試される大地から(2020冬) 北海道「3回裏」の攻防
北海道の新型コロナの新規感染者数は、11月20日の「304人」をピークに低下傾向にある。
いち早く冬が訪れる北海道に、いち早く「第3波」はやってきた。医療機関などでのクラスターが多発し、特に旭川では医療崩壊の瀬戸際に追い込まれた。あまり表立って語られることはないだろうが、壮絶な現場の疲弊が思いやられる。
北海道では、11月から矢継ぎ早に追加の対策を繰り出した。これが奏功し、札幌での市中感染が減少。その後も医療機関でのクラスターを抑え込むのに時間を要したが、12月に入ってようやく減少傾向をはっきり見ることができるようになった。
「時短要請」の影響は大きく、すすきの地区の飲食店だけでなく、市内の多くの飲食店が営業時間の短縮や休業を行なった。おそらく開けても客が来なくなってしまったのだろう。
これによって、リスクの高い「接待を伴う飲食店」の利用や、(特に大人数での)(飲酒を伴う)「会食」の機会が減ったことは間違いない。すすきの地区の人出が減ったことも示されている。
(第19回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(12月22日))
※時短要請は11月7日(薄い赤)の時期に開始
実際、繁華街や飲食の場でのクラスターは大きく減り、市中での感染者も減少した。
(一部、対策不徹底の飲食店でクラスターが発生してしまったが…)
専門家の分析による北海道の状況
厚生労働省の第19回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(12月22日)によると、感染状況の分析としてこのようなことが書いてある。
今から思えば、対策をもっと早く打てばここまで大きく、長引かずに済んだのではないかとの思いもあるが、これでも日本の中では早く対策ができた方だと評価されているようだ。
他都市の様子と比べてみる。
まとめると
各地の代表的な繁華街の人流 & 実行再生産数(Rt)の推移
すすきの↘️ 北海道のRt↘️(1以下に減少…新規感染者数減少傾向)
栄 ↘️ 愛知県のRt↘️(1付近に微減)
ミナミ ↘️ 大阪府のRt↘️(1付近まで減少)
歌舞伎町➡️ 東京都のRt➡️(1以上で減ってない❗️)
もちろん、「早く波が来た」分対策も早いのだが、波の位相を考慮しても北海道は早く対策を打てた方だったようだ。っていうか東京!!
Googleの予測と実際
これは、11月17日にGoogleが公表した28日間の新規感染者の予測と、実際の値を比較した図である。
北海道、東京、大阪、全国の同様の図を早野先生のtwitterから拝借する。
(https://twitter.com/hayano/status/1342954776728768513?s=20)
11/17のオレンジ色の予測を大阪、東京、全国で見比べると、強い対策を敷かなかった「東京」や「全国」の結果は、ほぼ予測通りだったといえる。
北海道と大阪は、望ましくない未来に向かう道から、辛うじて舵を切ることができた。
まあ、このGoogle予測、日によってコロコロ変わるのと、時々ノイズに影響されたと思しき、極端に乱高下する予測を示すことがある。
「何もしないとこれくらい増える」の指標として適切そうなものを後で選ぶという人間臭い恣意的な読み方をしなければならず、かなり限界はあるのだが。
ただ、12/23予測の赤い線のように、対策を止めて、北海道で緩やかに再上昇…にならなければ良いなと思う。東京と全国は、このままだと赤い線に沿って上昇してしまうことを心配している。
北海道の「第3波」
当初、北海道での感染拡大の中心は、すすきの地区の「接待を伴う飲食店」だった。それが全てでないとはいえ、割合からみて圧倒的に多かった。
(11月7日の記者会見の様子)
今から思えば、対策をもっと早く打てばここまで大きく、長引かずに済んだのではないか。「11月で抑え込む」という目標は達成できなかった。(確かに「新規感染の拡大」は止まったが……)
今から思えば、「すすきの地区の時短要請」は「すすきの地区」に限る意味があまりなかった。(どうせ市内全域で客が減るのだから。補助金の支給範囲を狭める意味はあったかもしれないが…)
今から思えば、「すすきの地区」で括るより「接待を伴う飲食店への休業要請」の方が感染抑制には効果的ではなかったか。それに「すすきのは危ない」という偏ったイメージ、スティグマ(負の烙印)を防ぐことができたのではないか。
それよりは、普通の飲食店に関しては、間隔を空けるなどの対策を徹底しつつ、少人数での会食で利用し続けてもらうほうが経済的打撃の抑制とクラスター防止の両立を図れて良かったのではないか。今思えば、だが。
とはいえ、10月下旬の時点で、強い対策を要請して理解を得られただろうか。
とはいえ、最初から「接待を伴う飲食店」を「狙い撃ち」するような対策を取れただろうか。ただでさえ「夜の街」バッシングで疲弊していた中で。
丁寧に考える新型コロナ
「丁寧に考える新型コロナ」(光文社新書)という本を最近読んだ。
ダイヤモンド・プリンセス号に乗船してYouTubeで物議を醸した感染症の専門家・岩田健太郎氏の著書である。
我々素人にもわかりやすく、勉強になる内容、ときにくだけた語り口で読みやすく、なのにとても丁寧に書かれた本だった。なんというか、インターネットに入り浸る人間と親和性の高い言葉づかいだった。
いろいろと勉強になるし、巻末100ページにもわたる岩田x西浦特別対談も読み応えがあった。
生活しながら勉強・改善・最適解探し
対談は少し落ち着いている時期の議論だったけど「今は勉強するフェーズだ」「できるだけ楽をして感染症を防ぐ最適解探し」という話がとりわけ印象的だった。
GoToトラベルも「(感染の)種を撒くことになるが」「愚かなことをしているのでなく」「これを機会に安全に移動する方法を含めて学ぶ」という話をしていたそうだ。
「感染を防げたガイドラインも、防げなかったガイドラインも、生活をしながら改善していく」。あらゆる分野がそうで、まさにそれが夏以降の戦いだった。
北海道での、矢継ぎ早な対策の追加も、勉強しながら最適解を探す一環だったと思えば納得がいく。
最初から強い対策を取れば感染抑制には絶対良いけど、それが受け入れられるとは限らないから。
感染者数を十分に減らした状態を前提として、GoToトラベルやGoToイートもやりながら、接待を伴う飲食店も開きながら、Rt≒1前後に抑える「落とし所」はどこかにあるはず。
それを簡単に見つけるほど人類は器用ではないけれど、近づけた、はず。
例えば、GoToイートも、開始当初はポイントの加算上限が「10人分まで」だった。
後から加わった、「4人以下」という新たな適用条件や、「会食は4人以下」という数値目標は、絶対条件ではないものの、感染防御と社会経済活動の両立の最適ポジションにより近づいた目標だと思う。残念ながら、一部の人たちの間では守られていないようだが…
また、GoToトラベルも、条件の見直し(大人数でコンパニオンを呼ぶような旅行は推奨しない等)を重ねながら、感染拡大地域で機動的に除外・再開を行うことを前提に(これ自体は夏のうちから専門家は言っていたはずだが… 10月の本格始動時までにこの仕組みを実装していなかったのは失態である)実施するのが良い。
観光地の冷え込みをいつまでも放置しておくわけにはいかない。
観光は地方の経済を支えているし、人々の豊かな人生のために絶対に必要だから。
「接待を伴う飲食店」だって、いつまでも閉め続けるわけにはいかない。
居酒屋、ラーメン屋、バーにクラブ、キャバクラやホストや"接待を伴うお風呂屋"に至るまで、混沌とした「夜の街」は、都市の文化の豊かさの一角を担ってきたはずなのだから。
3回裏の攻防
緊急事態宣言が解除された頃、ある専門家は「野球に例えれば、まだ1回裏が終わったところ」だと言った。
北海道は、第3波を抑える段階、「3回裏」の戦いを進めている。ところが、ここへきて繁華街で新たなクラスターが発生するなど、予断を許さない状況になっている。年末年始の人の移動も心配だ。
「3回裏」を抑え込んで経済活動を拡大するのか、それとも攻めきれないままアウトを取られて「4回表」になだれ込んでしまうのか。
北海道の冬はこれからが本番。初詣も雪まつりもない、特別な冬がやってくる。
追記1 GoToトラベルについて
GoToトラベルの全国一律停止が決まった。全国一律はやりすぎな気もしたが、年末年始に大都市から地方への拡散を防ぐという意味もあることは理解する。
一方で、GoToトラベルを止めるだけでは繁華街での拡大は止まらない。特に時短要請の効果が出ていない東京での追加の対策が望まれる。
GoToトラベルは止めなければいけなかったが、GoToトラベルだけを槍玉に上げても意味がないのだ。
追記2 感染力の強い変異種について
新型コロナウイルスの「感染力が強い」変異種が見つかった。困ったことである。
まず、イギリスで見つかったということが、イギリスが発信源とは限らない点には注意したい。
……それを可能にしたのは科学技術の進歩と、世界的なデータの共有です。英国は変異したウイルスの発祥地のように思われるかもしれませんが、変異したウイルスが広がる前に警戒を呼びかけられたことで、むしろ称賛されるべきことです。
それにしても、感染力が強い、再生算数を0.4押し上げるとなると、今までの対策では効かなくなってしまうかもしれない。せっかく頑張って落とし所を探っていたのに、戦略の変更を迫られてしまうかもしれない。悲しみ。
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