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【年金】繰下げの有無で支給額の合計が一致する月の計算方法:計算シート付

はじめに

今回の記事は年金の繰下げ支給についてです。年金では支給を繰下げ(年金の支給開始月を遅らせる)、年金支給額を増額する制度があります。繰下げした方が支給額は増えるため、必ず繰下げした場合の支給額の合計が繰下げない場合よりも大きくなる月(元を取る月)が存在します。そこで今回は、年金支給を繰下げした場合、支給金額の合計が繰下げしない場合の支給金額の合計よりも大きくなる月の計算式と計算方法について解説します。本記事では、[1]物価を考慮せず、支給額が一定、[2]物価を考慮し、支給額が一定、[3]物価と支給額の増減の両方を考慮する場合の計3通りの計算方法について紹介します。

※注意事項※
・著者は年金の専門家ではなく、本記事は必ずしも正確性を保証するものではございません。
・本来年金は偶数月に支給されますが、計算の都合上、毎月支給としています。
・無断転載を禁止します。
以上、ご理解頂いた上で読者様個人の責任でご利用頂くことを予めご承知おきください。
誤記載、計算間違いなどがあればコメント頂けますと幸いです。

1. 前置き

以下のように文字を定義します。

$${I}$$ :毎月の支給金額
$${r}$$ :1ヶ月繰下げた場合の増額率※
$${\pi}$$ :物価上昇率 = インフレ率
$${d}$$ :支給金額の増減率(繰下げとは無関係に増減するもの)
$${x}$$ :繰下げた月数(支給を遅らせた月の数)
$${y}$$ :繰下げた場合と繰下げない場合で、支給額の合計が一致する月(繰下げない場合の支給開始月 $${=0}$$ )

※例えば増額率 $${r=0.007(=0.7\%)}$$ の場合、支給金額が $${10}$$ 万とすると、1ヶ月繰下げる毎に $${0.007(=0.7\%)}$$ の割合で増額するので、1年繰下げした場合、支給金額は$${10\times(1+0.007\times 1 \times 12 )=10.84}$$ 万となります。

2. 計算シート

※読者様個人の責任でご利用頂くことを予めご承知おきください。

xlsxファイルですが、google の sheets でも使用できます。

3. 計算式まとめ

[1]物価を考慮せず、支給金額を一定とした場合

[ $${x}$$ ヶ月繰下げた場合の支給額の合計 ] $${=}$$ [ 繰下げない場合の支給額の合計 ] となる月を $${y}$$ とすると、以下のような式になります。

$$
\begin{aligned}
y&=\dfrac{1}{r}+x-1
\end{aligned}
$$

[2]物価を考慮し、支給金額を一定とした場合(名目の支給額が一定)

[ $${x}$$ ヶ月繰下げた場合の支給額の合計 ] $${=}$$ [ 繰下げない場合の支給額の合計 ] となる月を $${y}$$ とすると、以下のような式になります。

$$
\begin{aligned}
y&=\log_{(1+\pi)}\left[ \dfrac{rx(1+\pi)^{x-1}}{1+rx-(1+\pi)^{x}} \right]
\end{aligned}
$$

[3]物価上昇、支給金額の変動を考慮する場合(名目の支給額が変動)

[ $${x}$$ ヶ月繰下げた場合の支給額の合計 ] $${=}$$ [ 繰下げない場合の支給額の合計 ] となる月を $${y}$$ とすると、以下のような式になります。[2] の場合と同じ式になります。

$$
\begin{aligned}
y&=\log_{(1+\alpha)}\left[ \dfrac{rx(1+\alpha)^{x-1}}{1+rx-(1+\alpha)^{x}} \right]
\end{aligned}
$$

[1] 物価を考慮せず、支給金額を一定とした場合の計算式の解説

[1]-1 繰下げしない場合

毎月の支給額は $${I}$$ となります。よって、 $${y}$$ ヶ月後までに計 $${y+1}$$ 回支給されることから、支給額の合計は $${(y+1)I}$$ となります。

[1]-2 $${x}$$ ヶ月繰下げる場合

毎月の支給額は $${I(1+rx)}$$ となります。繰下げしない場合に支給される月を $${0}$$ ヶ月として、$${x}$$ ヶ月から $${y}$$ ヶ月までに計 $${y-x+1}$$ 回支給されることから、支給額の合計は $${I(1+rx)(y-x+1)}$$ となります。

[1]-1 と [1]-2 で計算した支給額の合計が一致することから、以下のような式が導かれます。

$$
\begin{aligned}
(y+1)I&=I(1+rx)(y-x+1) \\
\end{aligned}
$$

上式を整理し、$${y=}$$ の形に変形すると、以下の式が導かれます。

$$
\begin{aligned}
y&=\dfrac{1}{r}+x-1
\end{aligned}
$$

[2] 物価を考慮し、支給金額を一定とした場合の計算式の解説

物価上昇と支給額については支給額が変わらず、物価が2倍になった場合は、実質的に支給額が半分になったと考えます。例えば物価上昇率が月間で $${0.5\%}$$ の場合には、支給額が一定であると仮定すると、1ヶ月後は $${1/1.005 \fallingdotseq 0.995}$$ 倍、2ヶ月後には $${1/(1.005\times1.005) \fallingdotseq 0.990}$$ 倍、 1年後には $${1/1.005^{12} \fallingdotseq 0.942}$$ 倍と $${6\%}$$ 程度目減りします。

以上を数式で表すと、物価上昇率を $${\pi}$$ として、$${x}$$ ヶ月後の支給額は $${\dfrac{1}{(1+\pi)^{x}}}$$ 倍となります。

[2]-1 繰下げしない場合

支給金額は、支給開始月を 0 とすると 0ヶ月で $${I}$$ 、1ヶ月で $${\dfrac{I}{1+\pi}}$$ 、$${y}$$ ヶ月後は $${\dfrac{I}{(1+\pi)^{y}}}$$ となります。
支給額の合計を $${S_{I1}}$$ とすると、$${S_{I1}}$$ はこれらを足し合わせ、以下のようになります。

$$
\begin{aligned}
S_{I1} =I+\dfrac{I}{1+\pi}+ \cdots +\dfrac{I}{(1+\pi)^{y}}
\end{aligned}
$$

次に、 $${S_{I1}-\dfrac{S_{I1}}{1+\pi}}$$ を計算することで、$${S_{I1}}$$ の式を簡略化します。

$$
\begin{aligned}
S_{I1}-\dfrac{S_{I1}}{1+\pi}
&=I+\dfrac{I}{1+\pi}+ \cdots +\dfrac{I}{(1+\pi)^{y}}
-\left\{ \dfrac{I}{1+\pi}+ \cdots +\dfrac{I}{(1+\pi)^{y}}+ \dfrac{I}{(1+\pi)^{y+1}} \right\} \\
&=I-\dfrac{I}{(1+\pi)^{y+1}} \\
\end{aligned}
$$

以上より、$${S_{I1}}$$ は以下のように表せます。

$$
\begin{aligned}
S_{I1} &= \dfrac{I-\dfrac{I}{(1+\pi)^{y+1}}}{1-\dfrac{1}{1+\pi}} \\
&=I \dfrac{1+\pi-\dfrac{I}{(1+\pi)^{y}}}{\pi} \\
\end{aligned}
$$

[2]-2 $${x}$$ ヶ月繰下げる場合

支給金額は、繰下げない場合の支給開始月を0とすると $${x}$$ ヶ月から支給されます。その金額は $${I(1+rx)}$$ ですが、物価を考慮した実質的な金額は $${\dfrac{I(1+rx)}{(1+\pi)^{x}}}$$ となります。また、$${y}$$ ヶ月後は $${\dfrac{I(1+rx)}{(1+\pi)^{y}}}$$ となります。

支給額の合計 $${S_{I2}}$$ は [2]-1 と同様にして、以下のようになります。

$$
\begin{aligned}
S_{I2} =I\dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{x}}+ \cdots +I\dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{y}}
\end{aligned}
$$

$${S_{I2}}$$ についても [2]-1 と同様にして、式を簡略化します。

$$
\begin{aligned}
S_{I2}-\dfrac{S_{I2}}{1+\pi}
&=I\dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{x}}+ \cdots +I\dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{y}}+ \cdots +I\dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{y}}
-\left\{ I\dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{x+1}}+ \cdots +I\dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{y+1}} \right\} \\
&=I\dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{x}} - I\dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{y+1}} \\
\end{aligned}
$$

以上より、$${S_{I2}}$$ については以下のようになります。

$$
\begin{aligned}
S_{I2} &= \dfrac{I\dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{x}} - I\dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{y+1}}}{1-\dfrac{1}{1+\pi}} \\
&=I(1+rx) \dfrac{\dfrac{1}{(1+\pi)^{x-1}}-\dfrac{1}{(1+\pi)^{y}}}{\pi} \\
\end{aligned}
$$

$${S_{I1}=S_{I2}}$$ を満たすことから、$${y}$$ を計算します。

$$
\begin{aligned}
I \dfrac{1+\pi-\dfrac{I}{(1+\pi)^{y}}}{\pi}
&=I(1+rx) \dfrac{\dfrac{1}{(1+\pi)^{x-1}}-\dfrac{1}{(1+\pi)^{y}}}{\pi} \\
1+\pi-\left(\dfrac{1}{1+\pi} \right)^{y}
&= \dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{x-1}} - \dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{y}} \\
\dfrac{rx}{(1+\pi)^{y}}
&= \dfrac{1+rx}{(1+\pi)^{x-1}}-(1+\pi) \\
&= \dfrac{1+rx-(1+\pi)^{x}}{(1+\pi)^{x-1}} \\
(1+\pi)^{y}&=\dfrac{rx(1+\pi)^{x-1}}{1+rx-(1+\pi)^{x}}\\
\end{aligned}
$$

以上より、求める $${y}$$ は以下の式で表すことができます。

$$
\begin{aligned}
y&=\log_{(1+\pi)}\left[ \dfrac{rx(1+\pi)^{x-1}}{1+rx-(1+\pi)^{x}} \right]
\end{aligned}
$$

[3] 物価を考慮、支給金額の変動を考慮した場合の計算式の解説

次に、支給金額の変動を考慮する場合について考えます。例えば、変動率が月間で $${0.5\%}$$ の場合には、1ヶ月後は $${1.005}$$ 倍、2ヶ月後には $${1.005 \times 1.005 \fallingdotseq 1.01}$$ 倍、 1年後には $${1.005^{12} \fallingdotseq 1.06}$$ と $${6\%}$$ 上昇します。
以上を数式で表すと、支給額の変動率を $${d}$$ として、$${x}$$ ヶ月の支給額は $${(1+d)^{x}}$$ 倍となります。

繰下げしない場合、[2]では $${x}$$ ヶ月後の支給額は $${I\left( \dfrac{1}{1+\pi} \right)^{x}}$$ であったのに対し、 [3]では $${I\left(\dfrac{1+d}{1+\pi}\right)^{x}}$$ となります。

ここで、$${\dfrac{1+d}{1+\pi}}$$ を強引に $${\dfrac{1}{1+\alpha}}$$ の形に変形し、上式を簡略化します。

$${\dfrac{1+d}{1+\pi}}$$ の変形を以下に示します。

$$
\begin{aligned}
\dfrac{1+d}{1+\pi}
&=\dfrac{1}{1+\dfrac{1+\pi}{1+d}-1} \\
&=\dfrac{1}{1+\dfrac{1+\pi-1-d}{1+d}} \\
&=\dfrac{1}{1+\dfrac{\pi-d}{1+d}} \\
&=\dfrac{1}{1+\alpha} \\
\end{aligned}
$$

よって、$${\alpha =\dfrac{\pi-d}{1+d}}$$ となります。$${\alpha}$$ は賃金変動を考慮した等価的なインフレ率と考えることができます。

以上より、[3] は [2] の式の $${\pi}$$ を $${\alpha=\dfrac{\pi-d}{1+d}}$$ に置き換えたものとなり、求める月 $${y}$$ は以下のようになります。

$$
\begin{aligned}
y&=\log_{(1+\alpha)}\left[ \dfrac{rx(1+\alpha)^{x-1}}{1+rx-(1+\alpha)^{x}} \right]
\end{aligned}
$$

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