俺は可愛いから何度も女性の後ろ姿を見送ったよ
俺は可愛い。
皆さま知らないかもしれないが、俺は可愛いのである。
しかも俺の可愛さは、俺の周りにいる女性を少しばかり阿呆にさせる。
それほどに俺は可愛いのである。
にわかには信じられないかもしれないが、俺はそれほどに可愛いし、実は、俺のように可愛い男は世の中にはごまんといる。
これは事実である。
だって、実際に俺が可愛いんだもの。
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俺の可愛さによって、阿呆になった女性は俺に良い思いをさせてくれる。
だから俺も、阿呆になった女性に合わせて、より阿呆に振る舞う。
そのお互いの阿呆さが、現実的なハードルに引っかかったとき、我々は自らの阿呆さを修正する。
「そろそろ阿呆であることはやめなさい」
「後がないよ、崖っぷちだよ〜」これは現実からの「お達し」。
こんな感じのお達しがあってから、阿呆に染まった2人は正気に戻る。
ただ、礼儀として阿呆から回復する順番を守らなければならない。
もちろん、俺が後である。
女性の方が現実的な判断をし始める。そして俺を見捨てる。
そのとき始めて、「可愛い俺」は「大人な俺」を目指す。
目指すフリをする、というか、そんな感じの体ですがりつく。
「変わる。俺、変わる。仕事もする。貯金もする。酒も減らすし、タバコも減らす。だから行かないで。ギターは売る。小説も捨てる。ニュース見る。選挙行く。だから捨てないで〜」ってな感じで、最後の可愛さを振り絞りながら、大人の階段を登ることを匂わせる。
礼儀として。
***
よくあるパターンである。
しかし、よくあるパターンを体験するには、可愛くなければならない。
俺は可愛いから、このよくあるパターンを何度もこなした。
そして、この俺を通り過ぎていった女性達は、現実的な判断力を手に入れ、結婚に真っしぐらだ。
俺は何人もの女性の後ろ姿を見送った。
彼女達が結婚する前の、最後の恋愛を担当した。
それは俺が可愛いからである。
可愛くてどうしようもないからである。
こうゆー男のことを、世の中的には「ダメ男」というらしい。
知っている。
だがそれにしても俺は可愛いのである。
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