放射線取扱主任者を目指そう〜総論②〜
まずは講義に入る前に、放射線について総論的な話をしていこっかな。
放射線の定義については大丈夫そう?教科書とか国語辞典に書いてある定義をそのまま言ってみたら、「高いエネルギーを持って流れる粒子または電磁波の総称」って感じ。「放射線」って一言で言っても、直接的または間接的に物質を電離(=原子核の周りにある軌道電子を引き離す)・励起(=原子核にエネルギーを与える)する電離放射線とそれ以外の紫外線や電磁波みたいな非電離放射線の2つに分けられてね。
このうち一般的に「放射線」って言われてるものは電離放射線の方だね。
放射線の分類について説明する前に、まずは放射線の「線量」の概念について話しとこうかな〜。「線量」って一言で言ってもたくさんあってね。まず1つ目に紹介するのは吸収線量。これは、(すべての)電離放射線を照射したときに物質1kgあたりに放射線が与えるエネルギーのことを言ってて、単位は[J/kg]または[Gy](グレイ)だね。この吸収線量に対して、放射線の種類(線質)に応じて定義された放射線荷重係数:ωRを掛け合わせたのが等価線量で、単位は[Sv](シーベルト)。さらにこの等価線量に、人体の臓器・組織ごとに定義された組織荷重係数:ωTを掛けて足し合わせたのが実効線量で、単位には等価線量と同じく[Sv](シーベルト)を使うの。
ここでは総論的な話になるから詳細は省略するけど、この3つは放射線障害のリスクを評価するときに目的に応じて使い分けられるよ。
じゃ、話を放射線の分類に戻そっか。電離放射線は物質を直接的に電離・励起する直接電離放射線と、物質の周囲にある水分子を電離・励起して出来たラジカルで物質を電離・励起する間接電離放射線の2つに分けられるんだ。
直接電離放射線は主にα線とβ-(β+)線、それから重原子核が当てはまるの。いずれも荷電粒子線だね。
ちなみに重原子核っていうのは、例えば炭素線みたいな高い運動エネルギーを持って運動する原子核を指すよ。もっと分かりやすいように、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)で使用される10B(n,α)7Li反応を例に挙げて説明するね。この反応は安定同位体のホウ素10に熱中性子を照射することで、α粒子とリチウム7原子核が放出される反応(=10B+n→7Li+α)なんだけど、このとき放出されるリチウム7原子核は運動エネルギーを持って運動する重原子核として荷電粒子線の役割を担ってるの。BNCTでは癌細胞にだけ特異的に集まる性質を持つホウ素を含む薬剤をがん患者さんに投与して、熱中性子(=0.025eV程度の運動エネルギーを持つ中性子)を照射すると、飛程(=荷電粒子が全エネルギーを失うまでに物質中を進んだ距離)が物凄く短い荷電粒子のα粒子とリチウム原子核が癌細胞内から出されて、正常組織を傷つけずに癌細胞だけに放射線を照射できるから画期的ながん治療として治験が進んでいるの。ちなみにα粒子の生体内細胞中での飛程は約40μmって言われてるんだ。1μmは1mの100万分の1(1cmの1万分の1)だね。補足するとμっていうのは接頭辞って呼ばれていて、"mm(ミリメートル)"の"m(ミリ)"と同じやつって考えたら良いかな〜。参考までにm(ミリ)は10^3(1000)分の1、μ(マイクロ)は10^6(100万)分の1、n(ナノ)は10^9(10億)分の1、p(ピコ)は10^12(1兆)分の1、f(フェムト)は10^15(1000兆)分の1になるよ。
あと、放射線では照射したときの細胞へのダメージを定量化する指標としてRBE(生物学的効果比)っていうのがあるの。これはある生物効果を起こすために必要なその放射線の吸収線量に対する、基準放射線(主に250keVγ線が用いられる)の吸収線量の比を表すよ。
例えば上にあるような生存率曲線を考えてみよっか。生存率曲線っていうのは簡単に説明すると、照射する放射線の吸収線量を横軸に、照射される細胞の生存率を縦軸に置いて放射線を照射したときの細胞の生存率の変化を表すグラフなの。
上の生存率曲線は実際に過去の放射線取扱主任者試験で出題されたグラフなんだけど、このときは線質Aの放射線を基準放射線としたときの線質Bの放射線のRBEを求める問題が出題されたんだ〜。具体的にこのときの線質BのRBEを求めるには、細胞の生存率が0.01になるときのAとBの吸収線量を見ていくのがポイントだね。Aは8Gy、Bは3Gyなのが読み取れるかな。基準放射線は線質Aの放射線だから.RBEはRBE=8/3=2.663…≌2.7になるよ。
BNCTで利用されるα粒子とリチウム原子核はいずれもRBEの高い荷電粒子線で、がん治療に対しては高い治療効果が期待できるんだ。
次は間接電離放射線についてだけど、主にX線やγ線、それから中性子が当てはまるよ。いずれも非荷電粒子線で、物質の周りを取り巻いている水分子を電離・励起してできるラジカルによって物質を間接的に電離・励起する放射線だね。
あ、そっか。ラジカルについても説明しなきゃだね。ラジカルは不対電子を持ってるっていうのが最初のポイントだね。このラジカルによる間接作用で間接電離放射線は生体内の細胞にあるDNAにダメージを与えるんだ。
①間接電離放射線が水分子を電離したとき、つまりH2O→H2O+ +e-っていう反応が起こると、電離して原子核の周りから離れた電子:e-の周囲に水分子が配位してできる水和電子:e-aqと水分子のイオン:H2O+ができるんだ。水和電子:e-aqは後で話す水素ラジカル:H・と同じ強い還元剤で、これと酸素分子が反応するとスーパーオキシドラジカル:O2・-ができるよ。
O2 + e-aq → O2・-
スーパーオキシドラジカルは強い酸化剤なんだけど、それだけじゃなくて強い毒性もあってね。このスーパーオキシドラジカルはSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)っていう酵素を加えると過酸化水素と酸素分子に不均化されるよ。
2H+ + 2O2・- → H2O2 + O2
ちなみに過酸化水素は不対電子を持ってないからラジカルじゃないんだけど、強い酸化作用があってね。上の写真で見せた基底状態の酸素分子(三重項酸素)には不対電子があるからラジカルとして扱われるんだ〜。
② 間接電離放射線が水分子を励起したときはH2O→H・ + OH・って感じで水素ラジカル:H・とヒドロキシラジカル:OH・ができるよ。
水素ラジカル:H・は強い還元剤なんだけど、逆にヒドロキシラジカル:OH・は強い酸化剤で寿命が200μsec(=0.0002秒)程度で物凄く短いの。ヒドロキシラジカルが2つ結合すると過酸化水素になるよ。
OH・ + ・OH →H2O2
ちなみに過酸化水素はグルタチオンペルオキシダーゼとかの酵素を加えると水分子と酸素分子に分解されるの。
2H2O2 → 2H2O + O2
それから生体内の細胞に(電離)放射線を照射すると、細胞内のDNAが損傷を受けるんだけど、DNAの損傷の形式には2パターンあってね。一本鎖切断と二本鎖切断っていうんだ。
生体内細胞のDNAは2本の鎖状の高分子(塩基)がらせん状に連なる形をしてるの。DNAを構成する塩基はA(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン) の4つだね。DNA内ではA(アデニン)とT(チミン)、G(グアニン)とC(シトシン)がそれぞれ結合していて、A-T結合は2本の水素結合で、G-C結合は3本の水素結合でそれぞれ結合されてるんだ。この2つのDNA鎖のうち1本を切断するDNA一本鎖切断は主にX線やγ線、β-線みたいな低LET放射線で見られる現象で、2本とも切断するDNA二本鎖切断は主にα線や重イオン線(重原子核)、中性子線みたいな高LET放射線で見られる現象なの。
あ、LETについても説明が必要かも。LET(線エネルギー付与)っていうのは線阻止能とも呼ばれてて、荷電粒子が物質中を単位距離(主に1μm)進んだときに失うエネルギーのことを言ってて、中性子(=非荷電粒子)の場合は間接作用でできた二次電子(原子核の周りの電子軌道から離れた自由電子)に対してこのLETが示されるの。LETが100[keV/μm]程度までは、LETが大きくなるほどRBE(生物学的効果比)が大きくなる傾向にあるんだけど、LETが100[keV/μm]を超えるとRBE(生物学的効果比)は低くなっていくんだ〜。
①や②で話したような(フリー)ラジカルの間接作用で生体内細胞はダメージを受けるんだけど、この間接作用を回避する方法が3つあるの。
(a)ジメチルスルホキシド等の放射線防護剤(ラジカルスカベンジャー)を使用する。
(b)酸素濃度を低くする。
(c)温度を低くして、フリーラジカルが拡散するのを防ぐ。
(b)については、酸素効果比(OER)の説明が必要だね。OERは酸素下で放射線を照射したときある生物効果を起こすために必要な吸収線量に対する、無酸素下で同じ放射線を照射したときに同じ生物効果を起こすために必要な吸収線量の比を表してるんだけど、X線やγ線みたいな低LET放射線ほど大きく(X線の場合でOER=2.5~3.0程度)、高LET放射線では小さくなる傾向があるよ。このOERは酸素分圧を大きくするとフリーラジカルによる細胞の損傷が大きくなって細胞致死効果をより高める傾向に基づいて定義されていて、酸素分圧が比較的低い領域で起こりやすくなるんだ。一般的には酸素分圧が100mmHg程度になるとほぼ飽和するって言われてるの。
例えば酸素下で細胞の生存率が0.1となるときのX線の吸収線量が2.0Gy、無酸素下でX線を照射したときに細胞の生存率が同じく0.1となるために必要なX線の吸収線量が5.0Gyだとするでしょ。このときのRBEはRBE=5.0/2.0=2.5ってなるの。
注意してほしいのは、放射線を照射した後に酸素分圧を上げても細胞の放射線致死感受性(=放射線によるダメージの受けやすさ)に変化が見られないってことかな。試験でも度々問われるから気をつけてね。
とりあえず放射線について総論的なことを話したらこんなところかな。次からは実際に放射線取扱主任者試験の過去問も出して本格的に講義をしていくね♪
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