精神疾患の患者に不足しがちな栄養素
1)葉酸
緑黄色野菜に多く含まれるビタミン。体内でいろいろなものの合成に使われるので必要量の多い栄養素。またタンパク質、遺伝子情報を担うDNA,血液神経系で働く※カテコールアミンなどの精製にも必要である。
※カテコールアミン
ドーパミン、ノルアドレナリンといったストレス反応やうつに関する神経伝達物質で不足すると意欲が低下し、抑うつ症状を招く。
また葉酸は、体内の葉酸サイクルやメチル化サイクルに関与する。メチル化サイクルにおいて合成されるSAMe(活性型メチオニン)には抗うつ効果があると言われており、特にメチル化サイクルは、DNA、たんぱく質、脂質、神経伝達物質(ドーパミン等)の合成に重要だ。
しかし葉酸が欠乏すると、このサイクルがうまく働かなくなり、うつ病のリスクを高めると考えられている。
他のビタミン群
葉酸のほか、ビタミンB12の不足がうつ病のリスクを高めることが考えられる。またビタミンD濃度が低いと、うつ病のリスクが1.3倍になるというデータも。ビタミンDは魚やきのこに多く含まれるほか、紫外線を浴びることにより皮膚でビタミンDが合成される。
日光がビタミンDの産生に関係しているので、ビタミンDには季節変動があり、これが春型の季節性うつ病と関係しているのではないかという説もある。
2)トリプトファン
セロトニンの材料となる必須アミノ酸で、セロトニンはうつ気分、不安感に関与する。またセロトニンから睡眠物質であるメラトニンが作られため、トリプトファンが不足するとセロトニン、メラトニンも不足してうつや不眠の原因なりやすい。
3)鉄分
ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の合成や代謝に関わる酵素には、鉄が必要なものがある。鉄が欠乏すると疲れやすい、イライラ、興味・関心の低下、集中力低下、疲労、焦燥感といった症状が見られる。
そして、これらはうつ病の症状とも合致しており、鉄欠乏がうつ病リスクを上げることが考えられる。うつ症状は貯蔵鉄の指標となる血中のフェリチン値が低い人に多いという報告もあり、貯蔵鉄の減少もうつ病のリスクを高めることが指摘されている
特に女性の場合、出産すると大量の血液を失い、鉄分不足がひどくなるため、産後うつと鉄分不足との関連性も考えられている。
4)亜鉛
亜鉛は脳に多く含まれており、特に神経細胞のシナプスで神経伝達物質を貯蔵しているシナプス小胞に多く含まれる。亜鉛が欠乏すると味覚障害のほか、うつ症状や気分変調症が起きると言われる。
また、うつ病患者の血中の亜鉛濃度は健常者と比較して低いという報告もある。ポリリン酸などの食品添加物は、亜鉛の吸収を阻害すると言われており、加工食品ばかり摂るような食生活では注意が必要である。
3)n-3系不飽和脂肪酸
魚の摂取量が多い国は、うつ病の罹患者が少ないという研究がある。実際に、魚油からでないと摂取しにくいn-3系不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸が、うつ病患者では軽度減少していることが複数の研究をまとめたメタアナリシスでも報告されている。
一方、日本でもn-3系不飽和脂肪酸とうつ病に関する疫学調査が行われているが、有意な関係が得られた研究もあれば得られなかったものもあり、必ずしも結果は一致していない。日本は概して魚の摂取量が多いこともあり、関連が出にくい可能性が考えられる。