魔術師という存在 -シリーズの伝統-【デビルフォース世界観考察②】

 シリーズ全作、黒幕が、魔術師(邪教団)!!

 こんにちは。今回はデビルフォース世界の魔術師について考察していきたいと思います。

 さて、冒頭の一文にみなさまどうお思いでしょうか?

 印象悪ッ!

 ……残念ながらこの一言に尽きるのではないでしょうか。

 彼らは大戦争で世界を荒廃させ、妖魔召還の秘術で世界征服を企み、果ては「ハヤク……ハカイ……」となにやらウズウズしている全妖魔の親玉を地上に復活させんと暴虐の限りを尽くすのです。
 もう一度言います、

 印象、悪ッ!!

 他の善良な魔術師たちが受ける風評被害を思うと胸が痛くなります。
ああどうしてこうなった……
 なんで魔術師というものは、妖魔やら魔界やら秘術やら儀式やらに取りつかれ、往々にして人の道を踏み外してしまうのか。
 君たち、レニスのパーティにいる魔術師たちを見習いなさい。みんな正義感あふれるいい子たちばかりですよ――

 ってそこのリカルドとラムゼイ! 軽率に妖魔の神殿や秘術に興味を示すんじゃありません!!

 ……どうやら善良な魔術師たちの中にも探求心を抑えられない人が一定数いるようです。

■魔術師やらかし問題  -力への距離感と偏見-

 もうなんでこの人たち毎度やらかすんだろう? と思ったとき、パッと思いつくのは次の二つです。

 ・妖魔崇拝文化と妖魔の力へのアクセスのしやすさ
 ・今までのやらかし故の偏見と差別

1.妖魔頼みの悪習慣

 500年前の妖魔vs神々の代理戦争以降も、妖魔は引き続き各種勢力に投入され世の中の勢力図を揺るがしています。しかし神々は最終作の3でゼクスを遣わすまで、人間に何か与えるとしたら武器や魔法などの間接的な支援のみ。人間界に実際の勢力を送り込むことはしていないのではないでしょうか。
 意外とホイホイ集まる妖魔、どんなに祈ってもなッかなか姿を現さない神様。
 となると、世の中変えようと思ったら妖魔の力、覇権を握ろうと思ったら妖魔の力――野心家にとって打つ手はこれっきゃない! と、イカんことに妖魔頼みがやめられないサラ金利用のごとく習慣化しているのだろうと思われます。

2.魔術師の特権意識と偏見

 そして妖魔の力へのアクセス権を第一に握っているのは、どうやら魔術師たちです。
 ティムカの村の一件を見た感じ、長い邪教崇拝の歴史の中で妖魔召還の秘術やらアイテム研究やらのハウツーが培われているようでもあります。
 そんな元々白黒判定真っ黒みたいな魔術師が、たった10年の間に大戦争を起こしたり、世界征服を射程内に収めた妖魔を召喚したり、全妖魔の親玉を復活させたりしているんです。
 「実は、犯人は魔術師でした」と言われれば「DESUYONE!!!!」と世の中の大合唱が返ってきます。

 魔術師というだけで、何かやらかしそうな臭いがプンプンする――

 そんな目で見られがちな世界で、“魔術師”という職業で胸を張って生きていくのは、結構しんどいものがあるんじゃないでしょうか。

 しかしどんなに肩身が狭かろうと、やはり魔術師というのは有無を言わさぬ特別な存在です。戦士系の職業と違って、明らかに生まれ持った才能がないとなるのは不可能でしょうし、使う魔法は強力で摩訶不思議、賢さも同時に兼ね備えている必要がありそう。
 となると魔術師は、「大量破壊兵器にアクセス可能」な「特権意識のあるマイノリティ」が「強力な魔術と好奇心旺盛な頭脳」を「一般人の理解が及ばぬあぶねーヤツ認定」され「世の中の偏見にグレる」という壮絶な役満にリーチがかかります。

 もしどこかしら健全な所属先に恵まれれば、ルードヴィクスパーティのゲルダのように、共に戦う中で魔術師もしっかりした自分の居場所を見つけることができるのかもしれません。
 けれど開拓村のリカルドのように、ごく普通の農民たちの間で魔術師として過ごすとなると、周囲に対する色んな気づかいや気苦労があったように思えてなりません。
 そんな中でブレッドやキャムウェイの存在は彼にとってどのようなものだったのか……それに思いを馳せるのはまた別の記事でやろうと思っています。

■アースギルフ王国と魔術師の関係

 さて、ここで話をデビルフォース3に移そうと思います。
 というのは、この作品における敵軍の魔術師について、物語の裏での立ち回りを考察するとその奥行きが面白いと感じたからです。
 そして当然この作品の敵の魔術師も、例にもれなく邪教徒となっております。

1.矢面に立つ覇王バーラム

 アースギルフ王国の覇王バーラムは大陸の制覇を夢見て、あろうことか妖魔と手を組み隣国ギアナへと侵攻を開始。ギアナのトレス王はバーラム軍に対抗すべく、国内各地から義勇兵を募るのだった。

 デビルフォース3における主人公たちの冒険のきっかけは上記のように語られます。
 矢面に立っているのは当然覇王バーラム。コイツがいっちゃん悪い奴なんやと、その見せ方のスタンスは最後まで崩れることはありません。
 ラストダンジョンの妖魔の神殿の碑文にも、ある日バーラムがここを訪れた、という内容がメモリアルな感じに刻まれています。こりゃもう全ての元凶はバーラムで決定やん。真っ黒・オブ・真っ黒やん――とプレイ当時は思っていたのですが、今回改めて「妖魔の力に一番近いところにいるのって魔術師だったよな?」と思い返すと、少し異なる経緯が考えられるかもしれません。
 つまり、妖魔王アズラーンの復活を目論む邪教徒たちがバーラム王をそそのかし、妖魔と契約を交わさせたのでは? という可能性です。

2.魔術師、暗躍?

 バーラム王を倒した後、ラウラの仇討ちに向かったレニスたちを待ち受けていたのは邪教徒たちの軍勢でした。
 その規模やエリゴたちへの従順さを見るに、敗戦後即座に組織された勢力ではありません。おそらく敵国であったアースギルフには、開戦前から邪教徒たちが根を張っていたのです。
 いくつかのステージでバーラム軍の様子を見ると、おや? と思うことがあります。魔術師の立場が結構強いのです。

 まず、バーラム軍は戦略上かなり重要なポジションとして魔術師を運用しています。
 装備にコストがかかる重戦士をあれだけ多く育成し主力にできる時点で、重戦士を弱点とする戦士オンリーで構成されたギアナの騎士団対策は十分なはずです。しかし大陸の制覇を夢見るというだけあって、長期戦を視野に入れ損害を極力抑えようとしているのでしょうか。その要を、部隊の後方にいくらかくっついている魔術師たちが担っています。
 アーチャーも同様の役割を担ってはいますが、魔術師の方により特別性を感じるのは、重戦士で事足りるであろう対ギアナ戦の部隊の隊長をしばしば魔術師がやっているからです。
 また、物語の序盤で隊長を務める敵の重戦士が、バーラム王と妖魔がなぜ手を組んだのか理解しきれぬと苛立ちをあらわにしています。同じバーラム軍の中でも情報格差が生じているのでは? とふと思うシーンでした。

 そして覇王バーラムは歴戦の戦士です。彼が特段何者にも影響を受けずにいたのならば、魔術師にあれだけの裁量を与えるでしょうか。人知を超えた妖魔の力に度々軽率にアクセスし、既存の体制を揺るがしかねない事実を散々知っている、あの魔術師に。
 これらの違和感は、魔術を軍事の要に加えることを勧める戦略アドバイザーとしてか、強大な妖魔の力へアクセスをちらつかせる進言役として、魔術師がバーラム王の隣に離れがたく存在していたことの表出なのではないでしょうか。
 ただ、そもそもそんな発言権をいったいどこで手に入れた? という話になります。魔術師は危険性をはらむマイノリティ。戦力として重宝すれど、彼らにそんな政治力があるとは思えません。ましてや覇王肝いりの戦士で構成された軍事に口を出すことなどできるのでしょうか。
 そこで一つの可能性を考えてみたいと思います。3で登場した「天蓋炎獄」という魔法についての少し穿った見方です。

3.魔術師の立場向上のきっかけ? 軍用魔法「天蓋炎獄」

 デビルフォースシリーズにおいて、魔術師たちは敵味方関係なく同じ魔法を使用します。名称もエフェクトも効果も同一のため、この世界の魔法は理論が統一・共有されているものと思われます。
 そして掲題の魔法「天蓋炎獄」ですが、これは明らかに、かなり大規模な作戦における軍事利用を想定して開発されたことを思わせる魔法です。

 そう考える理由の一つ目は、効果範囲の広さ。なるべく多くの敵を巻き込み、味方の戦士の仕事を楽にすることが期待されています。
 二つ目は魔術師が敵の密集地に特攻する必要があること。防御力の弱い魔術師を効果的に敵地に送り込むためには、道を切り開き盾役となる自軍戦士が多数必要です。
 三つめは、この魔法が真価を発揮するのは平野部での大規模な戦闘であること。魔術師が機動しやすく、彼らのフォーローを自軍戦士がしやすく、多くの敵を誘い出し魔法に巻き込みたいとなると、入り組んだ山道や細い街道、橋を渡る必要がある場所などは運用に不向きです。本来であれば、敵の動きが制限されるこのような場所で後方支援に徹するのが彼ら魔術師の活躍の仕方でした。その点で天蓋炎獄は画期的かつ常識破りな魔法なのです。常に守られるべき支援要員の魔術師が、敵地の只中に突っ込んでいくわけですから。

 そしてゲーム本編において、アースギルフはギアナ領内のダリラ平原に事前に布陣し決戦開幕を告げるのです。
 レニスたちはこのとき別動隊として山地を進軍したので、この魔法が本格運用される場面に出くわさなかったのかもしれませんが、この時彼らが戦ったバーラム軍の魔術師たちはちょうど天蓋炎獄を覚えるレベルに達していました。

 そして2までは無かったこの魔法が一体いつ・どこで開発されたのかを考えると、大陸制覇に向けて戦力増強を目指す軍事大国、アースギルフ王国だったのではと思わず考えてしまいます。ちなみにラスボスのアズラーンが使う範囲攻撃魔法と演出が割と似ているので、邪教徒による妖魔王研究の成果の一つだったり、由来はそこなのかもしれません。
 つまりアースギルフの魔術師たちは、軍事における魔術の効果的な運用の提案と、大規模な作戦を想定した魔法の新開発を餌にバーラムに取り入り、然るべき立場を得たのちに、妖魔の力さえ戦争に利用することを進言したのではないでしょうか。
 自分たち魔術師の力を知らしめながらも妖魔の力を借りようとするのは、自らの力不足を認めているようで少し矛盾を感じるかもかもしれません。しかしこの天蓋炎獄戦法、ゲームをプレイした方ならご存じだと思いますが、実際に期待通りの効果をあげるのはかなり難しいです。理屈通りに事が運べばとても効果的ですが、ともすると作戦実行のためにいらぬ犠牲や手間がかかることしばしばです。
 考えてみてください。従来の常識を覆す広範囲・高火力の魔法を軍事に取り入れてもなおその運用の難しさに直面し、目の前には「大陸制覇」という途方もない野望への道のりが続いています。戦争上手の野心家バーラムが「あと一押し」の必要性を真剣に考えるのも無理からぬことではないでしょうか。
 なお、妖魔たちの本拠地である神殿はギアナとアースギルフの国境付近の山中に位置しています。もしかすると、妖魔王復活を目論む邪教徒たちが元々ギアナ領であるこの山地を奪い取るために暗躍し、この戦争は始まったのかもしれません。もしそうならば、デビルフォース3もこのシリーズの伝統に漏れず、黒幕は魔術師なのです。

 余談ですが、バーラム軍が魔法をやけに上手く運用しているなということを、リカルドあたりは専門職として認識していそうな気がします。
 その上で、魔法に弱いキャムウェイがレニスたちに参戦表明したときに一度思いとどまらせようとした彼の心情や、結局キャムウェイと共に協力を申し出たとき彼がどんな決意をしたのかを想像すると、長年二人を応援している筆者が主に喜びます。むしろこのためにここまで考察したと言っても過言ではありません。全然余談じゃねえじゃねえか。

■シリーズの伝統、神と魔の代理戦争

 シリーズの伝統にのっとり、デビルフォース3も黒幕は魔術師だったのではないか?
 そして実は3の構図を振り返ってみると、もう一つシリーズの伝統的要素が伺えます。それが、東西に分かれた神々と妖魔の代理戦争です。

 初代デビルフォースのオープニングで語られたように、この世界は500年前、東西がそれぞれ神々サイドと妖魔サイドに分かれて大戦争をしました。決戦の舞台は大陸の中央部だったと伝えられています。
 キャンプ画面の地図を見てみると、女神の神殿を戴く主人公たちの故郷、カダスの町が東の端に描かれています。ラストダンジョンである妖魔の神殿は西端、そして妖魔サイドのバーラム軍と神々サイドの主人公たちが決戦を繰り広げたのは、両者の中央に位置するダリラ平原でした。これは500年前の神々vs妖魔の戦争の縮図にほかなりません。

 そして神々は、毎日熱心にお祈りしていたラウラを助けてはくれませんでした。レニスの怒りの矛先は妖魔の本拠地に向けられますが、この神々のスタンスもまた、このシリーズの“伝統”なのでしょうか。
 500年前、神々は味方として戦う人間たちを巻き添えにして妖魔を殲滅させることで勝利を収めました。
 今も昔も、人間は神の守護のもと、同時に彼らに対妖魔戦の駒として良いように利用されているのではないか――そんな不穏な気配も一筋目の前を過る名作。それが、デビルフォース3というゲームです。

 シリーズ全作、黒幕が魔術師。

 いや。黒幕は妖魔か、人か、はたまた神々か――

 そう問いかけたとき、このゲームは様々な声で語りかけてきてくれます。


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