田舎のおもいで

 両親は信州の出身。長野県の人は、「長野県」とは
言わず「信州」という。父の実家は山の中腹にあり、母の実家は竹藪の中にあった。「かぐやひめ」の挿絵を見たとき。そっくりと思った。
 父の実家には、夏休みに数回遊びに行った。寒すぎて冬休みには行かれない。
 隣家はみあたっらず、よろず屋さんが一見、山を下ったところに
あった。
 空を見上げると、無数のトンボが飛んでいた。人差し指を突き出して、腕を高く伸ばすとすぐにトンボがとまる。そーっと親指と人差し指でトンボの足をつまんだ。図鑑で見たのと同じ赤い胴体の赤とんぼや名前もわからないトンボが次々と自分の手の平で動いていた。突然産卵を始めたトンボに驚いた。。オニヤンマを見たときはお大きさと色彩のあざやかさに見とれてしまった。
 夜になると、本当に真っ暗で、外は黒一色になった。
虫の声しか聞こえない。それ以外は、「シーン」という音がするのみ。あまりの無音状態に、涙がでた。寂しすぎて。
星はっびっくりするほど大きくキラキラと光り、こっちに迫ってくる。今流行りの、タワーマンションの最上階より低く、はしご車に乗れば手が届きそう……。そんな印象だった。
年上のいとこたちとも遊んだ。 庭で長い紐を横に張って、手持ち用の花火をいっぱい吊るして一斉に点火。みんなの顔が花火に照らされキラキラしていた。火遊びしているという、小さな後ろめたさもあって余計に楽しかった。マッチが使えるように舞ったのは、この夏だった。いとこたちと、裏山に登った。よろず屋さんで、イカのお菓子とファンタのジュースを買ってから登り、中腹でおしゃべりしながら飲んで食べた。子供だけで過ごすこの時間は、解放感と少し背伸びで来た気分で特別な時間だった。
 なせファンタジュースかというと。それしか売ってなかった。
 あの時のイカのお菓子は、今もコンビニなどで見かける。見るたびに宝物に再会した気持ちになる。
 夜になると、蚊帳(かや)を吊るが、その屋根の部分に、親戚が蛍を数匹置いてくれた。この世のものとは思えない輝きに、言葉が出なかった。布団の中で仰向けのまま見ていた。
 日中には、川遊びをした。服のまま遊んだ。川辺にやや大きい石を積んで囲いを作りそこに、缶詰め、スイカ、ファンタジュースなんかを入れ冷やしておく。遊んだ後の冷えたおやつを、川辺に座っての飲んだり食べる。その間に、服は乾いてくれた。最高。
 畑には、トウモロコシがなっていた。粒は大小不揃い、並びもめちゃくちゃ、とても店頭には並べられない見た目。ゆでると芯から芋虫が出てきた。でも、おいしかった。私は毎日、朝昼版。トウモロコシを食べた。とにかく食べた。飽きずに食べた。
 あの後、あの味のトウモロコシには出会っていない。
 夏の思い出。
 



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