精神疾患と食生活〜肥満とうつ病との関連
現代の恵まれた食生活は、食物の過剰摂取のリスクにさらされている。特に日本人の場合、加工食品で栄養のアンバランスを招きやすい。こうした栄養のアンバランスが人間関係などの目に見えやすいストレスと組み合わされ、精神医学的問題、うつ病を発症しやすい。
特に、うつ病はエネルギーの過剰摂取で起こりやすいと考えられており、肥満、糖尿病、メタボリックシンドロームとの関係性が深いとされている。
インターロイキン6とうつ病患者との相関
いくつもの論文やエビデンスにより、肥満は慢性的な軽度炎症に陥っている傾向にあると報告されている。脂肪細胞からは、※アディポサイトカイン(アディポネクチン、レジスティン、レプチン、TNF-α)が産生され、炎症を引き起こす。
※アディポサイトカイン
脂肪細胞から分泌される生理活性物質の総称であり、アディポネクチンやレプチン、TNF-αなどが含まれる。アディポサイトカインはその生理活性から善玉と悪玉に大きく分けられ、体内の免疫・炎症反応等似深く関わる。
同じくサイトカインの一つである※インターロイキン6なども、うつ病および肥満の患者に多く見られるなど、肥満・うつ病には共通の病態生理学が見られることが分かる。
※インターロイキン6
T細胞やマクロファージ等の細胞により産生されるレクチンであり、液性免疫を制御するサイトカインの一つ
2013年、NCNP 神経研究所 疾病研究第三部 部長の功刀浩氏は脳脊髄液試料のデータを公開。統合失調症とうつ病患者の場合、健常者よりもインターロイキン6の値が高い傾向にあり、血清インターロイキン6も濃度が高かったという。このデータから、精神疾患の患者には神経炎症が起きていることが示唆できる。
トリプトファンの代謝への影響
神経炎症とうつ病の関連性は、トリプトファンの代謝に影響を与えることによって説明ができると、功刀氏は説明する。
トリプトファンは必須アミノ酸であり、食物からの摂取が必要だ。またトリプトファンはセロトニン、メラトニンの前駆体であり、うつ病・睡眠とも深く関わる。
たとえば炎症が体内で起こると、インターロイキン6、TNF-αといったサイトカインが増える。するとキヌレニンの経路を活性化し、体内のトリプトファン量が減少。それに伴いセロトニン、メラトニンの濃度も下がる。炎症性サイトカインによってキノリン酸の経路が活性化されると、NMDレセプターを介した興奮特性も引き起こされる。
この2つのメカニズムにより、結果としてうつ病のリスクが高まる。体内のトリプトファンレベルが低いということは、そのままうつ病にもつながりやすい。
功刀氏の栄養調査からは、その仮説を支持する結果が出ている。血清トリプトファンレベルを比較すると、うつ病患者は健常者と比較して、有意に低い数値が出た。
またこの調査では、葉酸値に関する興味深いデータも得られたという。
体内のメチル化サイクルは、DNA、たんぱく質、脂質、神経伝達物質(ドーパミン等)の合成に重要だ。しかし葉酸が欠乏すると、このサイクルがうまく働かなくなり、うつ病のリスクを高めると考えられる。