音楽でご飯が食べたい。

縁もゆかりもない、その上何も無い田舎の無人駅の階段に座り込んで文庫本を読んでいた。真新しい汗が染みを作ったので、暑さに腹が立って本を閉じてしまった。

実家に帰りたいが、節約のために山の中を走るような類の路線に乗り込んだ。
大学3年の夏、1つもインターンに行かないまま、9月が終わりそう。かろうじて教員免許の取れるコースに居ることに甘んじて、何となく教師になろうとしている。どっしりと腰を据えた眼差しで、「就活してる?」と聞いてくる、「就活している」友達の目をしっかり見て、「私は教員になろうかな」と言い返すことで保たれる平穏が確かにあるせいで、「音楽でご飯が食べたいです」と言う勇気がない。

音楽でご飯が食べたいです。

どうしてもBluetoothの無線イヤホンは、音が聴こえなくなってしまう呪いにかけられているようなので、白くて邪魔くさい有線イヤホンを必死に耳に押し込んで音楽を食べる。
そうしているうちに、無人駅にワンマン運転の電車がゆっくりと歩み寄ってきた。耳元でカネコアヤノが突き刺すように歌っている。朗々と何かに抵抗するようなその声に、色んな夢を見ながら、音楽でご飯が食べたいと思った。

21の夏、テキトーにnoteを始めます。

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