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【割安度分析】AT&T:メディアコングロマリットWarner Mediaのスピンオフの影響 Vol.2

*本記事は三部構成です。
*財務諸表はリンク先、Key Ratio→Full Key Ratios Dataで確認できます。
T (AT&T Inc) (morningstar.com)
*本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
*本記事は2021-11-28に執筆されたものを再掲しています。

【株式分析】メディアコングロマリットWarner Mediaのスピンオフについて No.1:スキームの概要|かず|note

【株式分析】メディアコングロマリットWarner Mediaのスピンオフについて No.3:Discovery銘柄分析|かず|note

ビジネス

世界初の実用的電話の発明で知られているグラハムベルが興した世界初の長距離通信会社が前身となっており、現在は米国最大の電話会社。携帯、固定電話、インターネット接続などのインフラを担っています。傘下にDirecTVやWarner Mediaを持ち、テレビ番組や映画の制作、配給も行っています。
投資家向けには通信事業による安定したキャッシュフローと高い配当性向が魅力の企業です。

成長性

Warner Mediaの成長性はアナリストによると、2025年まで売上高年間5%が見込めるとのことです。これは立ち上げたばかりのHBO MAXの貢献によるものでしょう。

一方、残るAT&Tは公式のプレスリリースによると売上高の成長は一桁前半、EPSは年率5%程度の成長を予測されています。

Warner Mediaの規模

AT&Tに占めるWarner Mediaの規模は売上高で17%程度です。営業利益に占める割合は30%近くあり、成長性のあるWarner Mediaが稼ぎ頭になりつつあったことがわかります。

AT&T売上高(USD Billion)


バリュエーション

株価

執筆時点では株価24.6$です。
チャートを見ると2002年から現在まで株価23-43$のレンジ内に収まっています。2021年5月にWarner Mediaのスピンオフを発表してからは下落の一途を辿っています。現在の株価水準はリーマンショック時と同じです。

株価チャート(Trading Viewより)

スピンオフで貰える株式数

AT&T株主は新会社の株式の71%を貰うことができますが、AT&TとDiscoveryで発行済み株式数が違います。つまり、それぞれの会社を100株買っても、Discoveryの場合は新会社株29株に変換されますが、AT&Tは71株貰えるわけではありません。

 Discoveryの発行済み株式数697Mは全て新会社の株式29%分となるので、仮にこれをベースとして新会社の総株式数を2403M(million)とすると、1706MはAT&T株主のものです。
これをAT&T発行済み株式数7.14B(Billion)で割ると、AT&T一株当たり新会社株がいくつ貰えるのか計算できます。

1706M/7140M=0.23

従ってAT&T一株あたり、0.23株(23%)を貰えることがわかりました。

配当

2020年の配当額は一株当たり2.08$、現株価での利回りは8.4%。
AT&Tは安定したキャッシュフローを株主に積極還元しており、過去10年間増配を続けていました。

 非常に魅力的な利回りですが、残念ながらAT&TはWarner Mediaのスピンオフと共に配当の減額を発表しています。プレスリリースによると、スピンオフ後、$20B+αのフリーキャッシュフローの40%を配当とするそうです。

具体的に一株当たりいくら支払われるのかを計算してみましょう。
最低額の$20Bの40%は$8B、発行済み株式数は7.14Bなので、一株当たり1.12$が割り当てられます。これは現株価での利回り4.5%です。

ちなみに、2020年の配当に総額いくら支払ったのか計算すると、

一株当たり配当$×総発行株式数=配当総額
$2.08✕7.14B=$14.8B (過去5年のfcfに対する配当割合は55-65%)

競合との比較

下表はライバル企業であるVerizonとの主要指標の簡単な比較です。

競合との主要指標比較

通信事業の売上はほぼ同じぐらいの規模なのですが、AT&Tが債務に苦しんでいるのがわかります。これは近年、AT&TがWarner MediaやDirecTVなど買収を繰り返した結果であり、それら投資に見合うリターンを出すのに苦労しているという一面が見えてきます。下図では過去10年間で長期負債が3倍の$155Bまで伸びているのがわかります。

これまで、年間配当金約$15Bを出していますから、過去7-8年は借金を負って配当金を払ってきたに等しく、ビジネスで全く価値を生み出せていないことになります。

ちなみにVerizonの現在の配当利回りは4.87%です。

負債総額の推移(Macrotrendsより)

目標株価の算定

ビジネスの規模がほぼ同等のVerizonの配当利回りと同じ水準で取引されるとすれば、スピンオフ後のAT&Tの株価水準は23$前後が妥当な価格となります。

更にスピンオフ後に新会社株式を23%もらえるため、現在のDiscovery株価$24を元に計算すると

23$+24$×23%=28.5$(キャピタルゲイン:15%)

楽観的な仮説で別記事(No.3)のようにDiscoveryの株価が過小評価されているとすれば、上記の計算は以下のように修正できます。

23$+44$×23%=32.9$(キャピタルゲイン:33%)

結論

株価がレンジの最高値である43$から大きく下落した24.6$の現時点で、もしも会社の価値が以前よりも増しているならば、配当で8%以上が約束されていながらキャピタルゲインもいずれ狙え、更にWarner Mediaの新会社株も貰えるという非常に魅力的なディールでした。

しかし現実には成長が今後見込ず、大きな負債も抱えるAT&Tの株価を支えていたのは、その配当の気前の良さによるものであり、減配を発表した以上投資家による強い売りを浴びているのは得心のいくところです。

また、新会社WarnerDiscovery設立時にはAT&T株主による新株式の売り浴びせが起きる可能性もあります。

割安水準であるとの結論ですが、その不安定さや競合と比較した負債の大きさの割りには利益の幅は狭いと結論付けます。

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