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2010年、夏、長岡

 押ボタン式の信号機。ボタンを押すと世界を変えてしまったような、歯車を狂わせてしまったような感覚になる。車が止まって自分が渡って。知らず知らずのうちに毎日そんなことの連続で今の自分の生活、人間関係、趣味、性格等々があるわけで。

 今から11年前。中2のとき。クラスに来た教育実習生がどうやらAKB好きで、大島優子推しだと。「ヘッ、いい歳としこいてアイドルオタクか」と思った僕はそれを面白がって実習生に悪絡みしてやろうと企んだ。
「前々からちょっと可愛いなと気になってた前田敦子。確かあの人って大島優子とライバル関係だったよな」
僕は明日から実習生に対抗できるよう、ネットで「AKB48」(前田敦子を中心に)を検索。その当時の最新曲は「ポニーテールとシュシュ」。メンバー全員水着で、まだAVすら見たことのない僕は何か"イケナイもの"のように思ってしまい、親に隠れてコソコソと見ていた。
「これが前田敦子か。大島優子より全然可愛いじゃん」
さらにその数日後に「選抜総選挙」とやらが開催されることを知る。前回1位の前田敦子と2位の大島優子、どちらが今回1位になるか。ここが一番のポイントらしい。

 翌朝、「いやぁ~!!前田敦子の方が可愛いっすね!!先生、見る目ないっすわ!!」。「前田敦子がめちゃくちゃ可愛い」というだけのあまりにも弱過ぎる武器のみで先生に立ち向かう。いきなり大島優子に牙を剥いてきた生徒に戸惑いつつも負けじと先生も対抗。「いや、優子はね…」とあれこれ論じてくれたが忘れた。よくわからなかったので、総選挙の話題に切り替え。もちろん先生は大島優子に投票しているようで、「マジっすか!?まぁ、そんなに頑張っても1位は前田敦子ですけどね」と茶化す。まぁ結果は大島優子が1位になるんですけどね。

 それからというもの、気付けば僕はネットでAKBについて調べることが日課になっていて、学校内でもちらほらとAKB好きが出没し始めていた。その頃AKBの人気はうなぎ登りで、敵なし状態。僕ら世代はドンピシャだったわけで。当時僕は野球部で、部内にもAKBブーム到来。ファーストは高橋みなみ推し、セカンドは大島優子推し、センターは小嶋陽菜推し、僕は前田敦子推し。友達同士でクラスの好きな女の子が被らないように、なんとなく上手い具合に推しメンが分かれた。「たかみなとこんなデートをする」「彼女の敦子と最近は」などと交換妄想日記なんかもしていた。懐かしいなぁ。その日記は実家の僕の部屋でたいせつに保管しています。

 あっ、もうとっくに優子推しの教育実習生は実習期間を終えていなくなってます。

 夏休み、友達の家に泊まって男4人で夜な夜なAKBのMVを漁ったこと。本屋さんでドキドキしながら「水着サプライズ」という写真集を買いに行って、レジに出すときに表紙は水着のメンバーしか載ってないからと裏表紙を上にしたらそっちも全員水着だったこと。敦子、優子、たかみなが出た食わず嫌いを親にAKB好きを悟られまいと「いやぁ、この番組面白いよなぁ」とか言いながら釘付けになって見たこと(わざわざ録画して翌朝学校に行く前に見ていたので、その時点で母には好きだってことがバレバレだったそうです)。
あの頃はなんかずっとAKBのことばっか考えてましたね。なんせちょうど「ヘビーローテーション」の頃ですから。後追い世代のファンに「あの頃をリアルタイムで見れてたなんてすごく羨ましい」っていうまさにそのときにハマっちゃったわけですから。

 一人の教育実習生に対抗するために調べただけで自分の青春の一部、いや、ど真ん中になるなんて。あの先生に僕はボタンを押されたわけです。そっから止まんなくなっちゃったんだから。どうしてくれんのよ、先生。翌年から6年間総選挙に投票するようになります。もちろん握手会にも行きました。優子の顔、めちゃくちゃちっさくて可愛かったっす。AKB初の東京ドームライブも観に行きました。敦子が卒業してからもまだまだ好きで、ノースリーブスとかNMB48とか派生ユニット、姉妹グループも好きになっちゃって。公式ライバルだってのに乃木坂46も当然のように好きになって。紆余曲折ありながらも今は日向坂46にどっぷりですわ、先生。

あなたは今どこで何をしているんですか?先生にはなれましたか?
まだ優子の好きですか?まだAKBは好きですか?
そういえば先生の名前、何でしたっけ?

あなたは確かに僕の世界を変えました。歯車を狂わせました。


 ってなことをこの間AKBの曲を聴いていたときにふと思いました。もうすぐ25になる夏に、僕は今もあの頃の想い出にすがるように包み込まれるように。

夏だからあの頃に浸りたくなっちゃいました。
お付き合い頂き、ありがとうございました。

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