れ様でした。

虹ヶ咲の一員となる以前からも、
そして優木せつ菜となってからも、
楠木ともりさんにはずっと同じ印象でした。

「人生一体何周してきたのよ……」

ともりさんが放つその言葉の一つ一つには、
どんなときも、あまりある重みがありました。

虹ヶ咲でせつ菜役となってからのMCでも
その重みは一切変わっていませんでした。

これは、「優木せつ菜」というキャラクターの
人気だけに由来するものではありません。
「楠木ともり」という一人の人物が持つモノ
あるということは間違いないでしょう。

誤解を恐れず言えば、
あれだけの重みを持たせられるのは
楠木ともりさん自身の才能であるとともに、
場数を踏んできた努力の賜物だと思います。

しかし、言葉の重みというものは、
同時にそれを耳にした他者を縛りかねない
いわば「呪い」としても機能しかねません。

たとえば、Aqoursにおいては、
Aqoursに真剣でいてくれますか?」と
真摯に問う伊波杏樹さんの言葉がそれでしょう。

虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会においては、
そのような言葉を放つことができるのは
間違いなく楠木ともりさんであるのです。

さて、
楠木ともりさんが放った言葉の印象が深い
ライブ・イベントといえば、皆さんはいったい
どれを思い浮かべるでしょうか。

私は間違いなくこのライブを挙げます。

虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
First Live “with You”

ともりさんはここで、
ヘッドライナー:優木せつ菜
という大役を背負ってのライブとなりました。

この公演のMCにおいて、
ともりさんが述べたことは以下の通りです。

「私は、スクスタでせつ菜を演じていて、すごく辛かったです。”大好き”の気持ちを否定されることって、すごい辛いことだと思うんですよ。否定されたりとか、認めてもらえなかったり、それを隠さなきゃいけないって、すっごい苦しいことだと思うんですよ。でも、そんな彼女だからこそきっと、「”大好き”を世界中に溢れさせたい!」っていうこの真っすぐな目標を立てられたと思うんです。【略】虹ヶ咲ってソロだから、今日のアンコールもあったけど、争うというかなんというか‥‥誰か一人を選ばなきゃいけない瞬間が何度も何度も来るし、それはみんなにとって嬉しいことなのか辛いことなのか、私には正直分からないんだけど。でも、そんな中でもみんなが他の人の”大好き”の気持ちを大切にしながら、自分の気持ち――自分の”大好き”の気持ちも大切にしてくれる。そんな空気を虹ヶ咲から作っていけたら、それってきっとせつ菜の野望に近づくんじゃないかなって思ってます。」

(First Live “with You” Day.1での楠木ともりさんのMCより)

思い返せば、この1stライブにおいては、
アンコールを歌ってほしいキャラクターを
その場でファンに問いかけ、ペンライトの色で
投票する企画
がありました。

あのときの虹ヶ咲には、
投票」「ランキング」企画がつきものでした。

そのような競争に疲弊し、落涙するキャストが
いたことも深く記憶に刻まれているでしょう。

「虹ヶ咲ってソロだから、投票だったりとかそういうのがすごい多いんですけど、みんなすごい一生懸命それぞれの子のことを応援していて、1位になれなかった時って悔しいんですけど、1位になったらなったで、『なんでこの子が?』って言われたりするとすごく悲しかったりして。【略】投票とかが悪いことってわけじゃないんだけど、みんなが本当に仲良く、そういう風にやってくれれば、私たちも頑張るぞってなるし、応援してくれる人たちも頑張るぞってなれるから、そういう風にいい雰囲気を作っていって、これからも虹ヶ咲を良くしていきたいなって思っています。」

(First Live “with You” Day.2での鬼頭明里さんのMCより)

人気声優・鬼頭明里にこれほどのことを
言わしめた先の楠木ともりさんの発言は、
間違いなく後の虹ヶ咲を変えてしまったと
言っても過言でないでしょう。

私は、初期虹ヶ咲の大きな特徴は
サヴァイヴ系」であると考えています。

虹ヶ咲をあらわすキーワードのひとつに
仲間で、ライバル!」というのがあります。

この楠木ともりさんの発言以後、
虹ヶ咲からは「ライバル」という要素が、
「お互いに競い合う」という行為が、
明らかに減殺していってしまったのです。

「マンスリーランキング」はいつの間にか
「マンスリーアンケート」と名称を変え、
さまざまなキャラが選ばれるような工夫が
多様に凝らされています。

矢野妃菜喜さんの名言として名高い
ヒトリダケナンテエラベナイヨー」は
このような傾向の中で生み出されたのだと
考えると、とてもしっくりくるものがあります。

あのとき、楠木ともりさんが打ち立てた理念
「自分の大好きも誰かの大好きも肯定する」は
虹ヶ咲の未来を変えるものだったのでした。

ただし、もちろん、
これによって変わってしまった虹ヶ咲の
是非を述べたいわけではありません。

「みんな違ってみんないい」というような
相対主義的な土壌がなければ、途中加入した
R3BIRTHの面々は受け容れられないままに
いたことも想定できます。

そう考えると、たとえば
「嵐珠が好きな人の"好き"という気持ちを
 否定することはできない」というような
雰囲気を作ったのは称賛されるべきです。

ここではそのような面には立ち入りませんが、
あくまでも、楠木ともりさんが放つ言葉には
それほどの力が具有されているのだ

ということが大事です。

そして、もちろん、
「ともりるはお願いをしたまでであって、
 そのようになれ!と命令したわけではない」
という批判もあるでしょう。

とはいえ、
英文法における項目「仮定法現在」において、
that節のなかで助動詞shouldを用いる動詞の
共通点に「提案」「命令」「要求」などといった
ニュアンスを含むことが挙げられるように、

古典文法の助動詞「べし」の文法的意味に
「当然」「適当」「命令」が列挙されるように、

「‥‥した方がよい」と「‥‥しなさい」との
間にある差異は、ニュアンスの強さだけです。

「適当」「提案」のニュアンスを重くすると、
「命令」や「要求」の意味合いになるのです。

楠木ともりさんの放つ力強い「勧誘」は、
受け手には「命令」のニュアンスを持った
呪縛ともなりえる
のは、想像に難くありません。

それだけの言葉を届けることができるのは、
紛れもなく、楠木ともりさんだけなのです。

さらに、ともりさんはご自身の持つ言葉の
重みについても、たいへん自覚的
でした。

先日のユニットライブ後夜祭放送にて、
最後の挨拶をされたともりさん。
そこでの要点は以下の3つでした。

①これからも虹ヶ咲を好きでいて欲しい
②これからもせつ菜を好きでいて欲しい
③後任の声優さんをも好きでいて欲しい

これらはややもすると、「楠木ともりの演じる
優木せつ菜が好き」というファンに対して、
林鼓子版の優木せつ菜を好きにならなくては
 ならない
」という呪縛にもなりかねません。

それゆえに、
気持ちの整理が要ると思うから
無理して好きにならなくてもいい」という
発言をしてくれたのでしょう。

時間的にも、そして精神的にもファンに対して
時間的猶予を残してくれたのは、自らの発言の
重みをよく理解してのことと推察されます。

そんな最中、
3月24日に公開された虹ヶ咲新作OVAの
映像にて、ついに林鼓子版の優木せつ菜
お披露目となりました。

「違和感ないよね!」というコメントも
散見されるなかで、いよいよ交代であると
複雑な心境のなかにおります。

ともりさんからもらった猶予も、
もう間もなくのものとなりつつあります。

そんな今日この頃にあって、
最後にあなたにこの言葉を贈らせてください。

楠木ともりさん
今まで優木せつ菜・中川菜々のことを
大事に演じていただいて、深く感謝します。

でも、本当に惜しいです。

Aqoursにおける伊波杏樹と同等の、
いや、それ以上の重みを持つ言葉を紡ぎ、
かつそれを自覚的に届けることができる
逸材が、虹ヶ咲から失われるのですから。

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